「仕事しんどいよ〜!」
「よし、こんな日はシャンパン開けよう! 」
まだ、シャンパンが安かった頃のお話。
当時、私は仕事もプライベートもいまいちで、進路にも迷っていた。先行きのわからない生活とひどい田舎暮らし*1のなか、五里霧中な毎日だった。
その頃を支えてくれたのはシャンパンのハーフボトルだ。具体的にはこちら↓。
ヴーヴ・クリコ ハーフボトル
当時は3000円以下のシャンパンを探すのは簡単で、ハーフボトルのシャンパンなら2000円も払えば十分だった。そんなシャンパンのなかで気に入っていたのは、黄色いラベルのヴーヴクリコだった。同価格帯の他のシャンパン、特にモエ・エ・シャンドンのそれに比べると果実味がわかりやすくて、苦みや酸味がマイルドで比較的飲みやすいと感じた。
この、イエローラベルのクリコが一本2000円を切っている価格で、近くの酒屋に山のように売られていたのだ!
いつしか私は、このクリコのハーフボトルをリピート買いするようになり、気が付けば、2本3本とまとめて買うようになっていった。ダース買いするようになるまで時間はかからなかった。
当時のオフタイムはこうだ。
1.今日は何か良いことがあった。
→「じゃあ頑張った俺様へのご褒美とお祝いだな!シャンパンを飲もう!」
2.今日はとても不幸なことがあった。
→「俺様は悲しいのである。俺はシャンパンを必要としている!」
嬉しい日もシャンパン。悲しい日もシャンパン。
こういう生活を続けていると、だいたい一か月で5〜6本のハーフボトルシャンパンが必要になる。一ダース買っとけば二か月くらいは大丈夫だ。「シャンパンなんて贅沢な」と思ったこともあったけど、こうも同じシャンパンばかり飲んでいると、もっと手頃なスパークリングワインとの品質の差に気づいてしまい、「普通のスパークリングじゃ駄目。やっぱりいつものやつ!」となってしまう。「ワインごとに、はっきりとした味覚や香りの差がある」「ボトルや自分のコンディションによって同じワインでも印象が左右される」といった事を理解したのは、同じシャンパンを馬鹿の一つ覚えのように飲んでいたこの時期だった。
じゃあ、シャンパンばかり飲んでどれぐらいカネがかったかといえば、一か月6本と考えれば12000円足らず。ゲームソフトを2本買うか、外で2〜3回飲めば吹き飛んでしまう金額だ。当時の煙草の価格を考えると、煙草よりちょっと値段が高いぐらいか。それでいて、シャンパンは最低の気分の時も最高の気分の時もしっかりフォローしてくれ、十分満足して眠りにつくことができたから、費用対効果でいえばおつりがくるぐらいだった。心理的にモヤモヤした境遇のなか、月々たった12000円で心の平穏が得られたのは、とてもありがたいことだった。
ハーフボトル(375ml)という量がまた絶妙だ。これだけ呑めば、もう他にお酒が要らなくなる――シャンパンを375ml腹に流し込んで、美味しさでおなかいっぱいにならない奴がどこにいるというのか!しかも、安ワインにありがちな二日酔いや頭痛ともほとんど無縁ときたもんだ*2。一人で飲んでいても寂しいなんて思わない。むしろ逆だ。極上の飲み物を、独り占めできてしまうのである*3。こんな幸せあるものか。
一本約2000円という価格もちょうど良くて、「もう一本」「またもう一本」と欲張るにはちょっと高すぎる。ちょっと高いから自制が効きやすく、酒に呑まれてしまうおそれも少ない。「ご褒美」「哀しい日のフォロー」という大前提を崩さないためには、シャンパンという肩書と、2000円という高すぎず安過ぎない価格が(当時の私には)ベストチョイスだった。
「ここぞ」という時の嗜好品、いいですよ
私にとってのシャンパンがそうだったように*4、「ここぞ」という時に「使える」嗜好品があるのは幸せなことだと思う。依存症になってしまうような大量摂取が困難で、さりとて家計を圧迫するほど高価でもなく、深酒やヘビースモーカーほどの健康被害を与えないようなアイテムなら、喜ばしい時・うなだれた時に付き添ってくれる人生の友達になってくれる。
自制が効かない人には全くお勧めできないけれど、ある程度の自制が効く大人なら、「ここぞ」という時の嗜好品を探し出し、自宅にため込んでおくのはアリじゃないでしょうか。職場でしんどい事があった時も「まあいいや、今夜は家に帰ってあれをやればいいんだ」と思うだけで何とか凌げるものですし。