はてな村にはいろいろな獣が出て、人を襲うと言われています。今日もカラス・モヒカン・野犬・ゴリラといった連中が村内を徘徊しては、いたいけな犠牲者を食い物にしようと目をギラギラさせています。寒冷地域には白熊や鯱も出るらしく、凶暴な奴らを退治せんと討伐団が形成されることもあるようです。
もちろん、村民達もケダモノどもを放っておいているわけではありません。獣が出たら窓の鎧戸を閉ざしたり、陰から猟銃で狙撃したりと対策には余念がありません。数の鬱陶しいカラスやイナゴに対しても、枝豆畑に目玉をつるしてみたり、ヘリコプターから殺虫剤を散布してみたり、いろいろ頑張っているようです。獣に襲われた時にも、「私は凶暴な獣に襲われています!ほらみてください!獣たちはこんなに凶暴なんです!」と絶叫すればすぐに村人が集まってきて、暴悪な侵入者に武器を持って立ち上がります。
一方、はてな村には狼少年も住んでいるようです。狼少年は叫びます。
「モヒカンが出たぞー!」
「シロクマが出たぞー!」
「カラスが集まったぞー!」
しかし誰も集まってきません。なぜなら、狼少年がいつもいつも嘘や大袈裟ばかり叫ぶからです。否、狼少年自身にとっては嘘では無かったのかもしれません。物音のする藪にマムシをみたのかもしれませんし、雲を眺めているうちに形がシャチにみえてきたのかもしれません。しかし、陽炎や物音にも過敏に反応しては大声で叫び転げる狼少年に、村人達もいちいち構っていられなくなってきました。
「またおまえか」
「うるさいやつだ」
村人達の殆どは、狼少年の言うことは嘘か大袈裟に違いない、と信じ込むようになっていきます。狼少年が大声で叫んでも、「やれやれ」「いつものやつがはじまった」と思って遠巻きに眺めるだけです。狼少年が本当にケダモノに噛みつかれたり八つ裂きにされたとしても、村人達にはホントか嘘かを判別することが出来ないので、「やれやれ」「いつものやつがはじまった」で放っておくのでしょう。誰にも庇われることも守られることもないまま、いつか狼少年はカラスやケダモノやモヒカンやらにたかられ、はてな村の土に帰っていくのです。ああおそろしい。
補足:はてな村の深奥には、狼少年だけでなく、狼少女・狼おじさん・狼おばさん、の類も潜んでいるかもしれません。少なくともその確率はゼロではありません。しかし僕ははてな村のほんの一部しか知らないので、村の奥の様子までは知りません。勇敢な探検家の報告に、期待しましょう。