シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

脱-オタクファッションで本当に必要な戦略

 
 25歳社会人男性向け見た目改造(脱オタ)方法まとめ -服装改造の4戦略
 
 脱-オタクファッション(いわゆる“脱オタ”。以下、脱オタと表記)については、定期的にhow toの記事を見かける。しかし、予算的に無理があったり、「こんな服を初心者に買わせてどうするんだ?」という内容のものも多い。リンク先の記事も、(靴も含めてとはいえ)いきなり5〜6万円の予算をかけるという。合コンに間に合わせるためには仕方ないのかもしれないが、そんな金額で一張羅を買ったところで、いざ交際を始めたら化けの皮が剥がれてしまうだろう。
 
 そもそも最近は、二十代の男性が服の購入に充てられる金額が少なくなっている。高価な服を買い続けられるのは、金持ちか、ファッションにアイデンティティを仮託するような少数の人間だけだ。そんな人間の真似を初学者にさせるのは間違っている。「きみは、5〜6万の予算を、これからも服にかけ続けるんですよ」とアドバイスされて、心が折れない初学者がどれだけいるだろうか?好景気の頃はともかく、現在は2011年である。もっと懐をいたわろうではないか
 
 「より現実的な金額で」「一張羅に終わらず長続きする」という視点で、脱-オタクファッションに言及している人は意外と少ない*1。なので、この文章では「より現実的な金額で」「一張羅に終わらず長続きする」ような脱オタの注意点についてまとめてみる。
 
 【目次】
 ・服選びより、運用しやすさのほうが大切
 ・アイロン、収納、好きですか?
 ・ユニクロ7割、一軍3割
 ・既存の服と組み合わせてローテを組もう
 ・その瞬間オシャレになるのでなく、いつまでも維持できるスタイルを
 



 

服選びより、運用ノウハウが大切

 
 多くの脱オタクファッション系のアドバイスは、「服を選ぶ」ということに視点が行きすぎていて、「服を運用する」という視点が割と欠落している。いくらコーディネイトが上手くいっても、洗濯・アイロン・クリーニングに無理があるようでは、脱オタ初心者はすぐにイヤになってしまうだろう。そもそも、大人になってから服装を改変しなければならないなんて人は大抵ものぐさな人間なので、そういう人に“面倒くさい服”を薦めたところで上手くいくわけがない。
 
 つまり多くの場合、脱オタ初心者は「運用が面倒くさくない服」を優先的に選ぶ必要がある
 
 このため脱オタ初心者には、洗濯耐性のできるだけ強そうな服装や、アイロンがけの不要な服装のほうが勧めやすい。少なくとも、運用が面倒くさい服を買う際には、「あなたはこの服を毎回アイロンがけする元気がありますか?」「あなたは毎回クリーニング代を支払うゆとりがありますか?」と自問自答してからのほうがいい。革靴も同様だ。確かに革靴はいい。長持ちもする。しかし、革靴には相応のメンテナンスが必要で、多くの脱オタ初心者のような、ものぐさな人々には向いていない。
 
 ファッションオタクじゃないんだから、どうせなら面倒くさくないやつにしようではないか。
 
 この「運用が面倒くさくない服」という視点で服選びをやると、服屋での購入優先順位がかなり変わる筈だし、ユニクロや無印のありがたさが身に染みることになる。メンテナンスのラクな服や、色落ちしてきてもすぐに買い換えられる服は、それだけ購入優先順位が高いし、運用上、コストパフォーマンスが高いと言える。
 
 

アイロン、収納、好きですか?

 
 どれぐらい運用しやすい服を選ばなければならないかは、その人のキャパシティによって大きく左右される。アイロンも収納もバッチリという人は、多少面倒くさい服の割合が高くてもどうにかなるが、アイロンも収納も苦手な人は、手間暇のかかる服を選び過ぎてはいけない。服を選ぶ際には、財布と相談するだけでなく、自分自身の洗濯能力や収納能力とも相談しなければならないし、逆に言えば、洗濯や収納のノウハウが高い人は、それだけ服選びの選択肢は広くなる。
 
 だから、脱オタを真面目に考える場合には、アイロンや収納の問題は避けて通れない。
 
 アイロンや収納のスキルアップをしたくないなら、できるだけ運用性の高い服でまとめるように工夫すべきで、自分の乏しい運用能力を前提としたファッションスタイルを目指すのが適当だろう。自分自身の甲斐性を度外視し、“面倒くさい服”ばかり選んでしまうと、どれだけ服が気に入っていても根気が続かない。
 
 

ユニクロ7割、一軍3割

 
 以上のような服の運用性・メンテナンス性を考えるにつけても、金銭面を考えるにつけても、安価で使えそうなユニクロや無印、ZARAあたりを重視したほうがいい。めんどくさがりで貧乏な人ほど、だ。
 
 そのうえで「ユニクロ7割、一軍3割」みたいな編制を目指してみる。「今日はシャツだけ一軍」「今日は上着だけ一軍」みたいな。冬期はコートにお金をかけるのもいいかもしれない。これなら財布に優しく、運用しやすく、しかも、全身をユニクロや無印で固めるのに比べると、「ちょっと面白い感じ」を出せる。なるほど、全身を高価な服で固めるのは魅力的ではある。プロフェッショナルな人がいつもコーディネイトをアドバイスしてくれるなら、特にそうだろう。けれども、それではお金がかかって仕方ないし、いつもアドバイザーが傍にいるとは限らない。
 
