シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

国道沿いと秋葉原は紙一重――コスプレ暴走族や痛車から思うこと

 
 
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痛いニュース(ノ∀`) : 秋葉原にコスプレ姿の暴走族(レディース)が出現!…駅前騒然 - ライブドアブログ
 
 
 秋葉原に、ゴスロリやメイドのコスプレをした暴走族が登場したという。うわーと言っている人も多いようだが、自分としては「ああ、やっぱりこうなるのね」というのが第一の感想だった。
 
 
 愛車をドレスアップして自己顕示欲を充たす・暴走族を結成して周囲からまなざしをかき集めて自己陶酔するという娯楽は、都心ど真ん中の楽しみというよりは、どちらかというとモータリゼーションの進んだ国道沿い*1で頻繁にみられた娯楽だった。おそらくゼロ年代前半を最盛期として、国道沿いには、いかにもなドレスアップを施された二つのカテゴリの自家用車――第一の方向性は峠の走り屋的・イニシャルD的な、ランエボやWRXを乗り回すようなカテゴリ第二の方向性はヤンキー・暴走族的な、シャコタンマジェスタやファーを敷き詰めたワゴンRのようなカテゴリ――が頻繁にみられたわけだが、これらがオタク文化のシンボルたる秋葉原に入ってくると、それぞれ痛車とコスプレ暴走族になっちゃうんだなーと非常に合点がいったような気がしたわけだ。
 
 
 【走り屋・イニシャルD的なカテゴリから→痛車へ】

 痛車は、車種から言っても、車のオーナーの心的傾向やファッションや振る舞いから言っても、これは国道沿いの走り屋的・イニシャルD的カテゴリの延長線上にあるものと考えて差し支えないだろう。早く走る車・カッコイイ車との一体感を重視し、自分自身のアイデンティティの仮託先たる愛車のメンテナンスとドレスアップに時間と金銭とエネルギーを投じる人達。ある種、デコチャリに通じるものもあるし、実際痛車のジャンルのなかには、確か痛チャリというものも含まれていたと記憶している。この人達は、自分自身に直接attensionを集めようとは思ってはいない。その代わり、「素晴らしい車」「素晴らしい走りをみせる車」に注目を集めることで間接的に自意識とアイデンティティを備給することには長けている。そしてこの手の人達がアキバ色に染まった時、「カッコイイ車」「凄い走りをみせる車」は、「かわいい車」「美しい女の子の車」に変化したというわけだ。走り屋的・イニシャルD的なカーマニアの人達は、ある種オタク的なところの多い人達*2なわけで、愛車に自分自身を仮託したがる人達が、萌える女の子に自分自身を仮託しやすいアキバ系と融合して、「かわいい女の子の車に自分自身を仮託する」という展開をとるのは非常にわかりやすく、ど真ん中ストレートな変化といえる。しかし、ドレスアップの形態がアキバ色・萌え色に染まったとしても、褒められ注目を集める愛車を経由する形で自意識を備給するというメンタリティ自体は殆ど変わるところが無い。
 

 【ヤンキー・暴走族的カテゴリから→コスプレ暴走族へ】

 一方、今回のコスプレ暴走族は、車種から言っても、オーナーのファッションや振る舞いから言っても、国道沿いのもう一つの想像力たる、ヤンキー・暴走族的カテゴリに連なる流れのものだと考えて差し支えあるまい。痛車系に比べると、彼女達は愛車との一体感を重視していないようにみえるし、愛車を褒められることで自意識を充たすことに特化していないようにも見える。それよりも、 暴走行為なり示威的行為なりを通して、自分達自身に直接attensionを集めようと思っているふしがある。まただからこそ、彼女達自身が目立つ服装を身につけ、マシーンだけでなく自分自身もattensionを集めやすいように服選びしているようにみえる。こうした特徴は、走り屋的・イニシャルD的な人達や、痛車オーナーにはみられにくい特徴だが、ヤンキー・暴走族的な流れのなかでは全く珍しくない特徴で、今回のゴスロリ暴走族というのは、ドレスアップ形態がアキバ色・萌え色に染まった、そっち系の人達と理解するのが適切なんじゃないかと思う。
 
 
 
 
 【秋葉原にドンキホーテが出店しているような状況のなかで】
 
 アキバ系・萌え系のコンテンツはもはやオタクだけの特権物ではなく、誰でもいつでも流用可能になった。そのなかで、痛車という現象が現れてくるのは非常に理解がしやすいし、ヤンキー・暴走族的想像力に「萌え」が中途半端に取り込まれてコスプレ暴走族といった形をとることにも違和感は感じない。ヤンキーとオタクは、一見すると水と油にみえるが、どちらも国道沿いというホームタウンを持ち、他者からの承認やまなざしの快楽に敏感で、充たしきれない自己顕示欲を日常生活以外の局面に求めずにいられないという点でも共通している。だから、コスプレ暴走族の人達としては、オタク文化のキャッチーな所だけを頂いて自分達のコスチュームとし、秋葉原で暴走行為を企てることにそれほど違和感が無かったのではないか、と想像する。今ではドンキホーテにコスプレ衣装が売られている*3ことを考えるにつけても、彼女達にとって、コスプレ衣装はそれほど馴染みの薄い、遠い世界のものではなかったのだろう。
 
 オタクにとって、ヤンキー系の彼女達は今でも同属嫌悪の対象かもしれないが、案外、彼女達にとってはコスプレもオタクも秋葉原も「躊躇も屈託も無く選択可能」なものなのかもしれない。「萌え」やコスプレが一般化・大衆化したことによって、平然と秋葉原に入ってきたヤンキーと、そんなヤンキー達に眉を顰める(ことしか出来ない)オタク達。これからの秋葉原・これからのオタク文化圏の変質を見通すうえで、今回の出来事とそれに対するオタク達の反応の声は、色々と興味深い。
 
 
 

*1:よく言われる表現なら国道16号線沿い・または、三浦展さんの言う『ファスト風土』

*2:この辺りは、例えばイニシャルDに出てくる男達のファッションや振る舞いをみていればよく分かると思う

*3:その極限とも言うべきものが、ドンキコスプレ館である。→http://www.donki.com/c/cospre/