シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

深夜のインターネットは「こころの回復」に適していない

 
 精神科・心療内科における「休む(休養)」の本当の意味
 
 せせらぎメンタルクリニックさんのブログが素敵な記事を書いておられたので、ちょっと言及します。
 
 精神科・心療内科に通っている患者さん、とりわけうつ病の患者さんには休養が大切といわれます。しかしベッド上で臥床しているだけが休養ではなく、「こころを休める」ような活動も重要で、その活動内容には多かれ少なかれ個人差があることが示されています。回復途上の患者さん自身も、その周辺で回復を待っている人も、これは心得ておいたほうが良いポイントだと思いました。
 
 私も、回復しはじめた患者さんには「あなたがやって楽しい事を、少しやってみませんか?」「遊びに出かけたりできそうですか?」としばしば勧めます。うつ病の患者さんを遊ばせるとは何事だ!と怒る人もいるかもしれませんが、食欲や睡眠がとれるぐらいに回復した患者さんの場合、ストレスが少ない形でアクティビティを刺激できるような活動を含んでいたほうが、こころを休めるにしてもリハビリを進めるにしても無理が少ないと感じるんですよ。
 
 回復しはじめたばかりの患者さんには、まだ余力がありません。その、余力の少ない状態のなかで「こころの休息」と言って良いぐらいに気持ちを耕し、リハビリも勧めていくとしたら、まずは親しみの深い領域や好きな領域でやってみるのが一番だと思うんですよね。「辛い仕事の領域」でそれをやるのは、二手先、三手先が望ましいでしょう。
 
 

深夜のインターネットは患者さんにはお勧めできない

 
 でも、何事もやり過ぎは良くありません。
 
 例えば、うつ病の回復途上で魚釣りに出かけたり、温泉に入ったりするのは、一般論としては優れた「こころの休息」でしょう。でも、いくら魚釣りが好きだからといって、午前二時からイカ釣り漁船に乗り込むようなことを繰り返せば、なけなしの体力や精神力を使い果たしてしまいます。温泉にしても、湯あたりするようなら療養としては不適切です――うつ病になると自律神経の調節能力が弱まりがちで、欲張って温泉に入っているとかえって体調を崩してしまうことがあります。
 
 だから「こころの回復」は、意外と慎重にやらなければならないんですよ。ただ楽しいこと・好きなことを追いかければ良いのでなく、自分自身の回復の度合いを確かめながら、おそるおそる、ゆっくり取り組む必要があります。
 
 そして療養に際しては“相性”ってやつもあります。今回注目したいのは、“深夜のインターネットは「こころの回復」に適しているか”です。
 
 ここで、さきのリンク先からおさらいしてみましょう。せせらぎメンタルクリニックさんでは、一般的なこころの休め方として

・散歩などの軽い運動をする
・規則正しく生活をする
・早く寝て十分な睡眠を取る
・好きな音楽を聴く
・ゆっくりお風呂に入る

http://seseragi-mentalclinic.com/mental-rest/

 を挙げておられます。どれも精神科医がお勧めしそうな、自律神経系に大きな負荷のかかりにくそうな「こころの休め方」だと思います。
 
 しかし深夜のインターネットはそうではありません。
 
 そもそも深夜のインターネットは、早寝早起きという精神科・心療内科の推奨原則から逸脱しています。生活リズムが深夜型になれば、ただでさえ不眠に陥りがちな患者さん*1の睡眠確保が難しくなってしまいますし、再就労・再就学といった、回復後の社会活動のハンディにもなってしまいます。
 
 まず、あのディスプレイがいけませんね。深夜のインターネットは明滅するディスプレイを凝視するものです。これだけでも自律神経系が刺激されてしまうのに、コミュニケーションの刺激や「いいね!」の刺激を受けていれば、いやがうえにも神経が昂ぶって眠りにくくなってしまいます。エキサイトしてしまって、つい午前一時や二時までネットをやめられない人も多いのではないでしょうか。
 
 深夜のインターネットが楽しいのは論を待ちません。しかし、たとえ「こころが楽しい」と感じていても、それは興奮性の強い楽しさであり、就寝前にやり過ぎると睡眠の足を引っ張ってしまう点には気を付けてもらいたいのです。だから私は、精神科の患者さんには深夜のインターネットはやめたほうが良い、といつも注意して回っています。「こころの楽しみ」とするには代償が大きすぎます。
 
