シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

newアキハバラ解放デモ----誰もが褒められる社会を!

 2012年4月1日(日)、秋葉原にて----
 
 
 彼らがデモンストレーションの場を秋葉原に選んだのは、自分達がオタクだからでもなければ、オタク達を同志として期待したからでもない。人の集まる歩行者天国として真っ先に想起されたのが秋葉原だったということ、そして数年前に“革命的非モテ同盟”なる集団がクリスマスの秋葉原でデモをやったという記録が彼らの背中を後押ししたということ、ただそれだけであった。「オタク」という言葉が出涸らしのお茶のように薄められ、何者をも指し示さなくなった2012年においては、「オタク」という言葉で“弱者”を連想するのは中年世代までというのが、デモ実行委員会の認識だったし、少なくともその認識は間違っていなかった。
 
 
 「承認格差反対!」
 
 「打倒!承認ヒエラルキー!」
 
 「誰もがほめられる社会を!」
 
  
 警官の見守るなか、“革命的承認連合”は秋葉原駅の電気街口を出発し、中央通りを末広町方面に向かってデモ行進を開始した。横断幕とプラカードはすべて手製だったが、同志達が心を込めて徹夜で用意したものだった。フカマツ書記長の声に合わせて、彼らは大きな声でシュプレヒコールを繰り返した。
 
 
 「社会は 承認欲求を 満たすべきだー」
 
 「べきだー」
 
 「留保無く 承認欲求を 満たすべきだー」
 
 「べきだー」
 
 
 拡声器越しの、フカマツ委員長のダミ声に、往来の人々が振り返る。だが、関心を向けるには至らない。ましてや、デモ行進に飛び入り参加する人など殆どいない。例の“ハルヒ公開痴漢騒動”*1以来、秋葉原の路上パフォーマンスは所管警察への届出制になってはいたけれども、少人数のデモ行進に比べれば人々の注意を惹くような、まだしも魅力的なパフォーマンスが生き残っていたのである。美少女の微笑みや、巧みな青空演奏よりも、褒めろ褒めろと五月蝿い男達のデモ行進に注目しろというのはどだい無茶な話なわけだが、その無茶をこそ通すべく、“革命的承認連合”は戦っていこうというのである。
 
 
 ----この、“コスプレ小娘”や“にわか演奏家”にできあがった人だかりと、我々の運動に対する皆さんの冷淡な反応!このギャップがすべてを物語っているのです!この現状こそが、改革すべき、ここにある問題なのです!だから我々は運動し、誰もが承認される、褒めてもらえる理想の社会へと前進するべきなのです。その日が来るまでは、我々は決して屈しない。“コスプレ小娘”に人だかりが出来て、我々に人だかりが出来ない状況、この状況こそが、歪んでいると思いませんか!我々の承認欲求は、今まさに、この秋葉原の地で蹂躙されているのです!皆さんの力が、今こそ必要です!“革命的承認連合”は、常に弱者のミカタです!----
  
 それでも、昭和通りへと折り返す頃には、デモ行進は、飛び入り参加者も含めて五十人ほどの集団に膨れ上がっていた。「ネットで見てます」「応援してます」という声もチラホラ聞こえ、フカマツ委員長の声にも、自然と熱が籠もった。握手を求められれば握手で応じ、声援には笑顔で答える。これこそあるべき姿だ。革命への前進と、大衆との“対話”だ。秋葉原の街を一周し、万世橋に戻ってくる頃には、デモ参加者の誰もが“いきいき”とした表情で、革命運動に心酔することができていた。最も内気な同志でさえ、いつしか大船に乗ったような面持で、目を輝かせ、シュプレヒコールを唱和するのであった。
 
 
 「我々を 承認しろー」 「承認しろー」
 
 「我々を 賞賛しろー」 「賞賛しろー」
 
 「我々を ほめろー」 「ほめろー」
 
 
 最終的なデモ参加者は、延べで136人。「承認して欲しい、褒めて欲しいという声を社会に伝え、“格差”に抑圧される大衆に革命的意志を伝え、褒めてもらえない現状に抵抗するための気力を与えることができた」というフカマツ委員長の総括をもって、newアキハバラ解放デモは解散した。解散しても長いこと、デモ参加者達は、実行委員会のメンバーも飛び入りの参加者も関係なく、握手をし、肩を抱き合い、お互いを激励しあった。すべてが、成功と満足のうちに進んでいるかのようにみえた…。 
 
 
 

今こそ“運動”の強度が試されるとき

 

「皆さん、お疲れ様でした!デモは女子禁制って言ってたので、飲み会からお邪魔します!」
 
 
 フカマツ委員長の名前で予約していた居酒屋「へいわぼけ」に到着した一行を、一人の女性が待っていた。はてなブログ界隈では知らぬものはいないといわれる女性ブロガー、id:xxxxxである。鶯色のカーディガンを羽織り、人当たりの良い笑顔を浮かべる彼女を前に、不謹慎にも誰かがゴクリと唾を飲み込んだ。
 
 id:xxxxxは、ブロガー界隈では“姫”とも揶揄されるような、ある種の嗅覚に優れた女性である。そのid:xxxxxが、呼ばれてもいないのに(しかしきっと誰かがメールでこっそり連絡して呼び寄せたに違いない!)宴席に現れたのである。彼らは彼女を追い出すべきだった。しかし彼女も心得たもので、自然な上目遣いと、控えめでフンワリとした服装に、すべての男達は無意識のうちに篭絡された。乾杯の音頭もぎこちなく、宴会は始まった。
 
 「うん!わかる!その気持ちわかります!」
 
 「え?わたしなんかに褒めてもらっても、そんなに嬉しいのかな?」
 
 「…はい、わたしも、みなさんを応援します!」
 

 酔った男達の目を釘付けにしながら宴席を回遊するid:xxxxxは、神の与えた試練か、悪魔の化身か。今こそ、彼らの“運動”の強度が試されるとき。…と言いたいところだが、しかし、承認のまなざしに脆弱な彼らに抗する術などある筈もなく、附子のような言葉が零れ落ちるたびに、男達の心は麻痺していくのであった。
 
 
 (この話はフィクションです。実在の人物、団体、事件などにはいっさい関係がありません)

*1:注:この文章は秋葉原無差別連続殺人事件の二ヶ月前に書かれたものなので、架空の事件になっています