シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

『「いいね」時代の繋がり――Webでこころは充たせるか――』を出版しました

 
 「いいね!」時代の自己愛の充たし方について、電子書籍を出版しました。
  
 私はネットコミュニケーションが大好きな精神科医なので、いつも「ネットと心理」の本が読みたいと思っています。ところがインターネット関連書籍のほとんどは、テクノロジー・政治・ビジネスについてのもので、「ネットと心理」について書かれた本はあまりありません。ヘビーなネット依存についてなら書籍も論文もそれなりに流通しているんですが、「病的水準ではない、ごく間近な水準のネットユースを介した心理的充足」のメカニズムや問題点に着眼した本はあまり存在しないと思います。国外の・ネット黎明期に書かれた書籍ならともかく、日本ローカルの・2010年代のネットに即した心理学的考察は、見たことがありません。
 
 それならいっそ、ネット上の承認欲求や自己愛充当について、自分なりに考えをまとめてみようじゃないか――そう思っていた矢先、エレファントブックス社さんから出版のお誘いを頂き、一冊の電子書籍としてまとめる機会を得ました。
 
 ネットで心を充たそうと頑張っても、ちっとも渇きが癒やされないのはなぜなのか? ネットに心理的な満足を求める毎日の繰り返しが、個人の処世術や社会全体のコミュニケーションにどういう影響を及ぼし得るのか?――そういったクエスチョンについて、コフートの自己心理学を援用しながらアップトゥデートな問題提起をしてみたつもりです。
 
 


本書構成

 
 ・はじめに
 ・インターネットと心理について私が考えてみる理由
 
 【第一章】オンラインで人同士が“繋がる”時代
 梅田望夫氏が『ウェブ進化論』のなかで「Web2.0」を掲げたのが2006年。それから7年あまりの間に、ウェブはたしかに進化しました。ところがネットの進化に人間の側はついていけず、自己顕示欲が透けてみえるような炎上・きわどい動画投稿・過剰なソーシャルゲーム課金といったものが後を絶ちません。そうした問題はけっして他人事ではなく、東日本大震災翌日以降のtwitterのタイムラインが示していたように、気持ちの動揺や不安はネットライフにたやすく反映されてしまいます。第一章では「情報ネットワークではなく情動ネットワークとしてのインターネット」について現状をかいつまんで紹介します。
 
 ・インターネットで大火傷する人達
 ・人は最悪の精神状態で最悪のインターネットをやってしまう
 ・ネトゲ廃人――永遠の疑似社会
 ・自己顕示欲の自動販売機――ソーシャルゲームの大躍進
 ・ツイッターは“情報ツール”である前に“情動ツール”だった
 ・ネットという名の感情の網
 
 【第二章】「自己愛をネットで充たす」とはどういうことか
 だれもが心理的欲求を抱えながらインターネットに接続している以上、ネットユースを理解するにあたっては、ギーク的なテクノロジーに着眼するだけでなく、もっとプリミティブな人間心理にも着眼しなければ埒があきません。そこで第二章では、コフートの自己心理学を援用しながら、ネット上で繋がりを求めるということ――つまりネットを介して自己愛を充たすこと――の特徴や問題点を挙げていきます。
 
 ・心理的欲求は貯蓄がきかない
 ・「自己愛を充たす」ってどういうこと?
 ・自己対象(自己愛を充たしてくれる対象)は三種類
 ・現実の自己対象と、バーチャル自己対象との違い
 ・土砂降りと日照りが繰り返されるインターネット
 ・自己愛を充たし足りない人が、ネット依存に陥っていく
 
 【第三章】人間のデータベース消費
 人間のコミュニケーション全体に占めるネットの割合が増大し続け、スーツ姿のサラリーマンまでもがSNSを嗜むようになった2013年。ネットを介した自己愛充当ならではの問題点は、もはや一部のヘビーユーザーだけが気をつければ良いというものではありません。第三章では、SNSの“キャラ萌え”的なコミュニケーションや、各種パーソナライゼーションの実相に触れながら、ますます願望-親和的になっていくインターネットが人間心理や近未来のコミュニケーションに与える影響について考察します。
 
