シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

少年達が「知的障害者を狙う」ことは本当に可能なのか?

 
 http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080822/crm0808221209007-n1.htm
 
 青梅市で、知的障害者が中学生グループに狙われ、恐喝と暴行の被害に遭うという事件があったという。記事を読んで、強い義憤に駆られた人も多いと思う。はてなブックマークをみても、知的障害者につけこんだ卑劣な犯行、という風な反応が多い→はてなブックマーク - 知的障害者ねらい暴行、恐喝…少年グループ逮捕 - MSN産経ニュース
 
 勿論、弱みにつけこんだ犯罪というのは卑劣であり、そもそも、弱みにつけこもうがつけこむまいが、恐喝と暴行を行うこと自体が許し難い。中学生とはいえ、犯行グループがやったことというのは非常にいけないことであり、逮捕という措置は妥当なものだと思う。
 
 しかし、何故この記事が事件性のある記事としてピックアップされ、それを読む私達を憤慨させるのか?を冷静に考えてみると、少し妙な感じがしてくる。この記事が事件性のある記事としてピックアップされているのは、被害者が知的障害者で、加害者側が「弱みにつけこんだ」という構図があればこそであり、だからこそ、例えばはてなブックマークあたりに強い語調のコメントが溢れるわけだろう。では、「被害者を知的障害者」として「加害者が弱みにつけこむ」というのはどういう行為なのだろうか?そもそも、「あいつは知的障害者だから狙おう」と照準を定めることが、中学生に可能なのだろうか?
 
 お前は何を言っているのか、と思う人もいるかもしれない。だが私が訊きたいのは、「街で知的障害者をみかけ、知的障害者を知的障害者と認知して狙い撃ちにするのはそんなに簡単なことなんですか?」ということだ。まさか、この少年グループを療育手帳をいちいち確認したうえで、「こいつは障害者だから俺達の獲物だ」と思ったのだろうか?それとも、知的障害者の授産施設などについて一定の知識を持っていて、授産施設の玄関口で待ちかまえてストーカー紛いのことをしでかしたのだろうか?
 
 どちらも違うだろう。記事によれば、この少年グループは、道でたまたま出会った男を「自分より弱そうな相手を選んだ」のだという。彼らは「知的障害者だから」狙ったのではなく、「道でたまたま出会った御しやすそうな相手が知的障害者だった」のではないだろうか
 
 知的障害の人*1と一言で言っても、金銭の概念すら理解が困難な水準から、ある程度は労務に従事できる水準、さらには境界域知能といわれるIQ85以下の領域まで、幅広い領域が含まれている。最近では、療育手帳を持っている人であっても高校を卒業している事例も多く、ときには(人一倍の苦労の末に)大学や専門学校の教育を修める事例をさえ、見かけることがある。そんななかで、身振りや手振りから素人が「あれは知的障害者」と意識・認識出来る群というのは、それなりに障害の程度の重い一群に限られる。今回の事件の被害者は、襲われた時に八万円の現金を所持していたというが、現金八万円を所持して単独行動し、なおかつ自前の携帯電話を持っているということは、おそらく被害者の知的水準は、東京都療育手帳(愛の手帳)で言えば軽いほうの等級(3度、4度)だったのではないかと推測される*2。だが、軽いほうの等級ともなると、一目で知的障害者と見抜くのは殆ど困難、というか極めて困難で、専門家の場合でも、街ですれ違った程度ではなかなか気づきにくい。意志の弱そうな奴・気弱そうな奴・間抜けそうな奴を求めて徘徊していた少年グループが、御しやすそうだと目をつけた男性がたまたま知的障害者だった、という筋書きが本当のところなのではないか?*3
 
 だから、記事のタイトルは「知的障害者ねらい暴行」とあるけれども、専門家でも連れていない限り、そんな事が本当に可能なのか、私には疑問に思えて仕方ないのだ。なんだか気弱そうな奴・なんだか意志の弱そうな奴を襲撃することは、それほど難しいことではないが、知的障害者を知的障害者と鑑別したうえで狙い撃ちにするというのは、案外難しい。特に、ある程度の現金を自己管理しているような、知的ハンディがあるとは言ってもそれほど重くはなく、携帯電話やインターネットなどもまずまず使いこなしているような知的障害者を、街を行き交う人達のなかからピックアップして狙い撃ちにするということは、専門的な知識や経験をもってしても容易ではないと思う。気弱そうな奴・意志の弱そうな奴を狙っているうちに、たまたま知的障害者が網に引っかかった、ということは大いにあり得るが、知的障害者を知的障害者と認知したうえでねらい撃ちにするというのは、やろうと思っても出来ることではないように思えてならないのだ。捕まった後の少年グループが「障害者をいじめて何が悪い」と供述しているけれども、これだけでは、障害者を障害者と狙っての犯行なのかは分からない。襲撃した後、または捕まった後に、知的障害者を襲っていたことに気づいていた可能性すらある。
 
 

あなたも気づかぬうちに知的障害者を搾取している、かもしれない

 
 このように、知的障害者を知的障害者として明確に認知して犯罪などのターゲットにするということは、極めて難しいわけだが、逆に言えば、知的障害者を知的障害者として明確に認知して、「ハンディに配慮」することもそれだけ難しいともいえる。東京都療育手帳の軽い等級に該当しているような人の多くは、さまざまな形で社会参加し、就労しているケースも非常に多い。自由と責任と裁量のいずれにおいても、一人の個人として殆ど制限を被ることなく、社会のあらゆる事業に参加している。だから、恐喝や暴行は論外としても、強引なセールスのターゲットや宗教勧誘や悪徳金融などに、偶々引っかかってしまっていることは大いにあり得るし、住み込みのアルバイト先でパシリをやらされいた彼が、実は軽度の知的障害者に該当していた、ということもあるかもしれない*4。重度ではない知的障害者を知的障害者と明確に認知し、狙って配慮(または搾取)することは、簡単なようにみえて実際には非常に困難だ。だから、もしかしたらあなたも気づかぬうちに知的障害者を搾取する側に回っていることがあったかもしれない(はてなブックマーク上でイノセントな怒りに身を任せている人達でさえも)。何しろ、社会参加が可能なぐらいの軽度知的障害者を知的障害者として認知すること自体が、困難なのだから。
 
 

 [関連:]弱った者をどんどん食い物にしていく、娑婆の浅ましさ - シロクマの屑籠(←知的障害者を食い物にしている事例。これは、知的障害者の名簿か何かを使った、計画的・意図的な犯行と思われる。)
 

*1:正確には精神発達遅滞の人。しかし、リンク先に知的障害者、となっているため、本エントリでは知的障害という語彙を使用することにする

*2:愛の手帳で、障害が重いほうの1度や2度に該当する人が、そのような現金・携帯電話を所持し、保護なく単独で街中を行動しているということは、極めて考えにくい。はてなブックマーク上には、知的障害者が現金八万円を所持して単独行動をしていたことに疑問や不安を感じる書き込みが無いけれども、ここは大きな引っかかりどころで、一般には、現金八万円を所持し単独行動できるような軽度精神発達遅滞の水準の人は、素人目にはそうそう簡単に障害者だとは分からない筈なのだ。おそらく、最軽度の4度該当の事例なのではないだろうか?

*3:勿論、襲われた際、被害者の側が、「自分は障害者だからやめてくれ」と言ったということはあり得るが

*4:注:精神科医や小児科医の診断を必ず受けているとも、療育手帳を取得しているとも限らないのだから!