シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

奈須きのこさんからの意識的?無意識的?メッセージ

 Fate/hollow ataraxia、時間をみながらちょいちょい片付けていたがようやくエンディングらしきものに到達した。Fate/stay nightに比べると、個々のシーンは鮮やかでも全体の話の筋はそんなにワクワクするものではなかった。じゃああくまでファンディスクとして楽しめばいいじゃないかという話になるが、月姫の歌月十夜に比べると、諸々の完成度が高いのがかえって気になってリラックスできないというか、それともお値段がファンディスク臭くないからか、どうもファンディスクっぽく馴染まない。結局私は、どういう捉え方で本作品とお付き合いすればよいのかわからないまま、最後まで行ってしまった感じがする。このゲームをきっちり消化したって人はどんな態度であたったのだろうか?私はどうも、構え方を間違えてしまったっぽい。残念だ。
 
 あるいは、Fate/hollow ataraxiaの隠れたテーマになっている「キャラクター達と織り成す架空の四日間を、消費し尽す」態度を持った者こそが楽しめるということになるのかな...だとしたら、エンディング直前のやりとりは、そのような傾向のプレイヤーに対する強烈な当てこすりまたは警句として機能してしまいそうに感じられる。少なくとも私は、エヴァンゲリオン終盤に感じたようなメッセージ性を本作品終盤に感じることが出来た。いや、感じない人は別に感じなくてもいいんだけど、読もうと思えば本作品終盤は「キャラクター達と織り成す架空の四日間をひたすら消費する者」へのメッセージを孕んでいると読めてしまうし、多分だが、エロゲーを防衛機制の一手段にしている人達(=早い話が、エロゲーが現実の補償や逃避の手段になりまくってる人とか)には、直面化を促す不愉快なメッセージになってしまっているのではないかと思った。
 
 さて、このメッセージの挿入は、Fate/hollow ataraxiaの評価を高めるのだろうか、貶めるのだろうか。プレイヤーが自分の意に沿ったエンターテイメントを楽しみたいと考えているだけなら、やはりこのメッセージは耳障りなものでしかないだろう。そして本作品はほぼ純粋にエンターテイメントとして期待されていたのだろうから、仮にきのこさんがメッセージを意図的に紛れ込ませたのなら、エンターテイメントとしては減点になっちゃうのかもしれない*1。また、無意識のうちにきのこさんがこういうメッセージを放り込んでしまったのだとすれば、それはきのこさんを病跡学的に検討するうえで道標になるかもしれない。どちらにせよ、同じく「夢の繰り返し・平行世界」を扱った作品でも、エンターテイメントにほぼ特化出来た歌月十夜とはちょっと趣を異にしていると思う。きのこさんの埋め込んだメッセージは私好みだったが、エンターテイメントだけを期待するプレイヤーには、癇に障るものだったのではないか?
 
 追記:この作品のあてこすりというか暗喩は、エヴァンゲリオンのそれほど強烈で情け容赦ないものではないし、あんなメッセージの塊みたいな作品でもない事は断っておかないとまずいよね。それと、エヴァでは視聴者に(ほぼ)男性キャラ・シンジが重ねられていたけど、本作品のメッセージでダイレクトに視聴者に重ねられるのは、男性キャラだけでなく女性キャラでもある点には注目しておきたい。しかも、女性キャラのほうは男装の生娘!
 

*1:尤も、エンターテイメントとしてどうかだけを評価軸にする気は無いので、私はまぁあれはあれでいいのかなと思っていますが。