シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

定年退職まで生き延びたオタクなら、豊かな老後を満喫できそう。

 
 
 最近、ディアゴスティーニのテレビCMをよく見かける。今は蒸気機関車の特集号などやっているようだ。この会社が以前から、ガンダム特集・古代文明特集・艦船特集、などなど様々な趣味分野に関する利便性の高い商品を売り出していることは皆さんもご存じだろう。
 
 お値段お手頃、よくまとまった知識、入門者が興味を持つにはなかなか好都合なアイテムかもしれず、とりわけ退職してこれから趣味を持とうなどと考える人をターゲットとしているのかもしれない。
 
 しかし、ディアゴスティーニの入門用アイテム群をみて、「これじゃあ物足りないなぁ」と思う人たちも少なくない筈だ。一般的なオタクからみればガンダム特集は全く食い足りないものだったし、鉄道分野は『鉄道ジャーナル』を毎月買っている人からすればもの足りず、軍事分野に関しても『グランドパワー』などを愛読している読者には読めたものではないだろう。何年も特定趣味分野に時間とお金をかけている各分野のオタク・マニア達からすれば、今更入門用テキストを買って読もうとは思うことはない。これまで通りに専門雑誌を買い続けるなり、コンテンツを消費し続けるなり、カメラや望遠鏡を持って基地や駅に出かけるほうが楽しいに決まっている。
 
 そう思うと、ディアゴスティーニが現在販売しているような入門用アイテム群は、現在オタク活動をやっているオタクさん達が還暦を迎えた頃には殆ど不要になっているような気がする*1。オタク趣味を維持しながら三十代、四十代、と進んでいくのは必ずしも楽なことではないかもしれないが、もしも趣味の命脈を保つことができた人なら、定年後に趣味が無くて右往左往することもなさそうである。何十年間にもわたって十分に薫陶された趣味人として、大いに老後を楽しむことができそう。何十年にもわたって『軍事研究』やら『コンプティーク』やらを読み溜めてきたオタク・マニア同士のやりとりを想像してみると、何か壮絶でもあり、楽しげでもある*2。何重にも確かめられたソース、様々な情報やコンテンツを比較して積み上げた識見、などなどを交換し、確かめ合う作業はオタ冥利・マニア冥利に尽きるに違いない。或いは、「21世紀の初めに、ニコニコ動画ってあったよねー」などと笑い会うのはとても楽しいことかもしれない。
 
 繰り返すが、現在のオタク達が還暦まで各種オタク趣味を貫き通すのは言うほど簡単なことではないだろうとは覚悟しておかなければならない。生活水準の維持、ということも含めて。生活水準の維持、という点では、団塊ジュニア以下の世代のほうが団塊世代よりも遙かに厳しそうなことは言うまでもない。しかし、もしもそれが実現すれば、“趣味が無くて右往左往”するような還暦を迎えるのではなく、それぞれの趣味分野に関して十分に熟成した趣味人として、安んじて老後を迎えられそうだ。無事に年をとって還暦を迎えるというのは言うほど簡単ではないにしても、その時まで一匹のオタクとして命脈を保ち続けることができるとすれば、現在の団塊世代とは異なったタイプの豊かな生活に到達できるかもしれない。
 
 文化活動や生き甲斐、という視点からみた場合、現在のオタクやマニア達の将来というのは案外と楽しいものかもしれない。生活の維持という難題を乗り越えて、何とか還暦まで一匹のオタクとして生き残りたいものだ。そしてもし同年代の仲間達と趣味の話題で盛り上がることが出来たら、それは幸せなことだろうなぁ。もしも事故や病気に遭遇せずに私がその日まで生きることが許されるのなら、そんな未来が来るのかどうかを、この目で確かめてみたい、と願う。何十年も趣味と時代を共有にした人間と酌み交わすビールの味を夢見て。
 

*1:これから日本の仏像をやるんだ!という人とか、旅行向けの冊子は常に売れそうな気はするけれども。

*2:ひょっとしたら、多少苦しげかもしれない