シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

「こなたは俺の嫁」に飽きたら「こなたは俺の分身」で愉しもう!

 

 『らき☆すた』のキャラクターはみんな魅力的ですが、低身長つるぺたでオタクオタクしたこなたもまた、人気者の一人です。「こなたは俺の嫁」という文章をグーグルで検索すると、19600件が引っ掛かかるほどです*1。この数字を多いととるか少ないととるかはさておき、こなたみたいな嫁なり彼女なりがいたらいいな、と空想するオタクさんが沢山いらっしゃることは想像に難くありません。「オタクな話題も聞いてくれて、オタショップにも連れていけて、コミケでは共同戦線を張れる嫁さん」という想像は、結婚願望・恋愛願望を隠し持ったオタクさんにとって抗しがたいものがあるのではないでしょうか。
 
 しかし、こなたは本当に「俺の嫁」という楽しみ方のキャラクターなのでしょうか。私はそうは思いません。確かにオタップル・オタ夫婦的な願望を惹き起こキャラクターには違いありませんが、「オタ嫁特化型」ではないと思うんです。こなたというキャラクターは、「俺の嫁」として楽しむだけじゃなく、「俺の身代わり」として楽しむキャラクターではないでしょうか。
 

こなたは、妄想力貧困なオタクでも割と自分を感情移入させやすい女の子だと思う。

 実際のところ、こなたはかわいらしい女の子キャラクターというよりも、ユニセックスなキャラクターという印象を受けます。ド貧乳で小さな身長の彼女には、第二次性徴を迎えた女の子らしい身体的特徴があまりありません。言動もまた、オヤジ臭い発言の数々・男性オタク界隈に関する博識・などなど、かなり男性的(もっと言えば男性オタク的)ときています。服装面でも、セーラー服姿や浴衣姿のようなコスプレ然とした恰好をしている場合を除けば、こなたはユニセックスな服ばかり着ています*2
 
 こういったの特徴のお陰で、こなたはかがみ・つかさ・みゆきに比べて遙かに男性的な、もっと言えば男性オタク的な風味の強いキャラクターに仕上がっています。かがみ達が、服装面でも振る舞いの面でも明確に女の子を意識してつくられたキャラクターとして仕上がっているのとは対照的です。かがみ・つかさ・みゆきは、萌える対象としてはうってつけですが、オタクが自分自身を感情移入させる対象としては難度が高い。でも、こなたは違います。まるでおっさんオタのように振る舞ってくれるし、身体的にも服装的にもユニセックスです。かわいい女の子に自分自身を仮託したいと願望していても、どうしても照れが残ってしまうような“まだまだ修行の足りないオタクさん”であっても、こなた程度に中性的なら自分自身を重ね合わせやすいことと思います。オタ的には、これは素晴らしい福音です!最も貧困な妄想力しか無いオタクでさえ、『らき☆すた』のこなたならば女の子に自分自身を仮託することができるのです!
 

こなたに自分自身を重ねて、楽しいこといっぱいみつけてください!

 『らき☆すた』を視て、一度こなたに自分自身を重ね合わせることが出来たオタクは、オタクの願望ストレートな様々な空想を楽しむことが出来ます。それはとてもとても気持ちのいいこと。こなたを自分の嫁として妄想するのも気持ちよさそうですが、こなたの魅力を「オタの嫁」だけで片付けてしまうのはあまりに勿体ないことが段々わかってくることでしょう。
 
1.オタクなのに女子高生達とキャッキャウフフできます
 こなたに自分を重ねて感情移入してみましょう。うわぁ、周りは魅力的な女の子ばっかりでまるでエロゲー世界。見渡す限りのお花畑です。邪魔な男キャラも『らき☆すた』の世界には見あたりません*3。女子高生達とお昼食べたり、ケーキバイキング行ったり、お出かけお泊まりやってみたりと、キャッキャウフフの極楽浄土です。しかも、オタクだから仲間はずれだとか、コミュニケーション能力に偏りがあるから疎外されるとか、そういうのは一切ナシ!こなたに自分自身を仮託した読者/視聴者が厳しい現実を思い出すような、そういう無粋なシチュエーションを作者さんは全然描きませんし、これからも描かないことでしょう。
 
