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シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

ソウル青少年創意サミットに参加してきました

 

 
 このたび私は、ソウル市・ハジャセンターで開催された第七回ソウル青少年創意サミットに招待いただき、keynote speakerとして参加してきました。
 
 [関連]:ハジャセンターについて
 
 
 私の著書『ロスジェネ心理学』が翻訳されて韓国では一定の評価を頂いているらしく、筆者として『万能感と敗北感』をテーマにしたサミット等で見解を述べてきました。全体的に非常に刺激的な集まりでしたが、web上に残しておいたほうが面白いかなと思った話題を、ここに書き残しておきます。
 
 
 【韓国と日本、社会的変化の相似/相違】
 
 「ロスジェネ心理学」が韓国で翻訳され、一定の評価を頂いていることが端的に示しているように、IMF通貨危機以降の韓国でも、上昇志向どおりの仕事に就けなかったり、親世代の思い描くライフコースを生きられずに悩んでいる若者がたくさんいるとのことでした。世代間の対立や相互不理解も、日本同様、起こっているのだそうです。
 
 他方、そうした若者の社会に対する恨みや怒りの感情は、日本よりも個人それぞれが表出しやすいそうで、社会問題として目につきやすいとも。ストレスフルな状況に対するコーピング(注:コーピング:ストレスに対処する対処形式。ストレスに対する処世術、と考えて頂いてもいいかも)に日韓の違いがあるのでは?という話題が登場しました。
 
 建国大学精神科教授のハ・ジヒョン先生は、「そうやって恨みや怒りの感情が表出可能な社会は、日本のソレより健全な部分を含んでいる。しかし、無分別に表出されれば別の問題が起こる。そのあたりが韓国の課題だと思う」と仰り、社会学教授のオム・ギホ先生は「恨みや怒りを表出することが一般的な社会に生きていると、それがひとつのテンプレートになってしまう」的なことを仰っていました。どれぐらい韓国と日本で感情表出のテンプレートや常識が異なっているのかわかりませんが、両先生とも「違いはある」と仰っていたのが印象的でした。
 
 
 【ファッションのジェンダーコードと徴兵制】
 
 「日本に比べて、韓国の若者のファッションはジェンダーコードがはっきりしている気がするんですが」と質問してみたら、「徴兵制の影響が大きいのではないか」と答えていただきました。なるほど、そりゃそうかもしれない。
 
 
  【「ひきこもり」の定義の違い】
 韓国メディアの人達とひきこもりについて意見交換しているうちに、「なんだか話が食い違っているぞ?」と思い始めて詳しく問答したら判明した問題。韓国でいう「ひきこもり」は日本の「ひきこもり」よりも定義が広く、いわゆるニートを含んでいるとのことでした。秋葉原連続通り魔事件の犯人のような非正規雇用で非コミュな境遇すら、韓国側の「ひきこもり」定義に含まれると。
 
 だから韓国定義の「ひきこもり」の場合、家庭外で事件を起こしたりオレオレ詐欺に加担したりするケースもあり、ときどきメディアで取り上げられるそうです。そういえば、フランスの「ひきこもり」の定義もかなり日本と違っていて、「ひきこもり」なのに異性とデートしたりすることがあるのだとか。言葉が国境を越える時、ニュアンスが変質することがあるので、こうやって直に確かめるのは有意義なことだなぁと思いました。
 
 
 【「中二病」のニュアンスの違い】
 
 「中二病」という言葉も韓国に輸入されていました。私みたいなふざけた精神科医が中二病を論じるのに不思議はありませんが、韓国のエスタブリッシュメントであるオム・ギホ先生やハ・ジヒョン先生までもが、たくさんのギャラリーが見守る中、大真面目に中二病について論議する状況が、なんだかシュールに感じられました。が、それぐらい「中二病」というフレーズは普及しているらしく、一般参加者からも「中二病」という言葉をよく耳にしました。
 
 興味深かったのは、彼らがこの「中二病」という言葉を揶揄などではなく真面目な意味で問題視し、ネガティブなイメージだけが先行している傾向が韓国にはあるようでした。
 
 日本では、「中二病」という言葉は伊集院光さんの深夜ラジオを発端とし、ある種の揶揄や自虐をこめた、「ネタ」的なフレーズとして流通しはじめ、00年代後半からは「思春期前半にみられる一過性のはしかのような現象」という捉え方も定着してきました。『シュタインズゲート』や『中二病でも恋がしたい!』のように、「中二病」のポジティブな側面に触れるコンテンツもあります。しかし国境を越えてしまうと、こうした「中二病が語られてきた文脈」はほとんどの人には理解できないわけで、日本のお母さんがたが「今、息子は中二病の真っ最中でね」と気安く語るような状況には至っていないようでした。
 
 なので私は「中二病の発達的で健全な側面にも目を向けて欲しい」と伝えました。これに対し、あるお母さんから「韓国では中3になったら受験で何もできないし、中1の時は右も左もわからない。だから中2は貴重な季節です」というコメントもいただきました。
 
 
 【「なりたいものが見つからない」問題】
 
 日本の若者には定番なアイデンティティ確立の問題。やはり韓国でもポピュラーなもののようです。でも、これって難しいですよね。オム・ギホ先生は「そもそも就学年齢ぐらいの若い年齢のうちになりたいものが見つかるのは困難ではないか」と指摘されていて確かにそのとおりだと感じました。
 
 面白かったのはハ・ジヒョン先生の「六ヶ月メソッド」。「自分がやりたい事かどうか、六ヶ月やってみればわかるんじゃないか」と。たいしてやりたくない事は六ヶ月続かないわけで、六ヶ月続けてみるのはスクリーニング手段として良いでしょう。日本の若い人ではアイデンティティ確立の問題は十年前ほど目立たなくなっていますが、まだ悩んでいる人もいるはず。そういう人、特に就学中ぐらいの人は、この六ヶ月メソッドを実行してみるといいんじゃないかと思いました。
 
 ※二日目のオープンチャットでのやりとりは、こちらにまとめてあります。興味を感じた人はどうぞ。
 



 
 ……こんな具合に、これまで知らなかったこと、現地で話して初めて気づいたことがたくさんあって有意義な三日間でした。まさかこのウェブサイトに辿り着くとは思えませんが、現地でお世話になったハジャ・センターの皆様と言葉を交わした皆様に、この場を借りて御礼申し上げます。
 
ロスジェネ心理学―生きづらいこの時代をひも解く

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