シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

超リアルなケータイ小説、超エロいエロゲー、超メイドなメイドさん

 
 超リアルなケータイ小説・超エロいエロゲー・超メイドなメイドさんは、脳内補完を前提とした記号群コンテンツという点においてとてもよく似ている。
 
 
【A面】犬にかぶらせろ!: ケータイ小説の「リアル」とは何か?
 
 『犬にかぶらせろ!』のひとが、ケータイ小説の「リアル」について語ってくださった。本当らしさ、というファクターがケータイ小説が読者を惹き付けるうえで重要なポイントとなっていることについて語っていらっしゃる。私個人がリンク先のエントリを読んで感じた解釈は、「つまりケータイ小説で求められる“リアル”っていうのは、現実の事物をどれだけ完璧に写実しているかの度合いより、読者が現実の事件だと思いこめる強さの度合いなんだな」ということだった。ちょっと言い換えるなら、本当の事件や本当の人物をどれだけ丁寧に写実しているかが評価基準になっているわけではなく、いかにも本当らしいと読者が思いこめるか否かが、そのケータイ小説が読者に「リアル」を提供したか否かの分水嶺になるんだろうなと思ったわけだ。
 
 こういう構図というのは、そういえばエロゲーの世界にもよく当てはまるなぁと思う。エロゲーにおいて求められているのは、実際のセックスの生々しい描写以外の何かだし、エロゲーのエロ刺激というのは、ある種、極めて“嘘くさい”。なんというか、「ねーよwwww」というシチュエーションや体位などがてんこ盛りなわけである。じゃあエロゲーがエロくないかというと、どうだろう。超エロい。エロすぎる。二次元美少女キャラクターに抵抗感の無い人であれば、『家庭教師のお姉さん』なり『戦乙女ヴァルキリー』なりは、なまじっかのAVよりも遙かに強烈なエロを提供する。描写される精液の量も、あれやこれやの台詞群も、現実のセックスを凌駕するエロさを(限定された範囲の、ではあるが)消費者に提供することが出来ている。
 
 そういえば、エロゲーというより美少女ゲームにおいて提示される恋愛プロセスについても同じことが言える。デートにせよ、途中のトラブルにせよ、絵に描いたように色々起こる。よく萌える美少女ゲームにおいては、ツンデレの文脈であれ、妹キャラの文脈であれ、それぞれのキャラクターに相応な恋愛プロセスが提示されるわけだが、どれもこれも、「このキャラクターなら、こういう展開だよな」という読者側の想像力や願望の限界を逸脱することが無い*1。このキャラクターならば、こういうストーリーがそれっぽいよね、という枠の内側で、本当の男女交際ではあり得ないほど恋愛チックな物語展開が提供されている。
 
 超リアルなケータイ小説。超エロいエロゲー。超恋愛な美少女ゲーム。このような構図の消費コンテンツとしては、そのほかにも超リアルな医療ドラマとか、超リアルな戦争映画とか、色々なものが想像されるだろう。また超メイドとしてのメイドコスプレ、などというのも含めて良いかもしれない。これらはいずれも、実際にそれらの現場に日常的に参画している人達からみれば「ねーよwwww」な所もあるわけだけど、それぞれのコンテンツの消費者にはしばしば「いかにもそれらしい」コンテンツとして、満足しながらコンテンツと向き合う機会を提供している。これらのコンテンツは、類似した構造に支えられているな、と私は感じる。
 

「超リアルな」「超エロい」想像力に身を委ねる為の条件

 超リアルなケータイ小説やら超エロいエロゲーやらが、現実の恋愛やセックスよりもエロく消費されるには、ある種の条件が必要なんじゃないかと思っている。その条件とは、「消費の対象について実際にはあまり知らなくて」「しかもなんだか分からないけれども良さそうにみえる」というものだ。
 
 ケータイ小説にせよ、エロゲーにせよ、メイドコスプレにせよ、そこにはリアルらしさ/エロらしさ/メイドらしさを指し示す沢山のシグナルが溢れている。例えばエロゲーであれば、過剰な精液だったり、過剰なあえぎ声だったり、過剰なプロポーションだったりする。これらのシグナルを想像力の芯として、エロい妄想を脳内補完することにオタは長けている。美少女恋愛ゲームやらキャッキャウフフなライトノベルやらに「萌える」時にもこの脳内補完の構図はみられるわけだが、ケータイ小説においても、諸シグナルを想像力の芯とした脳内補完が起こっていて、「本物よりも超リアルな東京」やら「本物よりも超リアルな恋愛」やらが読者のうちで脳内展開されているのではないかと思う。
 
