シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

異性という名の真っ暗闇に第一歩を踏み出した人へ

 
 判断できません(2) - 他人の脳内
 
 id:anotherさん、丁寧なお返事ありがとうございました。ソースコード、またはスタート地点に該当する地図が欲しい、という渇望はかつて私も持っていたものです。二十代の終わり頃、ようやく私は他人が書いて印刷してくれた地図は殆ど役に立たないという事実に気付いたわけですが、自分で地図を書くにせよ、クレヨンを手にして地図を書き始める為の「クレヨンの握り方」ぐらいは誰かから習っていいかもしれません。そこまでは同意することが出来ますし、何かを呈示出来る余地があるかもしれません。
 
 以下に、読んであまり気持ちの良いものではないであろう私見をanotherさん向けに書いてみたいと思います*1
 
 
 1.「はじめに地図ありき」ではなく「はじめに異性ありき」
 まず核心にあたる部分を書きますが、「そんな地図なんてあるわけないんじゃん」です。私の場合、異性全般について統計的推定をしようと試みれば試みるほど「手製の地図の目の粗さが目につく」ようになってしまいます*2。また、女性と男性の行動上の統計的差異に関しても、オンラインレベルの観測やら書籍やらは、かつての私にとってなんの役にも立ちませんでした*3。私が漸次形成・破棄し続ける対異性個人マッピングは、すべて自分で創りあげるしかなかったし、これからもそうなんじゃないかと思います。勿論このような“地図づくり”に関する私の考え方は、異性に限ったものではなく、殆どのコミュニケーションにも適用されるものです。異性も他人も常に変化し続けるうえにあまりにも個別性が強すぎる――そこらを弁えつつ、一人一人の個人に関しての実地観測が積み上がってようやく「異性全般の最大公約数的傾向」を考える余地が出てくるんではないでしょうか?「まずマクロの地図ありき→ミクロの他人に適用」ではなく、「まずミクロの他人ありき→マクロの地図を推測」だと思うんです。
 
 そして“異性全般は”と議論する前段階として、目の前にいる少女についての個別的な情報収集なり不明性引き受けなりが先立つのではないかというのが私見です。つまり、自分と他人とが真っ暗闇のなかで、よく分からない他人同士として向き合っているという事を認識することが、第一歩だと思うんです。そういう意味では、模範解答無き真っ暗闇をまず自覚なさったanotherさんは、まさにスタートラインを今越えた、と言えるのではないでしょうか。世の中には、この不明性を引き受けずに安易で普遍的な試験回答を求める人が沢山いますが、私はそれで上手くいくのかなぁと懐疑的です。ララァも言ってたじゃないですか、「人は分かり合えないものよ」と。分かり合えない事を知ったうえで、出来るだけ分かる範囲を模索していく、それがコミュニケーションではないでしょうか。
 
 2.「お前ちゃんと地図の世話をしろよ」
 私は、異性にアプローチすればするほど分からなくなっていきます。いや、そりゃ分かるようになったこともありますが、あくまでそれは私が出会ったところの個別の異性に関して幾らか知ったことがあっただけですし、しかも分からないところだらけの継ぎ接ぎマップモデルに過ぎません。そのうえ毎日毎日新たにわからないところが発見されては“暗がり”として掲載される始末です。「そこらじゅうにクエスチョンマークが残った近似的マッピングを、一人一人の異性に対して創りあげ、しかもそれを毎日毎日更新している」といったところでしょうか。手動作業で、分からない所・違っている所を意識的を抽出しようとしていくしかありません。私の場合、“自動更新”に身を任せると“自分に都合の良い所だけ抽出して地図を描き上げたり”“分かった気になって慢心したり”する癖があるので、分からない所が必ずあるという前提のもとに意識的に接近していくしかないようです。
 
 幸か不幸か、異性も自分も常に変化していくという点においてもアップデートは必須です。数ヶ月ほど地図更新をさぼると、すぐに地図は腐ってしまいます。女子三日会わずんば刮目して見よ。シロクマ手製の地図は、ナマモノです。だから誰かにコピーして渡したとしても、既にその地図は死んでしまっています。いや、死んでいてもいいからくれという人もいるかもしれませんが、私の出会っていない異性に関してはサポート対象外のうえに、死んで動かない地図は随時書き直して生きた地図にしていく必要があります。それでもなお死んだ地図を誰かにあげることがあるとしたら、「お前ちゃんと地図の世話をしろよ」と言って渡すしかありません。ナマモノなんですから、世話しないとすぐ駄目になってしまいます。そして生きているからこそ、私の近似的地図は(部分的に)役に立つし、将来anotherさんが所有する地図も(部分的にn)役に立つ、と考えたいところです。
 
