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シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

「そういうときは身を隠すんだ!」――ネットの乱気流に巻き込まれたら

執着

 
 インターネットには、「気流の乱れ」みたいなものがあるじゃないですか。
 
 ある日突然、ドカーンとPVが集中したり、自分自身がチマチマと積み重ねてきた活動が脚光を浴びるようになったり。ネットコミュニティの片隅で平和に暮らしていたつもりが、いつの間にやらネットメディアの都大路のセンターラインに流されて、大勢の人間に一挙一動を観察されるように――そんな事があります。
 
 インターネットは個人発信メディアと言うけれど、普段はそんなにシャチホコばって意識する必要なんてありません。法にさえ触れなければ、まあ、何書いたって構わないものだと思うんですよ。ところが、「気流の乱れ」に流され、不特定多数のアテンションに曝される圏域に運ばれてしまうと、その個人・そのアカウントのメディアとしての色々なものが試され、評価され、言及されてしまいます。
 
 アテンション=承認欲求、と思いたいところですが、罵倒やこき下ろしも不可避的に集まってきます。重箱の隅をつつきたがる人や、わざわざ同族嫌悪の投影対象を探しに来る人も。もちろん、罵倒やこき下ろしを「減らす」術策もありますが、一般に、そうした術策はストレスを代償とし、しばしばテクニカルです。プロブロガーのような場合はともかく、のんびりインターネットを楽しんでいた人にとって、それらのコストはやりきれないものと感じられるかもしれません。しかも、そうしたコストを費やしたところで、罵倒やこき下ろしを全部シャットダウンできるわけでは無いのです。
 
 実は、アテンションを集めること自体も大きなストレスなんですよ。標準的な自意識の個人が、百人、千人に注目されるのは、どんなに嬉しくてもラクなことじゃありません。案外、そういう注目をストレスフリーに受け取れる人間だけが真のスターになれるのかもしれませんが、まあ、普通は難しいと思います。称賛をかき集めているうちに、感覚がどこかが狂ってくる。知らないうちに疲れてきたりプレッシャーになってきたりする。そのうえ、実際には罵倒や非難も不可避的についてまわるので、精神力がガリガリ消耗していく……。
 
 古来、少なからぬネットユーザーが、そうした「気流の乱れ」に巻き込まれて衆目を集め、不特定多数のまなざしに曝されるうちに消耗していきました。あるいは自意識の歯車が微妙にズレていき、数年単位で朽ちていきました。
 
 だから、ネットでアテンションを集めまくる境遇ってのは、本当は、とても怖いことなのだと思います。より正確には「メディアとしての個人としてアテンションを集めまくる境遇」と書くべきでしょうか。とにかくも、ネットの乱気流に巻き込まれ、いつの間にかアテンションを集める立場に立たされるってのは、簡単なことじゃあ無いんですよ。表面的には素晴らしいことのようにみえるし、褒められたり注目されたりしてハッピーのようにみえても、その実態は針のむしろと紙一重。準備も覚悟も無い人間が、安易に憧れて良いものとは思えません。
 
 

ネットの気流の乱れに巻き込まれてしまったら

 
 ネットの乱気流に巻き込まれて、いつの間にかネットのお立ち台に登ってしまった時にはどうすれば良いのか?
 
 対策は難しいです。胃がヒリヒリするような感覚を覚えていても、つい、有頂天になってしまうのではないでしょうか。日頃、承認欲求に飢えている人の場合は、とりわけそうだと思います。
 
 どんなに冷静を装っているつもりでも、大勢の人に注目され続け、あれこれ被言及され続けていると、絶対に歯車が狂ってきます。たとえ褒められている割合が絶対的に勝っていても――むしろ、褒められている割合が絶対的に勝っているような場合は、その偏りによってこそ――自意識はなにかしら変質を蒙ります。そのような状況で冷静を保つことは困難で、どこかしら腰が浮いてしまいます。よほど注目され慣れている人や、稀有な精神を持っている人を例外として、これは避けようがありません。
 
 じゃあ、どうすれば良いのか?
 
 私は「そういうときは身を隠すんだ!」の一手に尽きると思います。
 
 自意識がオロオロしている時に、インターネットのお立ち台で何かをやっても、だいたい良いことはありません。少なくとも、準備も覚悟も無いままアテンションの集中する圏域に滞在するのは、きわめて危険です。そういうのはプロブロガーな人とか、ネットでビジネスな人達に任せておけばいいのです。プロブロガー周辺の人達ってのは、アテンションの集中に対する耐性を持っているっていう意味では、実際たいしたものだと思いますよ。
 
 いつもの自分に戻りましょう。アテンションの集中から身を隠しましょう。ネットから離れてしまうのは最上の策です。本当に心配してくれる常連以外は、どうせ忘れてくれます。一週間もすれば、正気に戻ることが出来るでしょう。
 
 それが無理なら、大向こうにウケそうにないブログ記事を書いたり、常連のほうだけを向いたメンションを繰り返すのも手です。不特定多数にウケようとせず、いつも付き合っているネット仲間のほうだけ向いていれば、おのずとインターネットのお立ち台から遠ざかることが出来ますし、精神も元の調子を取り戻しやすいのではないでしょうか。
 
 アテンションの洪水に未練が残る人もいるかもしれませんが、手に負えないアテンションの濁流は判断力を狂わせるものです。自分が冷静を保てる程度のアテンションの水準*1をキープするのがネットユースとしては最上なのであって、身の丈を逸脱したアテンションを浴び続けるのは絶対によろしくありません。もし、乱気流に呑まれて舞い上がってしまったら、身を隠しましょう。いつもの高さに戻りましょう。そして自分自身の正気度を取り戻すのです。
 

*1:たぶん、その水準とは「ちょっと足りないと感じるぐらいのアテンションの集まり具合」だと思います