四月といえば、新しい出会いの季節。出会いの数だけコミュニケーションがあるわけで、見知らぬ人とどう付き合いをしていくのか、誰もがアンテナを光らせている時期でもあります。
相手がどんな人だか分からない、けれども人物像を知りたい……という初対面の時期に、相手の正体を確かめる方法はたくさんありますが、そのなかでも簡単なわりに便利なものに、“ありがとう”が言えるか否か、というテスト手法があります。
方法はとても簡単。
まず、この際なんでも良いので、相手に気を遣ってみましょう。新歓歓迎会あたりなら、幾らでもチャンスがあるはずです。その際に、こちらの気遣いや行動に対して相手が軽く恐縮したり“ありがとう”と答えてくれたり、とにかく何かリアクションを返してくるかどうか、チェックしてみましょう。
こういう時に、反応のある人と反応の無い人では、まず間違いなく、後者のほうが意思疎通が難しい人です。意思疎通が難しいということは、必ずしも無能だというわけではありませんが、共同作業をする際のコミュニケーションのコストが高くつく可能性は高そうです。“ありがとう”の不在は、しばしば、意思疎通の難易度の高さを示唆します。
“ありがとう”のような意思疎通の問題は、敏感になりすぎるのもまずいですが、鈍感すぎるのもやっぱり考え物です。“ありがとう”という一言の不在は、積もり積もれば意外と精神衛生にキツく来るものですから。
“ありがとう”が言えない人は、大きく分けて二種類
さて、これから一年間の仕事の相棒が“ありがとう”が言えないタイプだと判明してしまったら、どうすればいいんでしょうか?天を仰いで絶望するしかない?しかし、諦めるにはまだ早いです。
“ありがとう”が言えない人には二種類あって、付き合い方を覚えると案外うまく付き合えるタイプと、付き合い方を覚えてもやっぱりストレスフルなタイプの、二種類があります。ここでは仮に“天然型”と“お坊ちゃま/お嬢ちゃま型”とでも分類しておきましょうか。
【1.天然型】
こちらはいわゆる“天然”タイプ。
このタイプの人は、何かをしてもらっても“ありがとう”と言えないどころか、何かをしてもらったと気付くこと自体が稀です。そのかわり、彼ら/彼女らが何かをしてくれる時にも、ちっとも感謝や謝罪を求めようともしません。他人に何かをやって貰ったとか、他人に迷惑をかけたとか、そういうことを感じ取るセンサーの感度じたいが、平均的な人とは違っているのかもしれません。
こういう人には、細かな気配りはほとんど無用です。むしろ気を遣えば使うほど、神経の無駄遣いをするだけです。なにせ“天然”なんですから、ちょっとした気遣いをしたところで当人のセンサーの感度には引っかからないので反応は返って来ません。
そのかわり、この手の天然の人には気兼ねする必要もありません。天然な人は、“ありがとう”を言ってくれませんが、逆にこちらが“ありがとう”を言わなくても割と平気な顔をしてくれています。また、ちょっとぐらい迷惑をかけても、恐縮するこちらにすら気付かない、ということも珍しくありません。この人達にとって、“ありがとう”や“すいません”という言葉は、よほど大きな出来事の時だけ交わされるものなのかもしれません。
天然タイプの人は、付き合い方次第では物凄くイライラするけれども、付き合い方次第では、これほど気遣いのいらないラクな相手もいません。コミュニケーションのコストを最低限まで抑えながらも、お互いに勝手なことをやりながら共存さえしていれば良いような職種の場合、むしろありがたいぐらいです。*1
【2.お坊ちゃま型/お嬢ちゃま型】
問題は、こちら。“お坊ちゃま/お嬢ちゃま”タイプ。
こちらが何かをしても“ありがとう”と答えないのは同じですが、天然型と決定的に違うのは、彼/彼女が何かしてくれた時に“ありがとう”と言わないと憤慨する点です。
なんというか、感謝や謝罪のセンサーがダブルスタンダードとでも言えばいいのでしょうか。ちょうど子どもが、ママの肩たたきをしてあげたことはいつまでも覚えているのに、ママにお弁当をつくってもらっても当然の顔をしている、あれのようなものです。いや、親子の間柄であれば別にそれでも構わないのかもしれませんが、クラスメートや同僚といった人間関係のなかで同じことを再現されてはたまったものではありません。
“お坊ちゃま/お嬢ちゃま”タイプは、どう転んでもストレスが溜まる相手です;こちらが“ありがとう”“すいません”と言わなければ憤慨するのに、こちらが何かを手伝ったりしても、感謝の言葉は一言もなく、やって貰ってさも当然だという顔をしています。かと言って、このようなダブルスタンダードをいつまでも我慢しているだけでは、その関係が変化することは永遠にありません。多少の摩擦を覚悟のうえで、感謝や謝罪のダブルスタンダードに切り込んでいくか、それともひたすら我慢してダブルスタンダードに甘んじるか……どちらにしても、わりと大変です。
“お坊ちゃま/お嬢ちゃま”タイプの人であっても、五年、十年かけて付き合っていけば、こうしたダブルスタンダードを少しずつ穴埋めできるかもしれません。けれども、それには膨大な時間とストレスを費やさなければなりませんし、今日日、五年〜十年同じ職場で同じように働ける環境がどれだけあるかは怪しいところです。せっかく慣れたと思ったらもうお別れ、ということも珍しくないでしょう。
いち早く察知して、うまい対応を
“天然”であれ“お坊ちゃま/お嬢ちゃま”であれ、“ありがとう”に気付かない人達には、それにみあった付き合い方をしなければ、お互いにストレスの多い人間関係に陥ってしまいがちです。あらかじめコミュニケーションの指針を決め撃ちするなり、適切な距離の取り方をしておくなり……とにかく「この人は“ありがとう”を言わない人だから、それを前提に」というコミュニケーションの指針をとらなければ、付き合いにまつわるメンタルコストがかさんでしようがありません。*2。少なくとも、何の工夫もしないで付き合うというのは得策ではないと思います。
新人歓迎会や顔見せの席は、そういった兆候に気付く絶好のチャンス。
四月のうちに察知して、適切な関係づくりを心がけたいところです。