 3.「ガイドブックやwikipediaに載っている女の子と、実地で話してみる女の子」
 あと、他人に教えられて「わかる」のと自分で拾い集めて「わかる」ことには大きな違いが横たわっていることにも注意が必要です。ガイドブックを読めば四国八十八カ所霊場の写真をみることが出来ますしwikipediaを読めば四国四県の名産品を暗記することだって出来ますが、朝の霊場の雰囲気は実際に肌で確かめてみなければ分からないし、ウツボの唐揚げの味を知るにも食ってみなければわかりません(アレルギー性鼻炎で鼻が詰まっている時にウツボの唐揚げを食べるよりも、鼻炎じゃない時に食べることをお勧めします)。なかんずく、異性に関する経験も、ガイドブックやwikipediaをみる範囲で「わかる」ものは相当限定されていると思うんです。ガイドブックは経験を代替することはあり得ない*4。そりゃ勿論、wikipediaをはじめとするメディアからの情報汚染によって修飾される部分もあるでしょうし、文章だけで考える人達はそこにやたら着目するでしょうけれど、情報は経験を修飾し得ても代替はしない(そして経験はというと、情報汚染を修飾し得るし代替もし得る)とは思います。個人的な異性関係・対人関係に関する限り、“人工衛星の地図やら攻略本やらを使った演繹的アプローチ”は、ぶっちゃけ使えないと思いますし、そういう意味でも、誰かがつくった立派な地図やら攻略本よりも、粗末でもいいから自分で作った地図、だと思うんです。
 
 4.「面倒くささと不明性の自明を引き受けるしかないのでは?」
 そんなわけで、誰かが創った立派な地図よりも、何度も何度も書き足したクレヨンの地図のほうが、よほど大事なのではないか、と考えられるわけです。手製で穴だらけのクレヨンの地図でしか個別的な異性なり個別的な他人なりと(あなたが)対峙することなど出来ないと思うし、異性なり他人なりの“分からなさ加減”を見失って失敗するとも思います。ですから、異性全体に関する地図を本屋やネットで入手したとしても、テンプレート地図をまっさらなまま使い続けるのは絶対お勧めしませんし、それぐらいだったら手に入れないほうが余程マシです。本屋やネットでそういったテンプレートを入手した場合、anotherさんのクレヨンでぐちゃぐちゃに書き込みまくってくださいね。最終的には元のテンプレートの原型が分からないほど書き込まないと、多分駄目でしょう。巡り巡って、偶々元のテンプレートそっくりの手製地図ができあがるならアリだと思いますが。
 
 毎日毎日地図を更新するのは面倒くさいかもしれませんし、全部正解を把握しないと気が済まないという人には耐え難い不安だとも思います。ですが、その面倒くささや不安、不明性の自明を引き受けない限り、他者への漸進は期待し難いと私は考えますし、ましてや、自分とセクシャリティもジェンダーも価値観も違う異性なるものへのアプローチも成立し得ないのではないでしょうか。だから私は、印刷された地図なんぞ要りませんし期待もしません。毎日毎日、個別の他者に関する近似的ナマモノ地図を累積・更新させ続けるだけです。時には間違えることもあるでしょうが、毎日毎日更新して累積させて自分なりのマッピングに取り組んで行く所存です。それで私はオーケーです、というかもうそれ以外のやりようを私は未だ知らずにいます。
 
 5.「逆に言えば、一生飽きません」
 その代わりと言っては何ですが、コミュニケーションに関しては毎日が新鮮な勉強の連続で、いつになったら飽きるのか見当がつきません。個人個人のレベルの近似地図は毎日毎日書き換わっていきますし、それらの集合たる「異性全般に関する傾向の近似地図」も毎日毎日変化していきます。地図が埋まってしまうなんて心配無用。他人に関するマッピングは、書き込んだらその分だけ「わからないこと」も増える無限のダンジョンです。一生かけても飽きないことでしょう。私はやるつもりですよ、この試みを。一生、ナマモノとしてのハンドメイドの地図を書き換えていきますよ。どんなダンジョンRPGよりも面白いですよ、こいつは。
 
 6.「最後に、いちばん肝要だと思えるものを一応」
 私がもし、anotherさんに対人コミュニケーション(または対異性コミュニケーション)の向上にいちばん肝要だと思うものを挙げるとすれば、経験・継続・学習・好奇心ではないかと思います。それらがあれば、テンプレートとしての地図すら要りませんし、クレヨンの握り方も自然と覚えるに違いありません。逆に言えば、経験・継続・学習・好奇心のない限り、どれほどの達人に師事しようともどれほどの良書とも巡り会おうとも、他人にアプローチすることは適わないでしょう。
 
 どうか、anotherさんだけのお手製の地図を、手間暇かけて成長させ続けてください。それに勝るものはありません。
 

*1:なお、以下の記事は「自分が真っ暗闇にいる事に最近気付いた人」向きです。自分で既にお手製の地図を創りあげている人・自分は真っ暗闇にいないし暗闇など存在しないと思っている人 などには全く不向きな文章です

*2:この場合の地図、というのは“対異性テンプレート”のようなマクロレベルの推定も、“対個人傾向ノート”のようなミクロレベルの推定も、両方です

*3:ただし、精神科や進化論から学んだ諸理論は後になってじわじわと効いてきました。ですがこの場合も、経験と実地観測が先行して、理論は三年ほど後からゆっくり追いかけてきた、という感じです。理論はあくまで経験を通して事後的に確認されただけであって、事前に警告を発してくれたことなどろくにありませんでした

*4:逆に、累積的な経験がガイドブックやwikipediaを帰納的に代替する可能性は、あるかもしれません。つまり、何度も巡礼している人は、自前で地図を創りあげることが可能です