 また、脱オタ初心者がやってしまいがちな失敗の一つに「全身メッセージ性の高い、いい服を選んだ挙げ句、アイテム同士がコンフリクトを起こす」というやつがある*2。要は、“ゴチャゴチャしてしまいやすい”。この点でも、ユニクロや無印にはゴチャゴチャしにくい服が多く、服同士のコンフリクトを比較的避けやすい。もちろん高くて質の高い服でそれをやれればベストにせよ、最初は欲目が出てしまいやすいし、なによりお金がかかるので、始めのうちは“一品だけがんばってみる”でいいんじゃないかと思う。
 
 ファッションオタクになりたいならともかく、ただ脱オタをやりたいだけの人は、まずはゴチャゴチャしにくい、簡単な組み合わせに馴染んでみたほうがラクなんじゃないかと思う。コストもかからないうえに、「ちょっと面白い服」と「ベーシックな服」の比較検討もやりやすい。
 
 万が一、全身フル装備のオシャレを目指すとしても、それは後回しでもいいんじゃないかと思う。
 
 

既存の服と組み合わせたローテーションを考えよう

 
 もし可能なら、今まで着てきた服との組み合わせや、ローテーションについても考えてみる。脱オタ前/脱オタ後の服を完全に別モノとして服のローテーションを考えようとすると、やりくりがしんどくなってしまう。いきなり一ダースほど服をまとめ買いするわけにもいかない以上、脱オタ後に着る服/脱オタ前から持っている服とは、一定の互換性というか、方向性が極端に違ってしまわないようにしたほうが良いと思う。少なくとも、一度はそのように考えてみたほうが良いと思う。
 
 既存の服とのコーディネイトを一考してみる理由は、経済的な理由以外にもある。
 
 ・脱オタ前/後の比較検討がやりやすい。
 今まで持っていた服装と、脱オタ後に購入した服装との、似て非なる違いを確認することができる。その違いは、デザインの微妙な違いだったり、裁断の微妙な違いだったり、ヨレてしまった服に対する許容度の違いだったりする。もし、before/afterの違いが確認出来ないのなら、「その脱オタは上手くいっていない」と考えて間違いない。服があんまり変わっていないか、自分の眼が育っていないか、どちらかだ。
 
 ・脱オタのコスプレ化を防ぎやすい。
 今まで着ていた服は、(服に注意を払わないということも含めて)自分自身の生き方やライフスタイルが反映されている。何気なく着ていた服は、自分自身なのだ。これを、一気に変えすぎてしまうと、服と自分自身のライフスタイルの乖離が極端になってしまい、服を着ている人間と、服とのギャップが他人にバレやすくなってしまう。いわゆる「服が歩いているような印象」「脱オタのコスプレ化」だ。
 
 これをやってしまうと、自分のスタイルを服に馴染ませることも出来ないまま、脱オタが失敗してしまうことが多い*3。もし、どうしても服を極端に変えたいと思ったら、その服を着る自分のライフスタイルをどのように変えていくのか&変えることが可能なのか、意識してみる必要がある。
 
 特にライフスタイルと服装との兼ね合いは、長い眼で見ると非常に重要で、私の知る限りでは、上手く言った脱オタというのは、なにかしら、服装とライフスタイルとの整合性に成功している。服装が極端に飛躍すれば飛躍するほど、自分自身のライフスタイルを服装に摺り合わせるのは難しくなる。特にライフスタイルをあまり変えたくない人の脱オタの場合、既存の服装との互換性をよく意識しながらお店を回ったほうがいい。
 
 

その瞬間だけオシャレになるのでなく、いつまでも維持できるスタイルを

 
 コーディネイトをお店の人に任せ、何万円もはたいてファッションをやれば、一時的には物凄くオシャレになるし、変身願望も充たされるかもしれない。けれども、こういう瞬間芸的な脱オタが成功して、その人自身に根付いたという例はあまり見たことが無い。金銭的にも厳しいだけでなく、自分自身のライフスタイルと服装とがズレたままでは定着のしようがないので、いつまでたっても“脱オタのコスプレ”的な違和感が残るだろう。一時的に大金をつぎ込むような「脱オタのススメ」は、えてしてコスプレに終わってしまう。これは殆ど間違いない。
 
 それよりは、金銭的にもライフスタイル的にも維持できる範囲で、服装という外面の問題にアプローチしていくほうが、ずっと見込みがあると思う。長続きしないオシャレに大金をつぎ込むのは、やめたほうがいい。
 

*1:その点、書籍『脱オタクファッションガイド』は、このあたりを踏まえた記述がきちんと含まれていて好感が持てた

*2:高い服で全身コーディネイトするのは、相当なオシャレさんじゃないと実は難しいと思う

*3:「やっぱり自分には脱オタなんて無駄だったんだ」と終わってしまうか、服と自分自身との乖離を埋めようとしないまま、服だけに自己アイデンティティを仮託するようなファッションオタクになってしまうか。