 それともう一点。精神科や心療内科で治療中の患者さんは、かなりの割合で就寝を手助けしてくれる薬を処方されています。それは睡眠導入剤かもしれないし、睡眠を助長する他の向精神薬かもしれませんが、とにかく休むべき時間に休むための薬は“定番”です。
 
 ところが、そういった「休むための薬」を内服してからも、PCやスマホをダラダラいじっている患者さんが意外といるんですよね。クリニックの外来にも、twitterのタイムラインにも、そのような患者さんは探せば結構見つかります。せっかく「休むための薬」を貰って飲んでいるのに、インターネットの興奮に身を任せていては、そりゃあ眠れませんよ。そのような患者さんは主治医に「薬が利きません」と言う前に、まず、深夜のインターネットをやめるべきです。
 
 もっとひどい例になると、そうした薬に加えてアルコールまで飲み、“千鳥足でインターネットやっている”患者さんまでいます。アルコールとの相性が最悪な薬を飲み、ときには記憶を飛ばしながらインターネットをやるなんてとんでもない行為だと思うのですが、そういう事例に何度か出くわしたことがあります。「衝動買いがやめられない」患者さんに事情をしつこく聞いたら、実は深夜に酒と睡眠薬をカクテルしながらアマゾンや楽天を眺めるのが習慣になっていた……みたいな話が、現実にあるのです。
 
 患者さんにしつこく質問するとこういう問題が案外見つかるので、たぶん、私が診ているのは氷山の一角なのでしょう。深夜のインターネット、それも、就寝を手助けしてくれる薬を飲んだ後のインターネットは本当に最低最悪です。「こころの休息」のかたちは色々あるとしても、これだけはやめてください。
 
 

「こころの休息」としてのインターネットはどうあるべきか

 
 とはいえ、現代人がインターネット抜きで生活するのもそれはそれで大変です。インターネットが大好きな私としては「こころの休息」をインターネットに求めたい人の気持ちもわかる気がします。なら、うつ病等の治療を受けている人の「こころの休息」としてのインターネットはどうあるべきでしょうか。
 
 個人的には、「人が起きている時間にインターネットを楽しむ、それも興奮しすぎない程度に」がお勧めです。
 
 朝起きて、少し散歩をしたり朝日を浴びたりした後、朝のインターネット巡回をしたり、SNSを楽しんだりすれば良いのです。朝から根を詰め過ぎると後が辛いので、一時間かそこらで切り上げましょう。
 
 夕食後も、ゆったりとした気持ちでインターネットをやるには向いています。ただし、これも精神力を使いすぎない程度に。「こころの休息」を優先させるあまり「神経の疲弊」を放置してしまうと、翌日が辛くなってしまいます。午後9時までにはPCやスマホの電源を切り(必ず切ってください)、1時間ほど興奮を醒ますインターバルを置いてから就寝前薬を内服すると、薬の効果が興奮に妨げられなくて良いかもしれません。
 
 インターネットも、規則正しく、自律神経に負担にならないようなリズムで楽しむべきなんですよ。とりわけ回復途上の大事な時期には。
 
 こうした配慮は、インターネットが好きでたまらない患者さんには足枷のように感じられるかもしれません。が、就寝という、あらゆる精神疾患で重視されているファクターを台無しにしかねないネットの使い方は避けるべき、と私は思います。少しずつ運動をするのと同じように、自分自身の回復度合いを点検しながら、少しずつネットを嗜んでいくべきだとも思います。そのあたりのペースがわからない時には、主治医に相談してみるのも手かもしれません。
 
 インターネット上には、精神科に通院しているにも関わらず、深夜までtwitterやSNSでお喋りに没頭する人がたくさんいます。そのようなアカウントが「精神科は役に立たない」「いつも辛くてしようがない」と愚痴っているのを耳にすることさえあります。しかし、深夜まで目をギラギラさせながらインターネットをやるのはそろそろやめにしませんか?もっと、自分の身体や神経を労わるようなインターネットの楽しみ方があるのではないでしょうか?
 
 なにもインターネットに限った話ではありませんが、「こころの回復」を優先させようとするあまり、身体や神経を酷使していては治るものも治りません。気をつけてください。
 

*1:注:うつ病をはじめ、大半の精神疾患は随伴症状として不眠を伴います。