シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

あなたは彼女が好き?それとも「彼女と一緒にいる自分」が好き?

 
 「彼女が欲しい」「女の子と付き合いたい」という男性や、「彼氏欲しい」「男の子と付き合いたい」という女性をブロゴスフィアでは沢山みかける。もしかしたら、「好きな異性が一人いて、付き合いたくて仕方ない」「クラスの○○さんが好きで悩んでいる」なんかよりも余程多いんじゃないだろうか。誰だか分からないけれども、とにかく素敵な異性と交際したい、素敵な異性とデートしたい、と願望する人達も多いようだ。別に惚れた異性がいるわけでもないのに「彼女が欲しい」「彼氏が欲しい」という人が実際に求めているものについて、ちょっと考えてみよう。
 
 既に惚れた異性がいて胸をときめかしているというのなら、これは割とわかりやすい。その異性のことしか頭に入ってなくて、その子の乗っている自転車まで愛しくみえてくるような、そういう男性(や女性)ならば、「ああ、○○さんに恋してるんですね」というのは理解しやすい。どこら辺に惚れたのかは分からないが、○○さん個人のことが好きなんだろう。
 
 だが、惚れた異性がいるわけでもなければ、胸のドキドキやもどかしさに憬れているわけでもない男女が、「彼女(彼氏)が欲しい」とぼやいている時、彼(彼女)は何を欲しているのだろうか。誰のことが好きなんだろうか。不特定多数の異性に飢えているとでもいうのだろうか?少なくとも、具体的な○○さん個人の笑顔でないことだけは確かだ。自分が期待している“水準”をクリアーしている異性ならば、おそらく誰でも良いのだろう。
 
 となると、彼/彼女が望んでいるのは何なのか。「誰でもいいからおあつらえ向きの異性とデートしたい!」なるほど、確かに。それは恋ではないかもしれないが、願望には違いないだろう。しかし、この願望は、本当に不特定多数の異性に投げかけられたものだけなのだろうか。あるいは、女(男)という概念そのものに惚れている、とでも言うのだろうか。私は、それらだけじゃないと思う。彼らの願望を成分分析すると、「素敵な異性と一緒にいる自分自身」を求める成分が含まれているんじゃないだろうか。
 
 例えばだが、見栄えの良い女の子と手を繋いで動物園を歩く男性が上機嫌だとする。この男性が上機嫌なのは、【1.女の子がホッキョクグマをみて無邪気な歓声をあげているから】なのか、それとも【2.見栄えの良い女の子と手を繋いでいる自分自身に上機嫌だからなのか】、さてどっちだろう?もしも後者のニュアンスが強いとしたら、この男性にとって必要なのは特定の○○さんではなく、彼自身の自惚れを満たすに十分な程度に見栄えの良い女の子でさえあれば、左隣にいるのが誰であろうと構ないだろう。この場合、彼が求めているものは、特定異性に惚れこむ感情でも、特定異性その人でもなく、とにかく誰でもいいから自分の自惚れの道具になってくれる異性だ。
 
 交際相手のいる人にもいない人にも、ここで問いかけてみたい。あなたが恋人とデートしている時を想像して欲しい。【1.あなたは、恋人が喜ぶさまを楽しんでいますか?恋人の笑顔をかけがえないと思ってますか?】それとも【2.恋人と一緒にいる自分自身や、恋人をスポーツカーの助手席に乗せている自分自身に酔いしれているんですか?】もし、後者の成分が強いのだとしたら、それは恋と言えますか?惚れているというよりもむしろ、自惚れ、ではないのですか?
  
 勿論、「恋人が好き」と「恋人と一緒にいる自分が好き」のどちらか100%だけという人は滅多にいるまい。実際は程度問題であり、殆どの人はどちらの成分もそれなりに男女交際に含んでいることだろう。だが、後者の割合がかなり濃厚な人というのは(とりわけ昨今の世の中には)結構いるのではないだろうか、とは思う。そういう人にとっての異性が、あくまで自惚れを強化する為のパーツとして必要とされているとしたら、さて異性の側はどう感じるだろうか。まっぴら御免と思うに違いない。恋愛関係に初心な中高生ならいざ知らず、ある程度の人間関係を経験してきた男女であれば、自惚れ屋の為の映し鏡として異性を求めるような手合いを素早く感知し、一目散に逃げ出すことだろう。人間誰しも、美人とレストランで食事をとる自分自身に陶然となるような部分が無いわけではないだろう。けれど、そればかりに夢中になっていて、肝心要の女の子(男の子)には関心が行き届かないというのであれば、流石に色々とまずかろう。まっとうで長続きする交際*1が出来るとは、ちょっと思えない。
 
 昨今、「異性が欲しい、欲しい」と言いつつも、別に誰かに惚れるわけでもなく、異性との交際の無い状況にただ不満を抱え続けている男女がたくさん存在するという*2。また、長続きしない交際期間・結婚生活の人も多いという。その要因は様々には違いないにせよ、この自惚れを求める心的傾向が男女ともに高まっている、というファクターも関与しているのではないか?と私は疑っている。男の側も女の側も、誰かに惚れる機会を待望しているというより、むしろ「素敵な異性と一緒にいる自分自身」に自惚れることを待望している時代なのだとしたら、そりゃあ男女交際も結婚も下火になって、代わりに美少女キャラクターやヨン様に夢中になったりするのも頷ける。自惚れのツールとしての異性を互いに求め合う男女が、まともな交際に辿り着くのは相当に大変なのではないか。
 
 あなたは彼女が好き?それとも「彼女と一緒にいる自分」が好き?
 
 異性個人に惚れる度合いと、誰でもいいから自分自身を自惚れさせてくれる異性を求める度合いと、あなたの場合はどちらが大きいだろうか。どちらが何%ぐらいを占めているだろうか。このパーセンテージの如何によって、男女交際のやりやすさや長続きの度合いも大きく左右されると思うのだが、どうだろうか。
 

*1:または結婚

*2:とりわけ、氷河期世代といわれる1970年〜1980年生まれぐらいに顕著なのかな?