シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

「中身のないラノベ」≠「たいしたことのないラノベ」

 
 お前らって、とりあえずヒロインがいっぱい出てきて、抜きゲーばりに主人公がモテモテでひたすらイチャイチャするだけの中身空っぽなストーリーが読みたいからMF文庫読んでるんじゃないのか? - 主にライトノベルを読むよ^0^/
 
 上の記事のなかに、作品の出来不出来をもったいない基準で判断している人が混じっているような気がしたので、ちょっと書いておく。
 
 なるほど、『僕は友達が少ない』や『ゼロの使い魔』のような作品は、イージーなキャッキャウフフを愉しんでもらうための、あざといライトノベルには違いない。文章は平易で、文字数も少なめ、小学校高学年でも読みこなせそうな作品だ。
 
 こういった作品を見ると、ちょっと読書をかじった人達(特に、自分はもっと”中身のある”本を読んでいると胸を張りたがる人達)は、「中身が空っぽの作品」といったような評価をすることがある。そこまではいい。問題はそこからで「中身が空っぽの作品」→「たいしたことがない作品」「ダメな作品」と決め付ける人がいる。でも、それは本当なのか?
 
 そうじゃないと思う。『僕は友達が少ない』『ゼロの使い魔』あたりの作品は、恐ろしくよくできた作品、というか、かなり鋭利につくられた作品だと思う。
 
 『僕は友達が少ない』のようなキャッキャウフフのハーレムラノベは、一見、誰でも書けるように見えるかもしれない。ありきたりな文体、今風のスラングと今風のキャラ、そして「お前、なんでこんなつまらない台詞言うんだよ」と突っ込みたくなるような台詞・行動……そういう個々のフレーズだけを見ると、たいしたことはなさそうに見える。
 
 けれど、そういった平易なフレーズを組み合わせて『僕は友達が少ない』と同じぐらいのクオリティの作品が誰でも組み立てられるかと言ったら、たぶん、ものすごく難しいと思う。あの作品には、余計な台詞・余計な描写が非常に少ない。文章を点検すると、どの台詞も作品構成に欠かせられない、それなり効果を孕んだ一文であったりする。あの、一見無駄にしか見えないような一部のやりとりも含め、何を足しても、何を引いても、冗長になったり描写が足りなかったりして、コンテンツとしての緻密さは下がってしまうように見える。『ゼロの使い魔』にしてもそうで、何を足しても、何を引いても、クオリティが下がるんじゃなかろうか。
 
 そうやって見るなら、『僕は友達が少ない』『ゼロの使い魔』あたりは、精密につくられた完成度の高いライトノベルだと気付かざるを得ない。ライトノベルというジャンルのなかでも、この手の作品は、わかりやすい文体・少ない文字数で仕上がらなければならないだけに、余計な描写・余計なフレーズを差し込める余地が少ない。もちろん邪気眼的な勢いでごまかすことも許されない。一番簡略な文章で、一番効果的にキャッキャウフフを読者に提供するというのは、これはこれで過酷な世界であり、ヒット作を書いている作者(とおそらく編集者さん)の力量に思いを馳せずにいられない。
 
 

「ライトな作品」と「たいしたことのない作品」とを混同してはならない

 
 ライトノベルに限った話ではないが、世の中には、「ライトな作品」=「たいしたことのない作品」、「ヘビーな作品」=「優れた作品」と思い込んでいる人がいるように見受けられる。
 
 しかし、ライトな作品のなかにも、無駄を極限までそぎ落とした切れ味抜群の作品もあれば、重い作品といえば聞こえはいいが、小難しいボキャブラリーやシリアスな展開・設定に助けられている作品もある。完成度や緻密さという観点から見れば、前者のほうが「優れた作品」「アマがプロの真似をしにくい作品」といえる筈で、そうした作品を「たいしたことがない作品」というのは間違っている。
 
 『僕は友達が少ない』『ゼロの使い魔』に限らず、ライトノベルというジャンルには、そういった、ぎりぎりまで贅肉を落として"読者への効果"を最大化するよう努めている作品がたくさんあると思う*1。それを「ジャンクフードだ」「萌え豚に媚びている」的に見下すのは簡単かもしれないが、種々の制約のなかで「萌え豚に媚びている」を鋭利に表現できている作品の、技量なり才能なりを見逃すのは、もったいない。もったいなすぎる!
 
 現在、『ゼロの使い魔』の作者さんは病気療養中、『僕は友達が少ない』の作者さんも連載を休んでおられるという。是非、元気を取り戻して続きを書いていただきたいと思う。
 
 

ゼロの使い魔 (MF文庫J)

ゼロの使い魔 (MF文庫J)

 
僕は友達が少ない (MF文庫J)

僕は友達が少ない (MF文庫J)

 

*1:同じ作品でも、後半に行くほど贅肉の少ないシャープな切れ味になっていく作品もあって、そういうのを見るのもラノベの楽しみのひとつ