シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

 
 さて、こんなものを発見しましたぞ!
Amazon.co.jp: 脳内汚染: 岡田 尊司: 本
 
 著者は精神科医。出ている本の内容や勤務地などから察するに、B群人格障害の専門家とみた。略歴をみると、以下のようになる。最近の日本語の雑誌を見る限り名前が無いが、著書をみる限り、私などより遥かにB群人格障害(自己愛性人格障害、境界性人格障害)を知っていそうである。
 

岡田尊司 おかだ・たかし

1960年香川県生まれ。精神科医、医学博士。東京大学哲学科中退、京都大学医学部卒業。同大学院高次脳科学講座神経生物学教室、脳病態生理学講座精神医学教室にて研究に従事。現在、京都医療少年院勤務。著書に『パーソナリティ障害』(PHP新書)がある。また小笠原慧のペンネームで小説を執筆。第20回横溝正史賞を受賞した『DZ』のほか、『手のひらの蝶』(ともに角川書店)、『サイバー・ミッション』(文藝春秋より近刊)などの作品がある。(平凡社図書目録より抜粋)

 しかし、amazonの書評やその他ほうぼうの方面をみる限り、実地でゲームがどういうものなのかを確かめているのかや、ゲームで遊んでいる人達全体をきちんと俯瞰しているのかが怪しそうな書評がずらり並んでいる。ついでながら、「胸をすく思いがした」という意見もちらほらみられる。Amazonの書評がこんな風になるっていう事は多分そういうことなんじゃないかと疑いながら注文するも、売り切れ状態でいつ届くか分からない。早く読んでみて内容を吟味し、批評してみたいと思う。
 
・現時点での身勝手な推測
 職種・職場から言って、ネットやゲームによるaddiction(依存)とかの最悪の部分だけを著者はみている。一方で、ネトゲの一般ユーザーと交流したこともなければ自身がゲームを嗜むでもなく、オフ会にも殆ど出席していないっぽい。ましてやオタク文化への接触は斉藤環先生よりもやっていない。精神医学の知識と経験は私よりも遥かに豊かだが、最悪の対象だけを捉えて一般論をぶつ愚を犯している可能性が高い。「精神病理の発現の場」としてのネット空間などへの着目はもちろんあって然るべきだが、ネット空間という場がないならないで、問題を起こす人達は他の場で他の形で病理の華を開花させる筈なのに、そういうところに触れずに「ずるい書き方」を進めているのではないか?
 
 自分よりベテランの精神科医が「精神医学の知識はたんまり、でも対象の知識と経験はちんまり」でネットやゲームを斜め上に論ずるのを見るのは、本当にもううんざりだ。この本がその手のトンデモでないことを祈るが、たぶん私の祈りは届くまい。もし見当違いの言説がそのまま精神医学の世界で流通する可能性を思うとぞっとするが、この手のトンデモな言説を専門誌でみかけないところをみると、「まぁ、そういうこと」なのかもしれないし、専門誌レベルの良識には期待したい。でもなぁ、精神医学の世界に住んでいる人達をみる限り、彼らは「電車男」を見てオタクの実態を知ったと思い込みそうな、そういう世界に住んでいる*1。だから、ネット界隈やオタク界隈の現場を観察し続けている人間にはトンデモが明らかでも、彼らは(精神病理学的知識が適切か否かぐらいしか正否を判定するモノサシが無いので)案外受け入れてしまう可能性があるかもしれない。どちらにしても、プロがこういうものを堂々と売っているんだとしたら、その内容を同業者兼しろうとオタク研究家として是非一度読んでみたいものである。そしてもし間違った事が書いてあると分かったら、出来るだけはっきりと大きな声で批判を行いたいと思う。年次が上のドクターであっても、精神病理の知識が上のドクターであっても、である。
 

*1:精神科医の99%以上は、mixiもはてなもRMTもオタクの精神病理も全く知らないで、ネット依存やネトゲ依存について漠然とした危機感だけを募らせながら、精神科受診という最も重篤なレベルに到達した人達だけと相対している。彼らは真摯だが、「脳内汚染」で論じられている問題を判断するにはあまりにも情報が不足している。唯一、斉藤環先生は、かなり知っている可能性がある。私と違って当事者ではないけれども、あの人はきっとかなり知っている。