シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

梅田望夫という“熱気球”、そして投影

 
 
 『ウェブ進化論』などの著書で有名な梅田望夫さんの文章は、独特の熱量を帯びていると常々思っていたけれど、今回のITmediaのインタビューをみて、梅田望夫さんという人物の魅力の一端を確認できたような気がした。
 
 日本のWebは「残念」 梅田望夫さんに聞く(前編) (1/3) - ITmedia ニュース
 Web、はてな、将棋への思い 梅田望夫さんに聞く(後編) (1/3) - ITmedia ニュース 
 
 なるほど、やっぱり梅田望夫さんは“熱気球”の人らしい。
 
 

梅田さんは、熱量を伴った夢を語るのが上手

 
 昔、はじめて『ウェブ進化論』を手にした時、私はうわぁ胡散臭い話だなぁと思わずにいられなかった。けれど、インターネットの未来を語る文章に宿った熱量には一種独特のものがあって、ある種のカリスマ性のようなものは強く感じた。ああ、この人は熱量を伴った夢語りが非常に上手な人なんだなぁ、と。
 
 実際、『ウェブ進化論』はベストセラーとなり、当時のインターネット界隈では、梅田さんの熱量が憑依したかのような口ぶりで『ウェブの未来』を語る人達をけっこう見かけたような気がする。梅田さんの語る夢は、でっかい夢だった。そして、共有されたみんなの夢でもあった。インターネットの可能性、インターネットに携わる私達の可能性が大きく膨らんだかのような、そういう感覚が共有されていたことは記憶に新しい。
 
 今回のITメディアの記事を読んだ際にも、私はそれによく似た感覚を抱かずにいられなかった。以下のフレーズなどがその好例である。

 専門ってそうだよね。(僕がやっている)経営コンサルティングだって。「ハイソ」と言われたけど、たまたま僕の職業でそういう人と付き合いが多くて、そういう仕事をずっと選んできているわけだし。
 
 そういう人たちがもっと、さらに向こうへ行ってアメリカと戦うとか、もっと何もないところで市場を創造するとか、そういうとこの手伝いをしているわけじゃない。仕事として。
 
 そいういうところに何が一番大事かというと、これだけすばらしい道具がどんどん進化しているんだから、インターネットやコンテンツを含めて、それを使ってとにかく、もっとすごいところに行こうよ、という、そういうところなんだよね。自分の仕事って。

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0906/02/news062.html

 
 熱気を帯びたビッグドリームである。
 この語り口そのものは、『ウェブ進化論』の頃となにも変わっていない。
 
 異なっているのは、その熱い上昇志向の熱気球に“乗せよう”としている人達を選別しているか否か、だけでしかない。『ウェブ進化論』の頃は読者のあらかた全員を“乗せよう”としていたのに対し、今回のインタビューでは『あたまのいい少年少女』だけを“選んで乗せよう”としているかのようにみえる。梅田望夫さんは、かつては気前良く、誰にでも熱気球への乗船許可を与えていたようだが、今回は、良い子にしないと梅田さんの夢に乗せて頂けないようだ。このことも、各方面からのフルボッコを招いているひとつの要因のようにみえる。
 
 まぁ、ちょっと前まではインターネットユーザーに分け隔てなく風船状の夢をみせてあげていた人が、ある日突然、「キミたちは、この上昇志向の熱気球に乗れません。乗っていいのはアタマのいい少年少女だけデス。」などといい始めれば、キーキー反応があるのは当然といえば当然なわけで。
 
 

梅田望夫さんの夢に、彼らは自分の夢を投影していたんですよ

 
 それにしても凄まじいまでの上昇志向、梅田さんは、まさに熱気球だなぁと思う。ご年齢を考慮に入れれば、その上昇志向は、もはや執念と言っても差し支えないのではないだろうか。そしてハイテンションである。俗に、思春期を過ぎれば人間落ち着いてくるというけれども、梅田さんにはその兆しが、ない。
 
 しかし、そういう梅田さんだからこそ----永遠の思春期を駆け抜ける人だからこそ----『ウェブ進化論』のような著書でインターネッター達を熱狂させ得たのだろう、とも思う。
 
