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シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

“壁ドン”を介した一体感と連帯感――ベタな表現と、エモーショナルな繋がり

オタク趣味

 
 …前にも似たような記事を書いたような気がするけれど、大事なことなので二度以上言ってもいいような気がするので。
 
 ここ最近、ニコニコ動画を見ていて“壁パン”“壁持ってこーい!”といった文字をよく見かけるようになった。例えば『ソードアート・オンライン』『まおゆう 魔王勇者』などで男の子と女の子がキャッキャウフフなシーンになると、壁をドンドン叩くようなコメントが弾幕状に表示される。壁叩きだけでなく、もっと直接的に嫉妬が表明されることもある。コメントを字義通りに読むなら、「うわ、このアニメ見てる人達はみんな嫉妬しているのかー」となりそうではある。
 
 もちろん、実際に強く深く嫉妬している動画閲覧者もいるのかもしれない。けれども動画を観ていて感じるのは「そういう真性の嫉妬者は殆どここにはいない。」「そうじゃなくて、嫉妬で繋がる一体感や連帯感」が気持ちいいんだ、ということだ。
 
 最近の“壁パン”に限らず、ニコニコ動画、特に肌色パーセンテージの高い深夜アニメを見ていていつも思うのは、コメントを書き込むような視聴者はコンテンツ越しに性欲を補償することよりも、誰かとエモーショナルな一体感や連帯感を持つことに夢中になっているんじゃないか、ということだ。一時期の“おまわりさん、こいつです”とか“我々の業界ではご褒美です”なんかもそうだ。ロリコンへの怒りが嵩じているわけでも、真性のマゾヒスティックな悦びというわけでもない。けれども、そういう言葉と言葉が同じ動画でシンクロするということに意味なり効能なりがあって、心理的な満足を得ている、という構図。
 
 性欲の皮をかぶった他種の心理的欲求、というのは案外多い。
 
 例えばE.エリクソンは、思春期心性真っ盛りにおける恋愛は、本当の意味での二者の繋がりになるよりも、自分のアイデンティティを確立するための手段として異性に惹かれやすい、という事を書いている。現代風にかみ砕いて表現するなら、自分自身に自信が無かったり、自分の基盤が確立したりしていないから、恋人を存在証明の手段として欲しがったり、美男美女を恋人にして自分は偉いんだと思いたがったりする、というわけだ。そういうニュアンスが強いなかで、そのニュアンスに即した異性に惹かれていきやすいってことだ*1
 
 同じように、肌色なニコニコ動画のアニメに出てくるコメントも、表面的には嫉妬だったりマゾだったりしているけれども、その内実は性的な欲求充足よりも、一体感や連帯感の充足が前景に出ているように見える。というかそうとしか見えない。一体感や連帯感といえば、どちらかといえば自己愛充当の領域だ。それもニコ動の場合、個人単位で賞賛を集めるような平成以後に流行したタイプの自己愛充当ではなく、匿名の村人同士が身を寄せ合ってシンパシーを体験するような、昭和以前に流行したタイプのような、ちょっと古くて日本風の自己愛充当だ。
 
 こうした「ちょっと古くて日本風の自己愛充当」は、今でこそニコニコ動画が主たるフィールドになっているけれども、かつては「2ちゃんねる」が機能を担っていた。エモーショナルな一体感や連帯感を提供するネットサービスが、日本で常になにかしら流行しているのをみるにつけても、案外、日本のネットユーザーのなかには古くて日本風の自己愛の充たし方を求めている人が多いのだなぁと思うし、ネットに充当先を求めずにいられない程度には、一体感や連帯感がオフラインで足りてない人がたくさんいるんだろうな、とも思う。日常生活のなかで一体感や連帯感が足りている人は、わざわざネットでソレを求めなくて済むだろうし、むしろ、一体感や連帯感をしがらみと感じている人なら、そういうネットサービスより、もっと一匹狼&自由になれるネットサービスにリソースを割くだろう。
 
 しかし現実のニコニコ動画では、(嫉妬やロリコンといった)ベタな記号を格好のフックにして、感情的に共鳴するユーザーの姿が見受けられるわけだ。オフラインで繋がらないぶん、オンラインで繋がる、というわけなのだろう。それで助かっている人もいるかもしれないし、そこに溺れ過ぎた人もいるかもしれない*2。同調圧力ならぬ同調快楽、とでも言えばいいのか。なんにしても、あの賑わいもまた日本のインターネットの風景だ。オフラインの寂しさを映し出す影絵のような賑やかさ。
 
[関連]:ネットコミュニケーションの七面鳥化・コオロギ化 - シロクマの屑籠
 

*1:そして本当に一緒に結婚して暮らすのに適した異性の魅力は二の次になっちゃう事が多い、ということでもある

*2:あと、ひょっとしたらリアルでは感情表出が苦手だけど、テクストの世界で言語的になら感情表出しやすい、という人もいるかもしれない