 ・オフ会で会ってみるまで“なかのひと”の性質は分からない
 ・タイムラインは見たいアカウントのコラージュ
 ・“キャラ萌え”化するコミュニケーション
 ・自己愛を充たしてくれるなら、人間じゃなくても構わない
 ・見たいことの外側に出られないインターネット
 ・インターネットという万華鏡、あるいは鏡地獄
 
 【第四章】ネット自己愛充当と、どう向き合うのか
 ネットを介した自己愛充当には固有の問題があるにせよ、もはやインターネットは繋がりのインフラとして必要不可欠なものです。そこで第四章では、インターネットの繋がりをどのように作っていくのが望ましいのか、(1)日常の延長としてネットを使う人・(2)ネット固有の人間関係を楽しむ人・(3)現実なんてまっぴら御免な人 に場合分けしてひととおり考えてみます。そのうえで、自己愛充当のリスクヘッジ手段としてのインターネットの有用性を紹介します。
 
 ・リアルの人間関係だけでは、現代人は心理的に間に合わない
 ・繋がりのインフラとして、ネットはもう避けられない
 ・(1)現実の人間関係をはみ出さないでネットを使う場合
 ・(2)ネット固有の人間関係を育てるには
 ・(3)「現実なんてまっぴら御免」な人はどうすべきか
 ・“現実からの避難港”としてネットサービスを活用するなら
 ・自己愛充当のリスクヘッジとしてのネットユース
 
 【第五章】ネットで自己愛は成熟し得るのか
 ネットコミュニケーションで人間は成熟可能でしょうか?もし可能だとして、どんなやり方があり得るでしょうか?人間は毎日のコミュニケーションを介して少しずつ変化していくもので、それは現実世界でもネットでも同じです。また、人間が生涯にわたってナルシスト的要素を抱えながら生きていくとしても、歳相応に、適切に社会化されたナルシストとして生きていく道はある筈です。そうした自己愛を巡る人間の成熟のあり方と、ネットコミュニケーションの是非について触れていこうと思います。
 
 ・“頭のいい人”まで鏡の国に引きこもって構わないのか
 ・自己愛の成熟を志向したネットコミュニケーションとは
 ・齟齬や摩擦を含んだネットコミュニケーションを実行するには
 ・技能習得をネットに頼る際の注意点
 ・伸び盛りな年頃のネットユースをどうすべきか
 ・誰が若年者にネットユースを教えるか
 ・リアルがネットに、ネットがリアルになっていく世界のなかで
 
 【番外章】診察室で見かけたインターネット 
 番外章では、診察室の側からみたインターネット絡みのエピソードを5例*1紹介し、若干の考察を付け加えてみます。ヘビーなネット依存を紹介するのではなく、一般的な精神科臨床にネットユースの問題が絡んできた瞬間をスナップショット的に集めてみました。
 
 ・事例1 精神症状が悪化しツイッターで炎上したAさん(26歳・女性)
 ・事例2 ネットで注目を集めて一気に舞い上がってしまったBさん(27歳・男性)
 ・事例3 入院が必要な病状になってもSNSがブレないCさん(45歳・男性)
 ・事例4 双極性障害でネット買い物依存――その裏側で(44歳・女性)
 ・事例5 小説公開サイトが心の支えになっているEさん(36歳・男性)
 



 
 インターネットと人間の心理の関係について考えてみたい人・ネットで心を充たしたいけれども渇きがおさまらない人には、お勧めしやすいと思っています。また、十年来のネットウォッチ経験をフィードバックした本なので、ネットウォッチャーには間近な話題の多い本かもしれません。Amazonで購入する方は以下をどうぞ。
 
「いいね!」時代の繋がり―Webで心は充たせるか?― エレファントブックス新書

「いいね!」時代の繋がり―Webで心は充たせるか?― エレファントブックス新書

 

*1:プライバシーの問題等があるので実症例をそのまま紹介するのではなく、実際に見聞した複数のケースを混ぜ合わせたテンプレートとしての5例である点は、断っておきます。