シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

「男の娘」をメジャーに育てた「ツンデレ美少女」

 
 
 元来、オタク界隈では「ショタ」と呼ばれる幼年男子や「ふたなり」と呼ばれる両性具有のキャラクターがときどき登場し、少数ながらもコアなファンを獲得してきた歴史がある。しかし、それらが極端にメジャー化することは殆ど無かったし、「中身は男子だけど女装して美少女になっている」というキャラクターも比較的マイナーな部類に属していた*1
  
 ところが2005年頃からか、「中身は男子だけど女装した美少女」という属性のキャラクターがおおっぴらに支持を集めるようになり、オタク向けの女装テキストブックを書店で見かけるようにもなってきた。かなり人気のあるコンテンツにもいわゆる「男の娘」が登場し、ほとんど抵抗感なく支持されている状況は、かつての「ニッチな嗜好としての女装男子」の時代とは一線を画している。「萌え」の流行がいつも遅れて流入するアーケードシューティングゲーム界隈にまで「男の娘」が登場するようになったのをみるにつけても、「男の娘」は「萌え属性」として既に普及期を迎えているとみて良さそうだ。
 
 2005年頃からポピュラーになった「男の娘」もまた、旧来のニッチな「ふたなり」「ショタ」「女装」の流れを継承してはいるのだろう。自己仮託できる「かわいい男子」に萌える系譜それ自体は決して新しいものではない。しかし、「かわいらしい美少女のような姿の男子」が普及期を迎えたことは、やはり新しい。いかにオタクの妄想力…もとい想像力が豊かだとしても、自分とはかけ離れた姿の「美少女になっちゃった男子」にいきなり自己仮託するのはハードルが高い。女装したキャラクターへの自己仮託に恥ずかしさや後ろめたさを感じる人も少なくないだろうし、ある種、想像力の飛躍も必要だ。
 
 

「ツンデレ」が普及→「男の娘」属性が普及 という流れ

 
 一方、ツンデレやヤンデレが流行ったおかげで、「自分に良く似た性質を持った美少女」「自己仮託しやすい美少女」に萌えること自体は、かなり早い段階でオタク界隈に普及していた。当初、どちらかといえば無条件に受け入れてくれる美少女像が優勢だった「萌え美少女」は、21世紀を迎えた頃から自己仮託や自己陶酔のよりしろとしてのニュアンスが強調されるようになり、ツンデレ属性を中心にポピュラーに消費されるようになっていった。ツンデレ萌えは、表向きはふつうの異性愛のような体裁をとっているが、裏側には「かわいくなった自分の映し鏡を介した自己陶酔」が高確率で潜んでいるし、まただからこそ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の桐乃『けいおん!』の澪のようなキャラクターが人気を博しているのだろう。大半のオタクが気付かぬうちに、「ツンデレ萌え」は「かわいい女の子を介した自己陶酔」という作法を界隈に広めていたという側面も持っている
 
 昨今、「男の娘」が普及期を迎えた要因の一つとして、ツンデレ萌えなどを介してかわいい姿になった自分に自己陶酔する」ことに慣れたオタクが増えたからというファクターを私は強く疑っている。従来、いきなり女装男子に萌えきれなかった大多数のオタクであっても、事前にツンデレ美少女を介した「自己陶酔の訓練」を積んでいれば、容易に慣れることが出来たのではないか;つまり、事前にツンデレが流行したという下地があったからこそ、「男の娘」がメジャーな「萌え」属性として普及できたんじゃないだろうか
 
 
 そうやって考えると、ツンデレ美少女達は、「男の娘」の育ての母のような役割を果たしたと言えそうだ。極一部の、いきなりショタや女装男子に萌えきれた人達はともかく、そうでない大多数のオタクにとって、ツンデレ萌えを介した自己陶酔に事前に慣らされていたことが、「男の娘」への訓化に大きな役割を果たしたんじゃないか。 

*1:『ストップ!!ひばりくん!』のような例外が無かったわけではないが