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はてなブックマーク - ライフハック(笑) - うさだBlog
時節に適っているような気がするので、ライフハックだの、○○を××するための十の方法だのといった記事を消費する人達の内実について、この機会に書き留めておこうと思う。インターネットでも、種々の月刊誌でも(ライフスタイルを提案する月刊誌!)、tips・十の方法・必勝法、などといった決まり文句と箇条書きはいつも大人気のようだし、それらが廃れずはびこっている所をみる限り、一定以上の需要は世の中にあるとみて良いだろう。女性向けか男性向けか、年配世代か若者向けか、hobby関連か日常生活関連かを問わずに、ライフハックだのtipsだのといった記事の需要はいまだ大きい。
しかし、実際にそのライフハックだの十の方法だのを律儀に使っている人はどれぐらいいるのだろうか?少なくとも僕は、インターネット上であれほどたくさんの反響を得ている各種ライフハックやら各種tipsやらを導入して巧くいったという成功譚を聞いたことが無い。計らずも、僕自身がそのような記事を何度か書いたことがあったわけだが*1、「記事を真似して成功しました!」とか、逆に「お前の方法は巧くいかないぞ!」とかいった反響のお手紙は、少なくとも僕自身は頂いたことがない。また、他のウェブサイトやblogのライフハック術に関して、「○○さんのライフハック術のお陰でこんなに成功しました!」という感謝エントリというのも見たことがあまり無い。じゃあ一体全体、ライフハックだのtipsだのを嬉々としてブックマークしている人達は、何の為にそれらの記事に注目し、何に役立てているのだろうか?
実行なんて微塵もしないライフハックだのtipsだのをブックマークしたり、雑誌で読んだりするのは、少なくとも実行に供される為の技術として摂取されているわけではないのは間違いないだろう。では何なのか。僕は、「僕達にとってのライフハックtipsは、実用に供される技術ではなく、不安を和らげる為のハーブや絆創膏として消費されている」のではないかと疑っている。あるいは、ライフハックだのtipsだのに合致した自分の処世術や考え方を確認することを通して、確かさの無い自分の正しさ・力強さを思い出す為の答え合わせ表として消費しているのではないだろうかとも疑う。読者がライフハック記事を通して求めているのは、技術的精錬でもなければ、向上心の刺激でもない。そうではなく、模範解答のない娑婆世界に模範解答を求めて不安を解消することや、実行はしていないけれども頭で理解することによって問題が緩和されるかのような勘違いに溺れる為のまじないとして、ライフハック記事を拝み読むのではないかと思うのだ。俺は頭ではわかっている(笑)、実行するのは明後日から(笑)というわけである。そんな訳で、ライフハックやtipsによって仕事の能率が変ったり、お洒落度が20%アップするなんてまず有り得ないし、もともと、記事を消費する側も記事を仕掛ける側も、端からそんなものは期待していないということなのだろう。
日々の暮らしや自らの方向性の寄る辺なさに不安を抱えたインターネッター達が、ライフハック記事やtips記事を消費してささやかな「癒し」「セラピー」に耽溺する風景・仕掛け手ブロガーやGIGAZINE等と不安解消セラピーに飢えた読み手の共依存関係は、視る人が視ればもちろん醜悪なものと映るかもしれないし、ライフハック(笑) - うさだBlog / ls@usada's Workshopなどは、まさにそのような構図を揶揄したものなわけだが、しかし、こうした構図はライフハック記事やtips記事だけではなく、およそあらゆる文章・アドバイス・記号がそのような消費に供されていることには自覚的であって然るべきだろう。他のメディアに出回っている様々の情報やら技術指南やらも、それを実際に実行に移さずに頭で理解したつもりになっていても*2、そんなのはせいぜい不安の解消ぐらいにしか役立つまい。その点、スイーツ(笑)とは - はてなキーワードに書かれているような、女性向け雑誌あたりが煽っている消費記号群も似たりよったりで、女性読者達の「これがアリなのか確かめたい気持ちや不安」「あたしって本当にcoolなのかしら?」という日常の不安を解消する為の記号アイテムとして、これらの物品や言葉が差し出され、ある程度までは実際に消費されている。不安な男達が不安な女性達のスイーツ(笑)を笑い、不安な女性達が不安な男達のライフハック(笑)を笑うという現状*3も、同族嫌悪的な対称性を為しているという他はない。僕達はやはり、「他人のふりみて我がふり直す」ではなく「目くそ鼻くそを笑う」がお好みということのようだ。
スイーツ(笑)であれ、ライフハック(笑)であれ、僕達はそこに陳列されたアイテム(記号群)を、不安を解消する為のツールとして消費する。自分はこれでokなのだろうかという日常の疑念をひとときだけ忘れ、「分かってるあたしは大丈夫!」というわけなのである。しかし、女性週刊誌が宣伝するガジェットも、アルファブロガーが撒き散らすライフハック術も、それが不安を解消し防衛する為の一時のツールとしか用いられない限りにおいて、実際の当人の血肉となって結実することは無いのだろうし、だからこそ不安を解消する為のこうしたツールはこれからも消費され続けるのだろう*4。また同時に、「これが正解」という落ち着きどころの無い現代社会と現代人だからこそ、切迫する不安を防衛するツールを使って心を癒し続けなければ(笑)、心的ホメオスタシスを維持するのはなかなか大変なのかもしれない。
インターネット上に溢れ変えるライフハック記事も、週刊誌や月刊誌を賑わす“coolなアイコン達”も、僕達の不安を覆い隠して安心する為のツールとしてこれからも大いに消費されることだろうし、そうしたアイテムを市場に撒き散らす仕掛け手達も、話のタネに困ることは無いだろう。ライフハック記事やら“流行のアイテム”やらを追いかけなければ、自分がイケているのか頭が良いのか自信が持てない人達の不安を解消すべく、半日程度の安息日を提供すべく、ライフハック(笑)やらスイーツ(笑)やらは、老男若女に消費され、そして世の中の歯車のひとつとして廻り続けるのだろう。
*1:例えば→http://d.hatena.ne.jp/p_shirokuma/20060905/p1
*2:大体、やってもいない・実地でみてもいないのに、原稿用紙二枚分ほどの文章を読んで記憶しただけで「頭で理解した」などと思い込むこと自体が、度し難い傲慢と無理解の象徴であることは指摘しておかなければならない
*3:そしてもっと言えば、こうした不安解消の記号群に飛びつく人達同士が、笑い笑われを繰り広げるもっと広い範囲の現状
*4:ネット上でしばしばみられる、二ヶ月前に発表されたライフハックやtipsが同じ読者にもう一度消費されるなどという現象が起こりえるのも、結局そうしたライフハック記事やtips記事が、読者当人の血肉になることなく、一時の不安の防衛にしか役に立たないからに他ならない