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シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

差異化ゲームや優越感ゲームとは無縁だったゲームミュージック

オタク趣味

 
 十数年前〜数年前までのゲームミュージックは、差異化ゲームや優越感ゲームに使えない音楽だった。
 
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 つまり、ゲームミュージックは「ライバル達に差をつける」ためにひけらかしたり、「クラスメートよりもクールな自分自身」に陶酔したりするのが難しい分野だった。少数の例外*1を除いて、ゲームミュージックは「オタクの音楽」「薄暗いゲーセンのBGM」といったネガティブな評価を下されやすく、クラスメートにひけらかすのも不可能に近かった。例えば、『ダライアス』のラスボスのBGMがどんなに気に入っていても、あの曲が差異化ゲームや優越感ゲームのダシになるなんて状況は殆どゼロに等しかったわけだ。
 
 それでも、当時の僕はゲームミュージックが好きだった。コナミ矩形波倶楽部に惚れ込み、ZUNTATAのCDを探し回り、『ドラクエ』の音楽を口ずさみむような、そういうゲーオタだった。「ライバル達に差をつける」どころか、曲を知っている仲間さえ皆無に近い状況のなかで、「あのゲームのBGMがどうしても欲しくて」CD売り場の隅のほうを彷徨きまわっていたと記憶している。
 
 
 ところで、ファッションなどと同じく、音楽もまた差異化ゲームや優越感ゲームに動員されずにはいられない。音楽であれ、ファッションであれ、他人に提示することで「格好良さ」「クールさ」を提示できそうなものはなんでも、差異化ゲームや優越感ゲームに用いられるし、そのことを意識せずにアイテムを選択することは意外と難しい。 「この音楽は、あいつと比べて格好いいだろうか?」…そういう“邪念”が忍び込むと、自分が本当に好きなものを選んでいるのか、それとも他人にクールだと思われそうな音楽を選んでいるのかの境目が曖昧になりがちだ。
 
 幸か不幸か、当時のゲームミュージックには、そういった差異化ゲームに寄与するような価値がゼロか、むしろマイナスに近かった*2。誰かにひけらかそうにも、せいぜいバカにされるのがオチか、そんな曲知らないよでスルーされてしまうような、ジャンル未満の状況だった。そのお陰で、差異化ゲームや優越感ゲームの入り込む余地が殆ど無い状況のなかで、僕はゲームミュージックの好き嫌いを選ぶことが出来ていた、と思う。女の子に好かれそうな音楽を選ぼうとか、友達と話を合わせるために聴こうとか、そういう“邪念”を混ぜ込もうにも、ゲームミュージックに対する世間の評価と知名度があまりにも低すぎたせいで、かえってそういう“邪念”抜きに、割と自分の嗜好だけで音楽選びがしやすかった。
 
 既にジャンルとして確立している音楽の場合、こうはいかない。伝統民謡やクラシック、ジャズやJ-POPに至るまで、多かれ少なかれ、差異化ゲームや優越感ゲームとしてのニュアンスが入り込まずにいられない。少なくとも、入り込みやすいとはいえる。もちろん「僕は音楽だけを純粋に楽しんでいるんです」と宣言することは簡単だが、そのような宣言をわざわざしなければならないという事そのものが、ジャンルとして確立した音楽に、差異化ゲームや優越感ゲームのニュアンスが侵入しやすいということを逆説的に証明しているような気がする。カルチャーとしてのクールさ・格好良さが確立してしまった音楽を、「あいつより俺がクールな証明としてのクールな音楽」という意識抜きで聴くのは、簡単なようで意外と難しい。
 
 その点、数年〜十数年前のゲームミュージックはあまりにも無名で、ジャンルとしても殆ど未確立だったので、「あいつより俺がクールな証明としてのクールな音楽」という感覚とは無縁のままに聴き込みやすかった。
 
 

ゲームミュージックが手垢やまなざしにまみれるようになった現状を嘆くべきか?

 
 とはいえ、差異化ゲームや優越感ゲームとは無縁にゲームミュージックを聴ける時期は終わりに近づいているのかもしれない。ゲームミュージックが(不完全ながらも)ジャンルとして確立し、かなりマイナーなゲームのBGMでさえも演奏やアレンジがインターネット上に溢れている現在、ゲームミュージックはかつてないほど手垢とまなざしに曝されるようになっている。そしてメジャーなレベルはともかく、小さなコミュニティや小さなジャンルの内側では、差異化ゲームや優越感ゲームに供されるようになりつつある。今、ゲームミュージックは「誰にも提示できない、ライバル達に差をつけることのできない音楽」から、「誰かに提示できるかもしれない音楽」へと変貌しはじめている
 
 だからといって、そう嘆くこともあるまい。衆目を集めるようになったということ・ジャンルとして確立されつつあるということは、それなりに人気が出てきたということなんだろうし、ゲームミュージックの話題を、おおっぴらに、不特定多数の人と共有しやすくなったというのは大きな福音だ。ひとりぼっちで楽しむしかなかったゲームミュージックが、ワイワイガヤガヤと楽しめるジャンルへと変わっていくとしたら、それはそれで悪い話でもないような気がする。
 
 こんな時代が訪れるとは夢にも思っていなかったけど、どうあれ、僕は今も昔もゲームミュージックが好きだし、これからも好きなんだろうな、と思う。
 
 
 

「グラディウス外伝」オリジナル・ゲーム・サントラ

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*1:例えば、ゼビウスの時代のゼビウス、など

*2:特に、エロゲーやアニメの音楽ではその傾向が強かったかもしれない