シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

ガンダムよりジムを選んだ精神医学 (例え話)

 
 http://medt00lz.s59.xrea.com/wp/archives/558
 
 上記の、統計についての文章を読むうちに、ふと、ガンダムになぞらえた精神医学の歴史の話を連想してしまった。
 
 (あくまで例え話です)
 
 昔の精神医学、特に精神分析系の精神医療は、ガンダムやジオングや指揮官用ゲルググに喩えたくなるような、精巧な治療理論を丹精込めて造りあげてきた。フロイト、エリクソン、ウィニコットなどといったエースが登場して優れた成果を示し、自分達の治療理論をカスタマイズしていた。偉大なエース達が死んだ後も、弟子から弟子へ「お前ら、アムロやシャアを見習え!」とばかりに、エースのなんたるかを一子相伝するのが慣わしだった。
 
 けれども、ガンダムや指揮官用ゲルググなんて、よっぽど素養に恵まれた人でなければ乗りこなせないし、精神科医の誰もがニュータイプ精神科医になれるわけでもない。ニュータイプ精神科医に最適化された治療理論*1を“一般兵な精神科医”にあてがうようでは、簡単に成果を出せないどころか自分で自分の足を撃ってしまうような危うささえ付き纏う。しかも、ややこしくてゴテゴテした治療理論ほど、習得にも時間がかかる。けれどもみんな、使いやすさよりも強さやカッコ良さを追求したがっていたのか「ジムや量産型ザクのような、扱いやすく、習いやすく、一般兵でも確実に戦果が出せそうな治療理論」はなかなか脚光を浴びてこなかった。
 
 
 「ニュータイプ精神科医しか使いこなせないモビルスーツ(治療理論)では困る。」
 
 「一般兵でも使いこなせる治療理論が、精神科にも必要だ!
 
 いつしか、そういう声があがるようになっていった。
 そりゃあそうだろう。クリニックAではニュータイプ精神科医がジオングを乗りこなして超人芸をみせているかと思えば、クリニックBでは一般兵精神科医が、ガンダムの性能に振り回されて制御不能に陥っている、という状況では、色々と困ってしまう。アムロが操ろうが、一般兵が操ろうが、確実な戦果が出せるようなモビルスーツ(治療理論)をつくろう、という声は次第に大きくなり、アメリカを中心に開発が始まった。
  
 開発には統計学的な研究結果が最大限にフィードバックされ、できるだけ簡単で操作しやすく、それでいて十分に成果が出せるような配慮がなされた。ジムのように、操りやすく一般兵でも確実に成果が出せるような、そういう治療理論が生産ラインに乗るようになった。ニュータイプ指数も、オーラ力も、センスも要らない----きちんとマニュアルどおりに操れば、それなりに作動してそれなりに治療の成果が出せる、そういうモビルスーツ(治療理論)をこしらえるプロジェクトは、精神医学の世界ではとても画期的なことだった。
 
 現在、精神医学の世界には、DSM-4と呼ばれる、ジムに相当するような治療理論が全世界に普及していて、論文などのアップグレードキットも常に供給されている。すでにDSM-5という“後継機”の開発も進んでおり、いっそうパワーアップするのは間違いないといわれている。ジムの普及によって治療の平均レベルも均一化し、どこの病院を受診しても、とりあえずちゃんと動いているジムが出てくるようになったのは、大きな進歩だった。しかも、ジムによる共通規格化がされたお陰で、精神科医同士の情報交換も非常にやりやすくなっている。
 
 その代わり、今ではガンダム乗りのエースパイロットも、ジオングを操るニュータイプ精神科医も失われつつある。新兵達は全員、ジムの操り方はしっかり習うけれども、ガンダムやジオングのことを学ぼうとするルーキーはあまりいない。そもそも、正規のマニュアルにはジムの操り方しか書いてない。古くからのエースパイロット達も、ジムが普及しながらアップグレードしていくにつれて、旧式化したガンダムやジオングを倉庫にしまっておくようになっていった。いつしか精神医学の世界は、みんな同じ顔をしたジムだらけになり、型破りのジオングやザクレロに遭遇することは減ってきている。そのことを寂しがって「ジムなんかくそくらえ」と思っている人も、いるのかもしれない。
 
 
 ガンダムよりジムを選んだ精神医学。
 
 「一般兵には操れもしないガンダム」を普及させるより「一般兵でもまともに操れるジム」を普及させたのは、たぶん、正解だったんだと思う。精神科医のすべてがニュータイプに覚醒するわけではないからだ。けれども、本当に皆が憧れているのは「ジムの大群」ではなく「一般兵でもちゃんと操れるガンダムの大群」の筈だろう。だから今も世界のどこかで、ジムの改良と開発は続いている。
 
 
 ※以上はあくまで、非常に大雑把な、例え話。
 

*1:それこそ、サイコガンダムやサザビーのようにゴテゴテになった治療理論