シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

“草食系男子モドキ”になった狼たち

  
 

 かつて、小室哲哉は『RUNNING TO HORIZON』のなかで、“眠れない午前二時 苛立ちがドアを叩く 走れない狼たち 闇に爪を立て さまよっている”と歌った。この曲は、中二病っぽい疾走感と、自分自身の未熟さへの自覚がミックスした、“一人前になる前の狼”の心情にジャストフィットのものだったと記憶している。
 
 さて、『RUNNING TO HORIZON』が発売されて約二十年が経ち、小室哲哉も逮捕されてしまった2008年。あの頃、“一人前になる前の狼”だった男性諸氏は、その後、どうなったのか。
 
 …ごらんの通りである。あのころ中学生〜高校生だった世代も、いまや中年。思春期という“牙を磨く季節”を終えて彼らが辿り着いた境地は、どうやら“一人前の狼”ではなかったらしい。例えば、渡部伸『中年童貞』によれば、今、20代後半〜30代前半の世代においては、男女交際が全く出来ない男性が増えているという。小室哲哉を聞きながら育った子狼たちのかなりの割合は、いっぱしの狼になれずに“飢えた弱めの狼”になってしまった、ということだろうか。肉食なんだけれども狩りの出来ない、飢えてやせ細った、息も絶え絶えの狼たち。
 
 最近、『草食系男子』などという、(ペットのような男を所望している女性陣にとって)理想的な男性像を紹介した書籍が出版されたこともあってまぎらわしくなっているが、この、“飢えた弱めの狼”は、肉食のケダモノであるという点では、他の元気の良い狼達となんら変わらない。単に、“狩りが出来ないから”“肉の歯ごたえに負けてしまうほど、牙がだめになっているから”そうみえるだけであって、彼らとて、したたるようなステーキが上げ膳据え膳で*1出されれば、大喜びでくらいつくのである。
 
 言うまでもなく、現実の娑婆世界では、ステーキのフルコースが上げ膳据え膳で出てくることなど有り得ないし、ご両親がおみやげにステーキをあてがってくれるということもない。狼たるもの、自分の力で、おおきな羊や立派な鹿と対峙できなければ、飢えてやせ細るほかに道はないのである。“飢えた弱めの狼”のなかには、ステーキのフルコースが上げ膳据え膳で出てくるのが「正しい社会」と主張している人もあるようが、勿論、そういうのは、飢えた狼たちの願望が作り出した、蜃気楼といわざるを得ない。
 

“飢えた弱めの狼”たちの、巧みな処世術

 
 ただし、ここ十年ぐらいで“二次元合成肉*2”が普及し、“飢えた弱めの狼”といえどもある程度はおなかを充たせるようになってきたようだ。この、咀嚼しやすく歯ごたえのない模造品は、とりあえず飢えをしのぐ分にはなかなか優れた代替品だったようで、“飢えた弱めの狼”たちを中心として愛好家が増えてきた。ところが、これがあまりに咀嚼しやすく歯ごたえがないせいもあって、“二次元合成肉”以外は受け付けない体になってしまう人や、甘すぎる味付けのせいで牙が虫歯になってしまった人が見受けられるようになってきた。牙が虫歯となって抜けおちた、弱すぎる狼となった彼らは、これからも“二次元合成肉”に依存して生きていくほか無いのだろう。
 
  
 また、“飢えた弱めの狼”のなかには、自分のことを“草食系男子”だと本気で思い込む者や、“草食系男子のふりをして、肉が引っかかるのを待つ”者も現れるようになっている。
 
 仮に「俺は本物の肉になんて興味は無い。どうせ、かたくてすじがあって食べにくいだけさ。」と本気で思いこむことができれば、肉を食べられない飢えた自分自身を省みなくて済むかもしれないし、草の根をかじっていても我慢しやすいかもしれない。加えて、「危ない獣」よりも「飼いならされた愛玩動物」を所望する女性がどうやら増えているようなので、そういった女性達のおめがねに適うかもしれないという、ちょっとした希望に賭けてみる線もある。これはこれで、なかなか巧みな処世術というほかない。
 
 

ペット探しの女性諸氏は、“草食系男子モドキ”にご注意を

 
 実際の男達を観察してきた限りでは、「本物の草食系男子」と言えるような男性は稀な存在と断定して構わないし、稀にいたとしても、もはや狼というよりは犬に近い。女ご主人様に飼ってもらえた幸運なペット、といったところだろうか*3。しかし、草食系を自称している野良の狼達の殆どは、“飢えた弱めの狼”が草食系のふりをしているモドキか、牙を失って“二次元合成肉”ばかりいただいているかのどちらかであって、その性根はやはりケダモノであり、結局のところ“肉の恋しい狼”なのである。
 
 昨今のペットブームのなかで、「ペットのような男性を飼いたい」という女性側のニーズも高まっているかもしれないが、飢えても腐っても、そこは狼。“草食系男子”だと思って油断していたら実は“草食系男子モドキ”で、野生の本能をむき出しにして、鼻息も荒く、むしゃぶりついてくることもあるかもしれない。果たして、目の前にいるその男性は“真性の草食系男子”だろうか?それとも、“必死に草食系男子を演じているモドキ”だろうか?ペットのような男性を求める女性諸氏は、よくよくご注意されたい*4
 
  
 [後日追加した関連エントリ]:『草食系男子』という名の万華鏡 - シロクマの屑籠こちらもご覧になれば、どういうのが草食系男子モドキなのかが、一層鮮明になるかと思います。
 

*1:そして離乳食のような食べやすさで

*2:アニメ絵の美少女コンテンツ

*3:まぁ、それはそれで、一つの処世術には違いないが

*4:そもそも、異性を癒し系ペットとして飼う、という発想自体が既に詰んでいるとは思いますが、そこら辺は、また日を改めてまとめたいと思います