シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

キモオタも、ワナビも、ヤンデレも、みんなかわいい――『俺妹』

 

俺の妹がこんなに可愛いわけがない 5(完全生産限定版) [Blu-ray]

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 『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』。
 ネットで公開中のTRUEルートを見た*1。今期の『まどか☆マギカ』や『インフィニット・ストラトス』のせいで色褪せるかと思いきや、まったくの杞憂で、食いつくように楽しめた。TRUEルートはライトノベル版に準じた展開で、部長の痛チャリ・制服姿の黒猫が登場するなど、アニメ第二期を予感させるような終わり方になっていた。
 
 『俺妹』のラノベ版原作では、“オタクの心理的葛藤”“オタクと社会との軋轢”“ワナビー*2の悲哀”がかなりのページを費やして描かれていたし、それはそれでひとつの魅力には違いなかった。しかしアニメ版ではそのあたりをバッサリ切り落とし、最小限の描写にとどめているようにみえた。『俺妹』に、オタクの心理的葛藤みたいなものを期待していた筋の人達は、アテが外れたと思っただろうし、その点に不満を感じていたかもしれない。また、桐乃がケータイ小説を作る話がカットされ、アニメ化ライトノベルを作る話に切り替わっている部分は、話の繋げ方がやや不自然な部分があったようにも見えた。
 
 そのかわり、アニメ版の『俺妹』は、とにかくキャラクターをかわいく磨き上げることに力が注がれていたようにみえる。
 
 桐乃:女子中学生っぽいウザさを描写しなくなった代わりに、オタク受けしそうな身振りが増えたことで、「かわいいキモオタ」としての純度が高くなり、当該視聴者に受けの良い仕上がりになった。あるいは「男性オタクには理解の及びにくい部分を含んだ、リアルな女子中学生」から「男性オタクでも安心してキャラクターに落とし込めるキモオタ女子中学生」へと微妙なキャラずらしが行われた、とも言える。
 
 黒猫:自意識過剰なワナビー語りが大幅カットされたことで、ワナビー的な視聴者に対する皮肉が控えめになった。さらにジャージ姿で妹の面倒をみるシーンが付け加えられたことで、「ワナビーだけど家族思い」という、“家族を省みることなく自己顕示を求めてしまうワナビー”という想像を働かせにくいよう脱臭&理想化された。
 
 真奈実:原作では影が薄く“要らない子”っぽかったが、アニメ版でははっきりと存在感のあるキャラクターとして生まれ変わり、ストーリーにしっかり組み込まれている。布団に倒れ込むときに京介の足に自分の足を絡ませるなど、意外なところも見せてくれた。
 
 加奈子:タバコを吸わなくなる等、素行がかなり改善した。
 
 あやせ:“思い込みの激しい、危険なヤンデレ”っぽさが薄まり、むしろ“一途だけど、リアクションの楽しい安全なヤンデレ”にアレンジされている。
 
 
 こうして振り返ってみると、アニメ版の『俺妹』のキャラクター達は、オタクウケの悪そうな部分・オタクが安心できない部分は最小限までカットされ、より愛玩しやすくわかりやすいキャラクターへと磨き上げられている。演出上の工夫や声優さんの名演も相まって、原作には無かった楽しみを提供してくれる、完成度の高い作品だったと思う。正直、アニメ版を見るまでは、あやせや真奈実の魅力を十分認識できていなかった。
 
 この、『キャラクターをかわいくbrush upする』という観点からみれば、桐乃のケータイ小説がライトノベルに差し替えられたのもなるほどと思う。あのアレンジメントは少々不自然だったけれども、あの話さえ亡きものにしてしまえば、桐乃のリアル女子中学生っぽい所作や、黒猫の度を越えたワナビー語りをカットできるからだ。
 
 原作のどの描写を削って、どの描写を強調するか――アニメ版『俺妹』の場合、キャラクターの心理的葛藤や複雑性を削ってでも、“キモオタも、ワナビも、地味子も、ヤンデレも、みんなかわいい”を強調したのだろう。そして、男性オタクが自己投影する妨げとなるようなファクターを徹底的に脱臭し、アニメ美少女的かわいらしさに置き換えたのは、これはこれで天晴れというほかない。賛否両論は当然あるだろうけど、キャラクターに萌えるという点ではラノベ版を超える破壊力になったのは間違いなかろうし、結果として、ラノベ版最新巻(6〜7巻)のライトなノリにも近づいた。これなら、もし第二期が始まってもノリを変更することなく接続できる。
 
 この作品は、「原作をライト化したアレンジは改悪かというと、必ずしもそうではない」の典型例だと思う。続きを期待したい。
 

*1:公開は3/8まで。ニコニコ動画ほかで視聴可能。

*2:ワナビー:ワナビーwannabe とは、want to be(〜になりたい)を短縮した英語の俗語で、何かに憧れ、それになりたがっている者のこと。しばしば嘲笑的あるいは侮蔑的なニュアンスで使われる。