シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

政治プレイヤーとしての、GIGAZINEの卓越したセンス

 
 
「初音ミク」の画像検索結果消滅について各検索エンジンに電話してみた - GIGAZINE
 
 GIGAZINEが電話取材を行ったこと、その結果をいち早くネット上に公開したことに、まず驚きとgood jobという賛辞を送りたい。小さなブログや一介の2ちゃんねらーが電話取材してもあしらわれるだけかもしれないが、ある程度以上のメディア・パワーを持った所であれば相手にして貰えるだろうし、寄せられた各社からの回答も、会社の回答として一定の信憑性を持ったものとして取り扱えるからだ。
 
 今回の記事では、GIGAZINEのしたたかさというか、ネット世界でサバイブする為の智慧というかを垣間見た感じがして、私個人はそちらのほうが強く印象に残った。ただ電話取材するだけのフットワークがあるだけでは、GIGAZINEほどの大所帯を継続的に持ち続けることは困難に違いない。なるほど、こりゃあGIGAZINEは大きくなるわけだ、と。少なくとも、今回私がGIGAZINEに感じた卓越性を持たないが故に大きくならないブログやウェブサイトというのは、確かに存在するような気がする。
 

今回のGIGAZINEがみせてくれた、政治プレイヤーとしてのセンスの卓越性

 

  • 素早い調査と記事公開のセンス。

 当然のことながら、ホットスポットを嗅ぎ付け、きちんと取材し、まとまった記事にするという一連の作業を速やかに行うという点で優れているのは言うまでも無い。冒頭に貼り付けられている画像の選び方も巧みだ。このやりとりが、(取材側のGIGAZINEも含めて)大人同士の腹の探りあいであり、「問う側も問われる側も、メディアに載る意見であることを前提に意見を表明する」という、ある種政治センスが直に問われる闘技場であることをオブラートに包むような画像を選んでいるあたり、流石としかいいようがない。子どもが玩具の電話をかけている風景、によって緩和されているものや、イメージが受け得るバイアスに思いを馳せてみよう。腹の探り合いやメディア戦争という印象が一気に和らぐこの一枚のクッション挿入にも、私はGIGAZINEのセンスを感じ取らずにはいられないし、愛着せずにはいられない。
 

  • 「謎の事態が発生中」という公正さのセンス。

先ほど「話題の「初音ミク」の画像が検索結果から消滅中」という記事中でもお伝えしたように、なぜか画像検索結果から消えるという謎の事態が発生中なわけですが、一体何が起きているのかを以下の検索エンジン各会社に電話して聞いてみました

 このような、殆どありえない、何か人為が働いていると思いたくなって思いたくなって仕方ない(そしてそう書けば読者が大量に釣れるであろうこと間違いない)状況でも、流石GIGAZINE、陰謀の存在を疑うような記述はひとつも無い。ただ、「よくわからないことが起っている」で済ませているレトリック運びに私は痺れずにはいられなかった。この状況をみて、天下のGoogleが初音ミクの画像検索を除外したのではないかという疑心暗鬼に駆られない人が一体どれぐらいいるだろうか?*1いるわけがなかろう。誰もが頭をかすめるGoogle八分。中華人民共和国におけるGoogleの振る舞いについても、多くの人が知っている筈だし、GIGAZINEのなかの人達も当然意識はした筈である。だが、証拠も無いのに陰謀の可能性については一切仄めかさず、「謎の事態」というレトリックを選んでいるあたり、簡単なことのようで意外と難しいことだと思う。
 
 大きなブログを持った(と思い込んでいる)人が、人為的陰謀の可能性が殆ど間違いないと脊髄反射してしまった時に、陰謀の可能性を検討する、または仮説や私見を披瀝するという誘惑に駆られることは決して少なくないだろうに、GIGAZINEはそうはしていない。こういう脇のしっかりした所も、大手の大手たる所以なのかな、と思うのは過大評価というものだろうか。
 

  • 結論への記事運びのセンス

 そしてまとめが心憎い。これも、簡単なことのようでナンセンスな人がついつい誤ってしまいそうなミスを掻い潜って文章を運んでいる。

まとめると、とにもかくにも今回の件はどこかの企業や利権団体とかが圧力をかけて「初音ミク」をたたきつぶそうと画策して動いたわけではなく、どちらかというと「画像検索エンジンの技術力」の差が出てきただけ、ということです。今まではあらゆる検索について「Googleが一番」だと思っていましたが、どうやら認識を改める必要があるようです。