 そしてこの想像力と脳内補完という営為を下支えする重要な条件として、読者側が「実物をあまり知らないか、全く知らない」という条件をクリアーしていると好都合だと私は考える。下手に女性を知っている人よりも知らない人のほうがかえって妄想力というか脳内補完力を炸裂させやすいように、ケータイ小説という分野においても、下手に恋愛やら東京やらを知らないほうがスムーズに耽溺できるのではないかと疑う。レイプ、ホスト、純愛、といったタームも、それらを体験したことの無い人のほうが、体験したことのある人よりも、烈しく想像力を展開しやすいのではないだろうか。エロゲーにせよケータイ小説にせよメイド萌えにせよ、記号を芯とした想像力を読者に形成させ、読者自身の脳内補完をコンテンツとして消費させるタイプの作品群は、下手に実物を知っているより、あまり知らないか全く知らない読者のほうが、奔放な想像力を展開しやすそうだ。
 
 勿論、エロゲーにしてもケータイ小説にしても、実物を体験したことのある人が楽しめないというわけではない。けれども、実物は実物、想像は想像、というある種の割り切りなり分離作業が出来ない人は、「ねーよwwww」になってしまって----つまり想像力と脳内補完に失敗して白けてしまって----コンテンツを楽しむことが出来ないだろう(それどころか「こんな作品を評価してる奴の気が知れない」などと言い出すのがおちである)*2。だけど、現実の東京恋愛シーンを知らない女子なら、ケータイ小説の記号群をもとに「超リアルな」脳内補完を完成させて堪能するのは極めて容易だろうし、現実のセックスを知らない男子なら、エロゲーの記号群をもとに「超エロい」脳内補完を完成させてハァハァするのは一層容易なのではないだろうか。コンテンツ越しに覗き見る世界について、実物の知識や感触から遠ければ遠いほど、飛躍した(または逸脱した)妄想と脳内補完の世界に埋没しやすい・より貧困な想像力でも埋没しやすい のではないかと思う。この点において、超リアルなケータイ小説・超エロいエロゲー・超メイドなメイドコスプレといったコンテンツは、実によく似た構造・よく似たコンテンツー消費者関係を持っているようにみえる。
 
 ケータイ小説で描かれる世界にせよ、エロゲーで描かれるエロにせよ、そのほかのコンテンツで描写される物語にせよ、それらを超リアルに、超エロく体感する要件は、読者にいかに気持ちよく簡便に想像力を展開させることが出来るか否かであって、写実的な描写をすることでは間違っても無い。そして、想像力を展開するにあたっては、消費者側が或る程度“無知”であることがより有利な条件として想定される。記号群を芯として読者の想像力(脳内補完)を動員することで楽しませるコンテンツという点では、ケータイ小説・エロゲー・メイドコスプレなどは共通した構造を持っており、(脳内補完の対象の実際の様相について疎い消費者に消費されているという意味で)共通した消費者を擁している。
 
 いやいや、そればかりではない。医療ドラマやら“ドキュメンタリー”やら、自分が疎い分野についてのメディアコンテンツ群を「超○○な」モノとして消費しまくっている私達の後ろ姿を連想せずにはいられない。自分がよく見知っている分野のコンテンツについては「ねーよwwww」と難癖つけながら、そうでない作品については「うわぁ、リアルだー」などと言いながら煎餅をかじるのが私達ではないだろうか。どこもかしこも超リアルな現代社会…その内部において、エロゲープレイヤーがケータイ小説をくさすのもケータイ小説読者がオタク文化を馬鹿にするのも大同小異で、ある種の同族嫌悪的な振る舞いにもみえる*3。実際には、記号群をもとに読者が「超○○な」想像力を膨らませて楽しんでいる各ジャンルごとに、それぞれのジャンルの秀逸コンテンツが登場しているのだな、と捉えるのが精一杯だ。勿論、ここでいう秀逸なコンテンツというのは、ケータイ小説であれ、エロゲーであれ、ライトノベルであれ、最も気持ちよく最も簡便に想像力を勃起できるコンテンツがそれに該当する*4。リアルもエロも、現実を写実したコンテンツよりも、超リアル・超エロい想像力を勃起するコンテンツこそが、多くの消費者を捕まえ魅了していく趨勢のなか、さてあなたはどのようにコンテンツと対峙していくのだろうか?また消費していくのだろうか?
 
 
[関連]:ケータイ小説を笑うまえに。 - Something Orange
 

*1:勿論、このカテゴリーの内側において、読者の想像力と願望の及ぶ範囲内において発生する「納得可能な逸脱ハプニング」はちょっとしたフューチャーとして歓迎されるのだが

*2:医療ドラマを医者がみる時なども同様だ。これは脳内補完を楽しむコンテンツだ、というある種の割り切りなり分離作業が無ければ、「ねーよwwww」に陥ってしまいやすい

*3:エロゲーなりケータイ小説なりは、既存の文学小説の文法を逸脱した作品様式を持っている、という点でも共通しているにも関わらず!

*4:天才レベルの極少数の作品という例外もあるけれど、いわゆる良くできたコンテンツの殆どは該当する筈。