シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

「考える」よりも先に「感じちゃう」ぐらいには、僕は畜生なんですよ。

 
 http://d.hatena.ne.jp/tenkyoin/20080606#p2
 
 丁寧なお返事ありがとうございました。色々と考えさせられ、楽しかったです。
 
 オタクのコミュニティに限らず、都市空間のなかで出入りが割と自由なスペースでは、肉体的な腕力や威圧を持った個人がけっこう優勢を確保しやすい、と私は考えています。それをグローバルでロジカルな権力と比較して、「ローカルでnon-literalな権力」と表現できることは確かです。
 
 ただしこのローカルな権力って、威圧と暴力以外にも色々な要素が含まれてますよね。ロジックに回収しにくい諸力としては、容貌や身振り手振りやなんかも含まれて然るべきでしょう。かわいらしい女の子の笑顔なんて、もう最高にパワフルです。言葉の体系では回収しきれない、プリミティブな情動に関連した諸力全般が、ここでは問題にされなければならないと思います。そしてid:tenkyoinさんの仰る通り、僕は、それをロジカルな文法で記載し尽くせたら最高だなぁなどと執着してます。もし可能であれば、ロジカルにエミュレート出来たら面白いとも思います。
 
 ただ、ちょっとtenkyoinさんの早合点のように思えたのは、ローカルな権力(腕力や威圧、美貌、笑顔、など)の存在と有効性を認める、ということを、ロジックレベルでエミュレートすることになぜ直結させちゃったのか、という事でした。確かに、ローカルな権力をロジックな形式で記載したいという願望は持ってますし、それはそれで、一つのliteralな征服形式と言えるでしょう。ですが、僕は情動や感情を完全に(または十分に)エミュレート出来るとは思っていません。だって、なんだか分からないうちに溢れてくる感情って、自分の内側にもあるじゃないですか。他人の威圧や笑顔を前にした時に、抗し難く心動かされる瞬間ってあるじゃないですか。そういうのは、エミュレートしきれないと思うし、しようと頑張りすぎてもかえって厄介なことになると思うんですよ。
  
 事後的に、そういった(私や、対象の)情動の動きを再検討する際に、ロジカルな接近は有効だと思います。また事前にシミュレーションしてみることで、自分の繰り出したいカードを並べてみることも可能だとは思います。ですが、実際に怒号や笑顔が飛び交ってる瞬間、ロジックでエミュレートなんて言ってられないと思うし、できると思うほうがどうかしてると思いませんか。ロジックだけで動くロボット人間さんなら、そういうのも出来るかもしれませんが、生憎、シロクマは畜生の身です。大脳新皮質が「エミュレーション!エミュレーション!」って題目唱えてみたところで、扁桃体の反応のほうがずっと強烈で、鋭敏でしょう。この畜生の身のある限り、僕はローカルな権力の荒波に巻き込まれずにはいられませんし、その巻き込まれ具合はロジックで解剖しきれない何かを含み続けるでしょう。
 
 だから僕は、「ロジカルな人間が肉体的でnon-literalな行動をエミュレートするにはどうすればいいか」というより、「肉体的でnon-literalな権力が問われる状況下で、そういった影響があるということをまず確認すること」を志向しているつもりです。そして都市空間の出入り自由な空間の人間が、literalなロジックで重武装していてもローカル権力の影響を蒙らずにはいられない、ということを忘れちゃヤバいよね、とも言いたいです。理屈でエミュレートなんて、畜生の身にはとんでもない。ただせめて、そういったグロい権力の影響を自分や他人がどのように蒙るのか・どのように(自ずと)発信されてしまうのか、が多少整理できたらいいなとは思います。この、高度に都市化された割には、案外野蛮な土地で生きていく為に。