シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

ネットで目立つための素養は、短期/長期でだいぶ違う

 
 師走も後半に差し掛かってきましたね。
 
 今年もたくさんのネットユーザーの栄枯盛衰を眺めてきました。見知ったアカウントが消え、興味深いブログの更新が途絶えるのを目の当たりにすると、私は『方丈記』の冒頭を連想してしまいます。このあたり、ブロガーの一人として他人事とは思えず、娑婆の風の厳しさに身が引き締まるような思いがします。
 
 それはそうとして、ネットの人気者・注目を集め続けるアカウントに必要な素養とは何でしょうか。
 
 いろんな特徴が連想されますが、タイトルにもあるように、短期的に注目を集めるための素養と長期的に注目を集める素養はかなり違っているように思えるのです。違いがあるからこそ、たまさか朝顔のように咲き乱れたアカウントが数か月も経ないうちに消滅……といったケースが後を絶たないのでしょう。
 
 たった一度だけ「時の人」になるためのハードルは、そんなに高くはありません。他人が滅多に経験したことの無いことを書きつづったり、自意識の痛みをちょっと演技的な気分で書き散らしたりすれば、どんな人でも、一度や二度は「時の人」になれるでしょう。
 
 数週間〜数か月、ネット上で目立つならどうか?
 一度だけ「時の人」になるのに比べれば難しいとはいえ、このぐらいの期間なら、自分のキャラをどぎつく貫けばなんとかなるように見受けられます。新規なキャラ・目立つキャラ・どぎついキャラは、新しいもの好きな(そして飽きっぽい)聴衆には歓迎されやすいものです。そうした目立つキャラに、いわゆる炎上マーケティング的な、後先を考えず疾走するスタイルが伴っていれば、かなりの確率でネットの“お立ち台”をキープできるでしょう。
 
 問題はそこからで。
 
 2〜3年以上目立ち続けるために必要な素養はどうでしょう。
 “一発芸”が論外なのは当然として。「目立つキャラ」だけでも駄目な気がします。キャラ立ちに面白さや魅力の多くを依っているアカウントは、大抵、飽きられてしまいます。
 
 もちろん飽きられるのを阻止するために、もっとどぎつく・もっと過激にネットパフォーマンスをやるという手はあります。
 
 しかし私の見聞した限り、そのような芸のインフレーションは9割方、破滅に至る道です。キャラ立ちと過激パフォーマンスに頼っているだけのアカウントが、それらへの依存度が高いままネットの“お立ち台”にしがみついても、あまり首尾の良い結果を生むようにはみえません。自転車操業的には有効なのは認めますが、アカウントの命の蝋燭を前借りして使い果たすような、危険な手法と思わざるを得ません。
 
 反対に、アカウントを長く生き残らせている人達はどんな特徴を持っているでしょうか。
 
 知識や経験やユーモアや肩書が重要……かもしれませんが、なにより重要で、ほぼ全員に共通しているのは安定性だと思います。そこそこ以上に人目を集めていて、しかも長生きしているアカウントは、おしなべて安定性が高いと思うんです。
 
 ここでいう安定性という言葉には、アウトプットを定期的にアップロードする能力だけでなく、衝動に身を任せた言動を控える能力も含みます。自分の欲求をそのままアウトプットに反映させない(せめて多少なりとも自己検閲を働かせられるような)素養は、アカウントを長生きさせるために必要不可欠です。
 
 それと、人間関係のトラブルへの対処能力も重要です。
 
 インターネット開闢から今日に至るまで、ネットコミュニケーションは摩擦や揉め事に満ちています。ネットを長く続けている限り、そうしたトラブルは不可避に近く、どんなに注意深く振る舞っている人でも、ときには巻き込まれるでしょう。トラブルをできるだけ減らす能力・揉めた時のストレスや悪評を最小化する能力が、注目を集め続けるネットアカウントには何かしら備わっているようにみえます。
 
 いずれにせよ、ネットで長生きしているアカウントには“人目を惹けばそれで良し”的な迂闊さがあまりありません。炎上上等で運営しているっぽいアカウントや火中の栗を拾うそぶりをみせるアカウントも、安全マージンに細心の注意を払っているケースが殆どです。
 
 

アカウントの安定性は、ネットライフに必要不可欠

 
 一般に、数週間〜数か月ぐらいネット上でキラキラしただけでは、達成できることはたかがしれています。獲得した承認欲求はじきに消えてしまいますし、他のネットユーザーとの友誼を深めるにも時間が足りません。そもそも、ネット上で楽しい思いをし続けるならアカウントの持続性はどうしたって必要です。そのためにも、アカウントの不安定性を招くような言動には注意深くなっておかなければなりません。
 
 「危なくなるたびにアカウントを消せば良い」と反論する人もあるでしょう。しかし、ブログ世界であれ、twitterや動画の世界であれ、アカウントを消しても消えない悪評というのはありますし、アカウントを消した後、無反省にも同じことを繰り返しているようではアカウントが幾つあっても足りません。なにより、アカウントを消してリセットしてばかりでは信頼も信用も生まれないのです。
 
 だから、アカウントを消してばかりのネットユーザーに必要なのは新しいアカウントではなく、ネット処世術を見直すこと・自分自身のアカウント安定性を高めることだと思います*1。蜻蛉のようなネットライフがお望みなら話は別ですが、生き残り続けるためには安定性をキープするための処世術が必要不可欠です。
 
 この話に難点があるとしたら、人間の安定性は簡単には高まらず、努めていてさえ時間がかかる点でしょうか。“なかのひと”がもともと不安定な場合・若すぎる場合には、ネットアカウントはどうしたって不安定になりやすく、制御は大変です。こればかりは、長い時間をかけてセルフコントロール能力を高めていく以外に方法がありません。いつまでも不安定な人は……ネットが向いていないかもしれません。
 
 とはいえ、大抵の人はそんなに悲観しなくても良いような気がします。自分自身が不安定だと自覚できるなら(まあ、それが難しいと言われればそれまでですが……)、自分がブレやすくなっていると自覚している時にネットを控えるだけでも安定性はかなり高くなるでしょう。ネットで下手を打つのは、大抵、自分自身が不安定な時や精神的に飢えている時ですからね。
 
 「回線切って寝ろ」は先人の知恵。ネットの“お立ち台”に上りたがる人も、そうでない人も、不安定を自覚している時は暫くネットを離れて一人で過ごしたほうが良いでしょう。take care of yourself.
 
 [関連]:「そういうときは身を隠すんだ!」――ネットの乱気流に巻き込まれたら - シロクマの屑籠
 

*1:きわめて稀に、アカウントを消しても消しても“なかのひと”の面白みが滲み出て、人気が出てしまうケースが無くはありませんが、あくまで例外です