シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

伊藤誠の使い方(精神的下剤としてのヘタレヒール)

 
http://guideline.livedoor.biz/archives/50970898.html
2007-09-27 - MOON PHASE 雑記
 
 アニメ版school daysは、多難な展開にせよ、何とか終了したようだ。上記リンク先を伺う限り、最終話はもともと地上波では放送困難な、相当の内容だったようである。しかし希代のヘタレ主人公・伊藤誠さまが死んだ事に関しては、“誠氏ね”を連呼していた人達にとって気分の良いモノであったようだ。
 

エロゲ三大ヘタレ主人公の一人などと称されていた誠は、アニメでは酷さに磨きをかけたことで、大多数の視聴者から『誠死ね』と言う感情を引き出した功績は凄いとしか言いようがない。しばらくの間は、これ以下の主人公は見たくないよ(笑)。

http://d.hatena.ne.jp/moonphase/20070927#p1

 このid:moonphaseさんの文章には、全く同感である。誠はアニメの世界の内側だけでなく、外側でも大人気。氏ね氏ねと連呼され、馬鹿にされ、蛇蝎のように嫌われて、“ヒール”としてはこれ以上ないほどの嫌われっぷりと言えるだろう。僕らの“アイドル”に成り下がってしまったムスカ様やアミバ様とは異なり、オタク男性達からみても実に嫌悪感の漂う、許し難い、腹立たしいキャラクターを誠は貫き通した。彼は、誰にも同情されない、誰のあこがれにもなり得ない、“どうしようもないヒール”として、一身に嫌悪と罵倒を浴びながら退場していった。
 
 彼のあの胸くそ悪さに対し、僕らはどのような唾を吐き捨てるだろうか。「ヘタレ」「俺はあいつとは違う」「人間のクズ」etc…。思いつく言葉は幾らでもある。本当にどうしようもない彼の一挙一動に、視聴者たる僕たちは、唾を吐き捨てる。これは、結構気持ちの良いことではないだろうか。どこをどうみても酷い奴・醜い奴を眺めやり、罵倒し、悪因悪果を願うという行為は、罵倒する僕達に、無邪気な罵倒のチャンスを与えてくれる。多くの場合、こういった役割はかませ犬のザコキャラや、時代劇においては悪代官や極悪商人が担当するもので、メインディッシュというよりも副菜のようなカタルシスのような気もするが、school daysにおいてはヘタレで無責任で自己中心的な男性主人公がその役を担っているわけだ。
 
 この、誠を罵倒する過程を通して、僕たちは心をスッキリさせることが出来る。これが、誠を罵倒するうちに潜むカタルシスなのだろう。「誠ほど俺はヘタレではない」「誠よりは女の子のことを思いやることが出来る」「誠ほど俺は自己中ではない」----本当は誰にだって、ヘタレな瞬間や怖じ気づく瞬間や、自己中心的で搾取的な瞬間というものはある筈だ。だけど、誠をみているとつい、世の中にこれ以上無様な男はいないような気がして、自分の内側にあるそういった要素・可能性を暫し忘れ去ってしまえるのだ。さすがに誠と自分のメンタリティを比べて、自分自身の心の美しさにうっとりするような人は滅多にいないだろうけれど、「誠氏ね」を連呼している瞬間に、自分の内側にも存在するであろう、仄暗い心性の事をスッキリ忘れ去ってしまっている人ならば少なくない筈だ。しかも、この罵倒で良心を痛める余地など微塵も無い。
 
 強烈な太陽を直視した後に、豆電球の明かりをみたところでちっとも明るくないのと同様、誠の完璧すぎるヘタレヒールっぷりを視た後には、大抵の人のヘタレメンタリティはすっかり霞んでしまう。school daysの誠は、その圧倒的なヘタレヒールっぷりの故に、視聴者自身の内側にも含まれているおぞましい心性の色々を、暫し忘れさせてくれる。僕たちが「誠氏ね」という罵倒の言葉を口にする時、自分の内側にも潜んでいておかしくない真っ黒な心性を、排泄し、スッキリすることが出来るのであろう。ニコニコ動画あたりで繰り広げられる、「誠氏ね」という大合唱の内側に、このような爽快感を見いだすことはそれほど難しいことではない。自分の内に存在する後ろ暗い心性をキャラクターに投げつけて*1排泄し、自分の内側にはさも無いかのように振る舞うことも、キャラクターの消費形態のひとつとして了解可能ではある。school daysというオタクコンテンツを消費する有様は色々あろうが、このような(後ろ暗い心性の)排泄と投影を行うにあたって、「誠氏ね」という台詞は実に好適と言える。*2
 
 school days、とりわけアニメ版は、自分の内側に潜む仄暗い心性を排泄してスッキリしたがっている人達にはうってつけのコンテンツ、なのかもしれない。色々とお腹に詰まって大変な僕も、DVDを買ってひとつスッキリすることにしよう。
 
 

*1:投影して

*2:あ、そうだ、誠が包丁で刺されて死ぬシーンに快感を覚えるのも、己の内側から誠に投げかけた仄暗い心性をも刺し殺したような、そういう錯覚に瞬間的に陶酔している部分もあるのかな?かな?