シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

“日向”になったインターネット

 
 10年ほど前のインターネットには、うさんくさい書き込みが多く、どことなくアングラ臭が漂っていたものです。Yahoo!やgooで検索したホームページから2クリック目ぐらいの場所に、現在のインターネットだったら即大破炎上するようなきわどい書き込み――それこそ、今では2chでも見かけないような――がゴロゴロ転がっていたように記憶しています。
 
 ところが最近のインターネットからは、昔のような路地裏っぽさや日陰っぽさをあまり感じません。むしろ、お日様に照らされた都大路のようです。アンダーグラウンドな書き込みや違法なやりとりが全滅したわけではないにせよ、それらは路地裏や袋小路といった、比較的目が届きにくい狭い領域に追いやられてしまった感があります。
 
 

1.“日向の人達”の流入によるインターネットの日向化

 
 インターネットが日向化した要因としては、「インターネットの多数派が日陰者から日向者に変わった」を挙げないわけにはいきません。天気予報の確認やレストランの予約にネットを使いたい人や、芸能人のtwitterやblogを読みたい人、楽天やAmazonで買い物をしたい人がインターネットに流入してくれば、アングラ的雰囲気を醸し出す人の割合は相対的に小さくなります。インターネットに日向なコンテンツやサービスを求める人達が増加したぶん、そのぶん日陰が目立たなくなるのは数の論理として当然です。
 
 また、「ネット上でマズい書き込みをすると摘発されるようになった」のも重要でしょう。ネット上での犯罪予告は通報されるという認識は以前からそれなりにありましたが、特に2008年の秋葉原連続通り魔事件以降、ネタくさい殺害予告であっても摘発される可能性が示され、ネット上で「殺す」「殺害する」という表現を用いるのは困難となりました。また、猥褻画像や脅迫的な書き込みに対する削除やアカウント停止などの措置も厳しくなったこともあって、「インターネットだから何を書いても構わない」というスタイルが成立しない領域が増えました。
 
 

2.ネットの清掃屋(イナゴ、カラス、ハイエナetc)が都大路を清掃していく

 
 上記は“日向勢の進出”の結果としての日向化ですが、“日陰勢”の振る舞いがネットの日向化に貢献している部分もあるように思えます。
 
 ネットには、東に炎上しているblogがあれば飛びつき、西に有名人の失言があれば「これはひどい」とリツイートするような、そういう人間が相当数常駐しています。ちょっと前のネットスラングで言うなら“ネットイナゴ”“メシウマ”に相当するような人達でしょうか。失言した人間を這い蹲らせることに無上の喜びを覚え、安全なところから石を投げて社会正義を気取りたい彼らの振る舞いは、お世辞にも褒められたものではありませんが、意外とインターネットの日向化に影響を与えているのではないでしょうか。
 
 すなわち、「痛いユーザーや愚かなユーザーを炎上させ血祭りにあげる」、という現象が何度も繰り返された結果、「有名であろうがなかろうが、痛い書き込みやバカな書き込みをすると、ハイエナみたいな連中が集まってきてボコボコにされちゃうよね」という認識が普及し、品行方正な書き込みを心がける強制力のようなものが働きはじめているんじゃないか、ということです。
  
 炎上するほど燃えてくるような一種の変態さんや、心臓がビス止めの人はともかく、たいていのネットユーザーは、自分をこき下ろす人々が何百も集まってくる状況に情緒的に耐えることが困難です。このため「危険な書き込みをすると炎上してしまう」と知っているネットユーザーは、炎上を回避するべく、振る舞いに注意深くならざるを得ません。もし、ふざけた書き込みをしても全く炎上しないとしたら、インターネットはいま以上に有象無象ののさばった、百鬼夜行の様相を呈しているでしょう。なにもリスクが無いなら、気も緩むというものです。
  
 考えようによっては、彼らはインターネットの掃除屋と言えるかもしれません。ハイエナが腐肉を漁ってサバンナをきれいにするように、“メシウマネットユーザー”や“ネットイナゴ”は、不適切なユーザーを排除してネットの景観をきれいにしていく、というわけです。もちろんブログが炎上する風景というのは浅ましいものですが、腐肉にハゲタカや蝿がたかるようなもので、一過性のものと心得ればそんなものかもしれません。
 
 

「ネットリテラシーを守らない悪い子は、お掃除されちゃいますよ」

 
 こんな具合に、日向者のユーザー/サービスの増加とネット-スカベンジャー*1な人達の影響が重なった結果として、インターネットの日向化が進行しているように見えます。「ネットはアングラだから何を書いても大丈夫」という思い込みは不適切かつ危険で、「インターネットは日向」「インターネットは都大路」と心がけたリテラシーが、ネット上の個人の適応に欠かせなくなりつつあります
 
 インターネットが日陰でも山奥でもなく都大路である以上、これからは相応の振る舞いが求められるのでしょう。いつまでも「パジャマ姿のインターネット」なんて言ってる場合ではありません。 最近は、いわゆる有名人や専門家でなくとも、twitterの書き込みやMixi日記などを介して大炎上する事例もみられますから、夢見心地の振る舞いが続くようでは、いつかハイエナやハゲタカにみつかって餌食となるでしょう。
 
 
 最後に、徒然草の一節を引用しておきます。

 狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり。悪人の真似とて人を殺さば、悪人なり。驥を学ぶは驥の類ひ、舜を学ぶは舜の徒なり。偽りても賢を学ばんを、賢といふべし。
 (徒然草、第八十五段より)

 “大路”のところをインターネットに書き換えても、だいたい当てはまるフレーズだと思います。
 
 きちんとした振る舞いを心がけていきたいものです。
 

*1:スカベンジャー:生物学用語。腐肉食な動物。ハイエナやハゲタカやカラスなど