 梅田さんの夢語りはあまりに熱量豊富で、思春期の夢追い人やワナビーな夢語りのソレに匹敵している。『上昇する俺達』『どこまでも進む俺達』といった、ある種の思春期心性との相性が抜群で、これが、梅田さんの書籍や発言が、(例えばはてな周辺などに代表される)有象無象のインターネッターを惹きつけてやまない最大の理由なんじゃないかと私は推測している。梅田さんの語る熱気球のような夢の塊に、思春期の夢追い人やワナビーな人達が、自分自身の夢を投影することで、午後の転寝に耽ることができていたんじゃないだろうか。いや、なかには梅田さんの発言を“実践”へと繋げた人もいたかもしれない。しかし控えめに推測しても、梅田望夫さんの書籍を“消費”していた人の大半が地に足の着いた実力をつけるべく『ウェブ進化論』を精読していた、などとは思えないのである。
 
 私はてっきり、梅田望夫さんという方は、ご自身のテキストがどのような読者によってどのようなスタイルで“消費”されているのか自覚的だと思っていたし、まただからこそ、あんなに流暢に言葉を紡いでいらっしゃるのだと思い込んでいた。だが、どうやらそうではなかったらしい。もっとナイーブに、いや真剣に、『俺の夢に、みんなついて来い!上昇だ!上昇だ!』と考えてらっしゃるのかもしれない。
 
 しかし仮に、梅田さんが『真の熱血漢』あるいは軍団兵の先頭に立って敵陣に切り込んでいく隊長のような人だったら、『ウェブ進化論』は、夢見がちなインターネッター達の琴線に触れない、もっとゴツゴツした書物に仕上がっていたんじゃないかと私は推測する。そして、精巧に出来ていたとしても、あまり売れなかったのではないだろうか。
 
 そうではなく、梅田さんが夢語りの巧みな人であったからこそ、終わらない思春期を疾走する日本のインターネッター達や、手足を動かすよりも夢を膨らませるほうが得意な人達の琴線に触れる何かを提供し得たのではないか、と私などは思ってしまうのだ。梅田望夫さんが、ある種のワナビー的な上昇志向の心性を宿しているからこそ、“転移”様の共鳴関係が、梅田望夫さんと、夢見がちなインターネッターの間で起こりえたのではないだろうか。そしてそのような蜜月の共鳴関係が成立していたからこそ、あの頃の梅田さんは輝きに充ちて、梅田さんに心酔する人達も、大きな夢の風呂敷に包まれながらテカテカしていられたのではないだろうか、とも思うわけだ。
 
 

夢のおわり

 
 残念ながら、そんな蜜月の共鳴関係も終わりを迎え、梅田さんは“真の上昇志向”な人達にターゲットを切り替えたようである。これでは、熱い夢に吹き上げてもらいたい人達の大半が、上昇気流に乗ることができない。ただ、空を恨めしく見上げるばかりである。「もう一度、俺にも夢を見せてくれよー乗せてくれよー!」といった怨嗟と失望の声が聞こえてくる*1。むごいことである。
 
 そして“真に上昇志向”な人達というのは、梅田さんのアジに煽動されるまでもなく自力で上昇しようとするタフガイ達であり、梅田さんの熱気など端から必要とせず、無関係に無頓着に上昇するべくして上昇するものなのである。
 
 となると、いったい誰が、梅田さんの夢語りを今必要としているのだろうか?
 
 穿った見方をするならば、いまの梅田望夫さんは、本来的に最も相性が良いであろう、若き夢追い人達の気分を高める熱気球としての“役割”を放擲しておられるようにみえる。これではドリームスピーカーとして天性のセンスも生きてこないし、今まで梅田望夫さんの夢を食べて生きてきた獏っぽい人達の、風船状の心が萎んでしまいそうにもみえる。
 
 私が思うに、梅田さんの最近の発言にセンシティブに反応してツンツンしている人達も、再び熱い夢を吹きかけてもらえれば、デレに転じるに違いないと思うんですよ。梅田さんの言祝ぐ熱い夢を、待っている人達がいるようにみえます。
 
 
 [関連]:おい望夫! ヤフーで賭け将棋しようぜ (追記あり): やまもといちろうBLOG(ブログ)
 [関連]:googleと理想と万能感----夢を仮託せずにはいられない“カモ”な僕ら - シロクマの屑籠
 

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

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