コンサルの面接で「74冊読みました」と言ったら「それは何がすごいの?」と返された - ミームの死骸を待ちながら
リンク先の記事はコンサルタントの採用面接の体験談らしいが、巧い質問する面接官だなーと舌を巻いた。もし自分が面接官になったら、こういう意味深な質問を繰り出したいものだ。
就職面接であれ、受験面接であれ、面接官は限られた時間のなかで、対象者が合格に値する人物なのかをスクリーニングしなければならない。“モノになりそうな奴”を合格させ、“使えそうにない奴”を足切りするという重大な作業にかかわらず、与えられる時間はたった数十分。しかも、面接官に少しでも良い印象を与えるべく、対象者はなにがしかの嘘や誇張を交えてくるという前提で面接しなければならない*1。
このため、面接官がそれなりの信頼度でチェックできる情報というのは、意外と限られているし、そういう情報は「対象者が言葉に出して喋った内容そのもの」とは異なる領域から得られる事が多い。“使えない奴”を見抜き、除外することに手慣れた面接官は、嘘や誇張に左右されにくい領域から豊富な情報を引き出し、判断材料としている。
【短時間の面接中にもバレるような、稚拙な嘘が混じっていないかどうか】
対象者の発言の真偽のウラがとれるという場面は、正直あまり多くはない。しかし、幸か不幸か、短時間の面接のなかで馬脚を顕すような嘘をみかけた場合には、非常に有益な情報となる。「面接場面という重大かつ短時間の場面でさえ精度の高い嘘をつけない」というのは、単に不正直というだけでなく、機転に難があるか、軽率な人物であることを暗に示している。“使えない奴”である可能性が高い。
【質問の内容や意図を、対象者が理解し、そのうえできちんと回答出来るか否か】
対象者が語る内容の真偽が分からない場合でも、[質問の内容や意図をどこまで読み取っているのか] [読み取ろうと腐心しているのか]は、かなり信頼度の高い情報として面接官の手元に残ることになる。
例えば、「あなたが今年一年で頑張ったことは?」という質問。
字面通りにとるなら、実際に頑張ったと思ったことを、ただ回答すれば良いだけのようにみえる。「一年で本を100冊読んだ」でも「3kg痩せた」でも、まあ何でも答えればいい。
けれども、就職面接や受験面接の場面で、面接官が「あなたが今年一年で頑張ったことは?」と訊いてきた場合、そんな質問をしてくるからにはそれなりの意図が含まれている、と考えるのが筋だろう。はっきり言うなら、この手の質問を繰り出す面接官は、“あなたが何を頑張ったのか”には殆ど興味を抱いていない。この手の質問を通して面接官が知りたがっているのは、
- 回答から透けて見える、その人の価値観や生活状況。外部へのアウトプットや他人とのコミュニケーションよりも、自己満足を重視するような価値観の持ち主であれば、それが透けて見えやすい。
- 何を頑張ったのか、ではなく、何を、どのように、何のために頑張ったのか。
- 頑張った際の創意工夫や、頑張ったプロセスを通して身につけたもの。
または、
- 面接官が、質問を通して把握したがっている意図を出来るだけ読み取ろうとし、それに寄り添うように回答しようと努める態度がみられるかどうか。面接官の頷きや表情と摺り合わせながら、話そうと努力しているか。要は、きちんと双方向性のコミュニケーションの意図が含まれているかどうか。
- それなりに貧困ではない内容を、初対面の面接官にもわかりやすいように、要領よく説明出来ているかどうか。
といったものだったりする。ここら辺を意識して答えられない人や、意識していたとしても対応が全然ダメな人は、どちらにせよ、“使えない奴”である可能性が高く、足切りの候補となるだろう。ただし、高校受験/大学受験ぐらいの年齢では、これらすべてを勘案しろというのも無理な話で、若い人は、年齢相応に甘い水準で評価してもらえるかもしれない。逆に、いい歳をした大人なのに全然ダメな場合は、かなり高い確率で“使えない奴”レッテルを貼られるだろう。
【緊張場面や、意想外の展開に際しての振る舞い】
緊張場面や意想外の展開でパニックになるような人や、強ストレス下ですぐに無力になってしまう人を敬遠する業種というのは多い。こうした業種の面接では、対象者が緊張する場面や、対象者にとって意想外の質問が、“使えない奴を見極めるチャンス”として意識されやすい。いわゆる圧迫面接なども、この手のスクリーニングに該当するだろう。圧迫面接は、受ける側としてはストレスフルだが、ストレス下でもある程度のスペックをたたき出せる人間なのか、それともストレス下では全く使えない人間なのかを見極める試金石としては、やはり優れている。
狼狽やパニックを呈するか否かは、嘘がつきにくい情報だ*2。ここに着眼しない面接官は、アホとしか言いようがないし、たぶん、そんな面接官は存在しない。
本当は緊張していても、狼狽やパニックを最小限に抑えて行動できる人というのは、鉄火場に強い人材として期待できる。反対に、緊張や意想外の展開に際してスペックが極端に落ちるような人間は、“使えない奴”の可能性が高い。
足切り面接官には、嘘や誇張は通用しない
このように、面接官は、言語レベルでの嘘や誇張に左右されないところで、対象者をしっかり評価している。そして、“使えない奴”っぽい兆候がどの程度みられるのかに、目を光らせている。どうせ対象者は、自分にとって都合の良い御託しか並べないのだから、嘘や誇張とは無関係に評価出来るポイントに着眼しよう、というわけだ*3。
もちろん、これらのメソッドで把握できる情報は限られている。けれども、初対面の相手を短時間で評価し、嘘や誇張の影響を最小化するには、こうした手法は必要不可欠だし、ある程度までは確かに有効だ。口では大言壮語を吐いているけど、コミュニケーションの意図や文脈をちっとも読もうとせず、緊張場面や意想外の場面で脆いような人物は、この方法でrule outすることが出来る。
逆に、面接を受ける立場からみれば、文中で紹介したような要件をきっちり満たしていれば、面接官からダメ出しをくらいにくくなる、ということでもある。業種や選考レベルにもよるが、「面接官からの質問の内容や意図をきちんと理解し、簡潔に要領よく回答出来る人」や「緊張場面や予想外の展開でも、それなりに立ち振る舞える人」というのは、良い印象を面接官に与えることができるだろう。
こういうのは、面接直前に付け焼き刃的に勉強しただけでは身に付きにくく、日常生活の態度・経験の多寡・素養しだいという部分が大きい。これから面接を受けるという人は、小手先の面接テクニック本を買い求めるよりも、その前に、自分自身の日頃の生活やコミュニケーションの態度を省みたり、自分の弱点に詳しくなっておいたほうが、得るところが大きいのではないかと思う。
ちなみに
この話は、あくまで“使えない奴”を足切りする為のテクニックであって、“物凄くレアな使える奴”を拾い上げるテクニックではないのであしからず。世の中には、「コミュニケーションが全然出来なくて、空気も読めず、緊張に際してパニックになってしまうけれども、特定領域で天才的な才能を発揮する人物」が極少数だけ混じっているし、そういう天才以外は不要、という業界もあったりする。ここで書いたような足切りテクニックでは、規格外の天才的人物は拾えないので、天才を必要としている業界では、異なるテクニックが面接官に求められる。
とはいえ、この文章を読む人の殆どは*4天才性とは無縁の世界を生きている人だと思うので、天才を拾い上げる方法なんて気にする必要がないとは思う。
[関連]:「コンサルの面接で「74冊読みました」と言ったら「それは何がすごいの?」と返された」件について - ignorant of the world -散在思考-