シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

萌えオタの舌が肥えて、萌えキャラも味わい深くなっていった

 「萌えキャラ」の発展を砂糖菓子に喩えるお遊び。
 
 昔は、想像力を勃起させようにも、オタ達の想像力がまだ貧困だったから、あからさまな萌え属性(記号)が必要とされた。少なくとも、自分の力で想像力を純化・膨張させられない程度のオタクにとってはそうだった。だが、今のオタク達はよく訓練されているので、露骨な萌え台詞がなくても十分に想像力を汲み取ることが出来るし、萌え記号がどぎつすぎればかえって辟易してしまう。この変化によって、キャラクターのディテールに拘った造型が可能となったし、味わいも深くなった、と言える。この変化を砂糖菓子に喩えて遊んでみる。
 

  • 1990年代前半頃、人気キャラクターの内に萌える属性という成分が発見された時はまさに「砂糖の発見」のようなもので、砂糖の如き珍重品を、精錬のまだまだ甘いキャラクターから個々人が一生懸命精錬して萌えていた。キャラクターの凹凸などの不純物を取り除くのも大変だったし、そもそもどこに「おいしいキャラクター」がいるのかを探し当てるのも難儀だった。
  • 1990年代後半には、エロゲーメーカーや漫画家などは「そうか砂糖を精錬すればいいんだな」と気づいて萌え属性の強いキャラをガンガン市場に送り込んだ。サッカリンの塊みたいなキャラクター達は、確かに萌え属性が露骨なまでに現れていたが、グルメなオタク達は精錬砂糖やサッカリンの塊に辟易していく。途中、砂糖楓だの甜菜だのといった新しい甘味のもとが発見されたけど、オタク達は瞬く間に貪り、瞬く間に食傷気味になってしまった。
  • 21世紀に入って暫くすると、砂糖の塊よりかは幾らか甘みを加減して、微妙な味付けにしたり趣向を凝らしたりしたキャラクターが受けるようになった。もう、「ふにゃ〜ん」とか「にゃ にゅ にょ」とかいったサッカリンはかえって粗悪な萌えキャラという印象をもたれる状況で、砂糖菓子職人の人達の腕前が試されることとなった。勿論、甘く味付けしたほうが良いシーンなど*1では今も砂糖菓子職人がたっぷりと甘味を詰め込んでいるし、ネタとして蔗糖の結晶のような萌えキャラをリリースしてみたり、ニッチな遊びとして死ぬほど甘いキャラクターをリリースしてみたりすることは、あるようだ。

  
  
 あとは、味わい深いキャラクターをたくさんの立ち絵やたくさんの台詞などによって表現できるようになった、というのも大きいだろう。全体として細かいところまでクオリティを確保できるようになり、少ない情報量の萌え記号羅列だけでオタクの想像力を引き出さなければならないなどということが無くなった、というのも「凝った砂糖菓子」のような質の細かい萌えキャラが出てくるようになった要因かもしれない。グルメになったお客さんと、フランス料理のごとく細かな手数・材料を用意できるようになった*2作り手さんによって、以前よりも甘さの繊細な、複雑な味わいのキャラクターに遭遇出来るようになった、という側面もある。
 
 「萌え」という砂糖発見の時代は、皆、砂糖の精錬に一生懸命だった。「属性」という精錬砂糖が出回ると、皆、砂糖だけでは満足できなくなった。そして、「属性」という精錬砂糖だけでは満足できないグルメな消費者と、手数・材料を用意できるようになった菓子職人が揃ってようやく、ただ甘いだけではない凝った砂糖菓子がバリエーション豊かに流通するようになった。今日日、ただのメイドキャラには興味はありません、と言う萌えオタさんは沢山いることだろう。メイド服着て「いらっしゃいませご主人様」だけでは、素の水飴のようなものだ。贅沢に慣れた消費者に求められているのは、もっと面白い、味わい深い萌えキャラクターだ。

*1:エロシーンの声優さんの演技、などの分野

*2:というより用意させられるようになった