 事態を「画像検索エンジンの技術力の差」とまとめているあたり、素晴らしい。もし、第一報を報じたのが凡百のブロガーやニュースサイトならば、「GoogleやYahoo!!の意見表明は信じられない」とか「そんな嘘に俺様が釣られクマー」などと書いたかもしれない。だがそんな事を書くのがどれほど愚かなことなのかをGIGAZINEは当然のように分かっているのだろう。会社の広報が見解を表明するというのはそういうことなのであり、それに対して竜宮レナのように「嘘だ!」と叫ぶのは大人のやることではない。少なくとも、大人と呼ばれる人達同士の駆け引きの中においては、嘘ではない事として取り扱われなければならない*2。そういった世間の常識を、当然のようにGIGAZINEは踏まえている。
 
 ここまでだったら、脇の堅い多くのブログやニュースサイトでもきちんとできるだろう。だが、“取材情報”を材料に、GIGAZINEはなんとも楽しい結論を創り上げた。「検索エンジンにおいて、Googleが一番だと思っていましたが、どうやら認識を改める必要がありそうです」ってのはいかにも巧い。巧すぎる。
 
 少なからぬ読者が、「検索エンジン性能においてGoogleがMSNなどに劣っているという事態」よりは、「検索エンジンに何らかの人為が加わってGoogleに初音ミク画像が出てこなくなったという事態」のほうが遥かに有り得ると思うだろうに、取材情報からGIGAZINEが導き出した結論は、「検索エンジンの技術力の差」というものだったのである!事実は陰謀よりも奇なり!しかし、確かに各社の意見表明を見比べる限り、このGIGAZINEの判断には一点の曇りも無い。集められた情報をもとに弾き出した推定としては、全く適切なものだろう。幾ら有り得なさそうな事であっても、会社から直接聞いたことはきちんと信じ、そこに変な疑いを入れずに結論に持っていくということは、簡単なようで難しい----とりわけ、それが信じ難い奇想天外なものであればあるほど----。疑心暗鬼に駆られて、つい、「疑わしい」などと書いてしまいたくなるものだが、むしろGIGAZINEは真正面から信じて、そしてこれはこれでニュースとして驚くに値する仮説を導き出している。
 

GIGAZINEさんが好きになっちゃいそうです。

 
 愚かな電凸者ならば罠にはまりそうな罠をきっちり回避し、大人の分別を弁え、取材情報から導かれる最もアメージングな総括に辿り着く。しかもこのプロセスにおいて、GIGAZINEという看板に泥がつくようなミス・Yahoo!!やgoogleに睨まれるようなミスもあまりしていないようにみえるのだから、もうこれは明らかに“うまくゲームを運んでいる”*3。GIGAZINEの、センスのよさ(ホットスポット選びのセンス、大人のルールとしての公正さのセンス、記事運びと総括のセンス)に、私は今更ながらに凄いなぁと思ってしまった。大手のニュースサイトやアルファブロガーにとっては、こういうセンスはあって然るべきものなのかもしれないが、簡単なことのようで、凡百のインターネット利用者にはなかなか真似できない・したくても失敗しやすいところなんじゃないかと思う。また逆に、こういったセンスの卓越が下地にあってこそ、GIGAZINEは大所帯としての現在を確立しているのだろうし、それはその他の大手ニュースサイトやアルファブロガー達においても然りなのだろうな、と想像することにしておこう。
 

ちょっと追記

 あの結論は「突っ切ってしまう」ことによって、皮肉として読み取るのに好都合な要素もたっぷり残している所がいい感じ。ユーモアによって「これは皮肉なんじゃないかなぁ」と勘繰る余地を読者に残すことにも、成功しているような気がする。くせものだ。
 

*1:特に、初音ミクという言葉を知っている人のなかで

*2:実際は嘘だった、という証拠でも見つからない限りは

*3:しかし、よく考えれば、単に大人として振舞っている、の一言で済ませて良いのかもしれないが。