シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

「萌え属性」の次の時代を予感させる『ラブプラス』

 
 

ラブプラス

ラブプラス

 
 『ときめきメモリアル』以来、恋愛シミュレーションゲームでは精彩を欠いていたコナミが、ひさしぶりに鬼気迫る作品を発売した!『ラブプラス』。DSのギャルゲーなんてタカが知れているだろうと半信半疑で買ってみたが、やってみて仰天し、ものすごく気にいった。たいした野心作だ。ギャルゲー好きの人生を溶かしてしまうソフトと言っても過言ではないだろう。
 
 

DSで復活した『ときメモ』の正当後継者

 
 私の記憶が確かなら、コナミという会社は、恋愛シミュレーションゲームの分野ではちょっと頑固なポリシーを貫いていたと記憶している。例えば、初代『ときメモ』以来、コナミの制作陣はほとんど一貫して「萌え属性」の流行に対して鈍感だった。『ときメモ2』ぐらいまではそれでも売れていたけれど、その後、エロゲー界隈を中心に「萌え属性」が洗練されていくにつれて、ギャルゲーメーカーとしてのコナミは急速に存在感を失っていった。その気になれば「萌え属性」をもっと採りいれることも出来ただろうに、コナミのスタッフは「萌え」の流行からは頑ななまでに距離を取り続けた。そして、売れなかった。
 
 
 なので、今回もダメかなーと思いきや。
 
 …全然ダメじゃない。
 すばらしすぎる。
 
 3D描画やタッチペン、マイクを使った会話などの相乗効果か、(特に恋人モードでは)キャラクターがやけに近しく感じられる。昨今の「萌え属性」のテンプレに依存しすぎないキャラクター造形ではあっても、しっかり造りこまれているためか味わい深く、むしろ「どうせおまえ、次の台詞はこれだろw」みたいな予定調和に陥りにくい。予定調和に陥りにくいというのは恋愛シミュレーションゲームとして優れた美点であり、キャラクターの反応に一喜一憂しやすいということでもある。しかもキャラクターに台詞が馴染むよう相当に研究されているのか、意外な反応があった時にもキャラクターに違和感を感じることは少ない。挿絵のほうも“今風の萌えっぽいかわいい挿絵”を狙わずに“コバルト文庫あたりの表紙を飾っていそうな挿絵”を敢えて持ってきているのが心憎い。ああいう絵柄は、「萌え属性」を骨組みにして二次創作をするにも、キャラクターに自己投影するにも不向きかもしれない。しかし、そのキャラクターの細部を意識し一人一人の固有性に着眼するには向いている
 
 目や手足の仕草もハンパない。嫉妬する時・嬉しい時・哀しい時の目や仕草の動きが実に素晴らしく、声との連動も見事で、DSの粗いグラフィックであってもドギマギできてしまう。一見簡単なことのようにみえるけれど、たぶん、精魂込めて作られている。しかも(ちょっと不便なところもあるにせよ)マイク入力やタッチペンまで使えるんだから、ギャルゲーとしてのインターフェースは今までのモノとは段違いといわざるを得ない。リアルタイムの時間に拘束されるというシステムも、この場合は素晴らしい持ち味だ。
 
 こんな具合に「萌え属性」にほとんど依存することなく、『ラブプラス』は破壊力の強いギャルゲーに仕上がっている。偏執的なキャラクターの創りこみと複合的なインターフェースをもってすれば、「萌え属性」に頼らずともプレイヤーを虜にできるということを『ラブプラス』は証明しているようにみえる。『ときメモ』以後、「萌え属性」の流行に乗り遅れ続けたコナミ制作陣の、執念のようなものを感じずにはいられない。
 
 

「萌え属性」の次の時代を予感させるゲーム?

 
 3D技術の進歩やインターフェースの発達、ここ2〜3年の「萌え属性」のマンネリ化、といった事情を考えるに、『ラブプラス』はエポックメイキングな作品になるんじゃないだろうか。今は荒削りな部分もあるけれども、否、荒削りな部分があるからこそ、このゲームの後継作にはもっと洗練されパワーアップする余地がたっぷり残されている。然るべきハードウェア、専用インターフェース、こなれたシステム周り、表情やイベントなどのパッチ提供、等々を組み合わせれば、『ラブプラス』よりも何倍も手強い、とてつもない破壊力の作品が生まれてくるだろうし、おそらく技術的には既に可能だろう。あとは『ラブプラス』が商業ベースで成功さえすれば、恋愛シミュレーションゲームの一つの流れとして確立するに違いない*1。いつか、愛花、凛子、寧々の3人が、ひとつのジャンルの母として語られる時が来るのかもしれない。
 
 ここ数年、主要な「萌え属性」の発見が頭打ちになって久しい。そんななかで2009年に登場した『ラブプラス』が、『ときメモ』のように新ジャンルの金字塔として記憶される可能性は決して低くなく、「萌え属性」を利用した作風に偏っていた恋愛シミュレーションゲームの趨勢をひっくり返してしまうかもしれない。そこまでいかなくとも、ギャルゲー界隈に新風を巻き起こすのはほぼ確実だろう。
 
 コナミは、良いタイミングで良い作品をリリースしたと思う。

 
 
 [関連]:ラブプラスがまじでやばい - 恋路まであと1kmでは届かない
 

*1:ただし、コナミが訴訟の鬼と化してこのような流れを遅延させる可能性はちょっと心配