 ちなみに、この「女子高生達とキャッキャウフフ」な想像は、もちろんセクシャルな願望を含んでいますが*4、消費するオタクさんが性的願望にどれだけ強い不安を抱えているか否かによって、消費のされ方が大きく二通りに大別されてきます。性的願望にストレートな人達は、今年の夏コミでアレな同人誌を大漁ゲットな感じでしょう。一方、性的願望に蓋をしておかないと色々困っちゃう人達は、強迫的なまでにプラトニックなストーリーを想像します*5
 
2.オタクなのに女の子の前で屈託なくオタクとして振る舞えます
 少なくないオタク*6にとって、オタクガジェットの開陳は大いなる喜びであり、まして、それを女の子に聞いてもらえるシチュなんて法悦の極みです。実際のリアル世界では、オタクが女の子にオタクガジェットを開陳することは極めて困難ですし、やれば相応のしっぺ返しが待っています。せいぜい、オタク仲間の間で開陳合戦をやるぐらいで我慢しておくってものでしょう。
 
 でも、『らき☆すた』世界のこなたは違います。かがみ達にとってのこなたは、見知らぬキモオタではなく女友達です。多少呆れることはあるにしても、こなたのオタクな振る舞いやガジェットにちゃんと付き合ってくれます。ああだこうだ言いながらも、オタクイベントにまでついてきてくれる程です。こなたに対して野良犬を視るようなまなざしは向けませんし、現実世界でしばしばありがちなオタクに対する先入観をもって差別することもありません。こなたは屈託無くオタク(それも、男性オタク)をやりながらも、女友達であり萌えキャラでもあるかがみ・つかさ・みゆき達から疎外されることなく、女子高生として暮らしています。ネトゲ廃人の先生も含め、こなたがオタクであること・オタクとして振る舞っていることを邪魔だてする女子は『らき☆すた』には存在しません。*7
 
 こなたを感情移入の基点として『らき☆すた』に埋没したオタクは、オタクとして屈託なく振る舞いながらも女の子達に許容される、というファンタジーを楽しむことが出来るのです
 

3.オタクなのにコスプレした自分自身に陶酔できます
 こなたの普段着はユニセックスな服装なものが多く、不精者の男性オタが好んで着ていそうな半天の恰好の時もあります。そんなこなたも、セーラー服や浴衣を着たりすればあら不思議!たちまち女の子です。こなたは男性オタクが自分自身を重ねやすい「オタ男性的なキャラ」であると同時に、「セーラー服やゆかたを着ればたちまち女の子に変身できるキャラ」でもあるのです。この組み合わせのお陰で、こなたに自分自身を投射したオタクは、「女の子にコスプレした自分自身」に自己陶酔する楽しみをも体験することができます。こなたは「ユニセックスモード」と「コスプレモード」で女子高生的かわいらしさが激変するようにつくられていて、尚かつ男性オタクが感情移入しやすい特徴を沢山併せ持っているので、初心者でも容易に「コスプレしてかわいくなった気分」を疑似体験することが出来るのです。現実世界のオタク男性が、セーラー服や浴衣を着た自分を眺めやったところで自己陶酔は困難ですが、『らき☆すた』という作品のなかで、こなたの後姿に自分自身を重ね合わせることさえ出来れば、(想像の世界とはいえ)女子高生然とした自分にかわいらしさを重ね合わせることが出来るのです。「こなちゃんかわいいっ!」という感じで。
 

もっとこなたで愉しもうよ!

 こんな風に、こなたは様々な妄想可能性*8を秘めた、とてもすばらしいキャラクターなのです。「こなたは俺の嫁」という画一的な楽しみ方だけでは勿体ない。「俺の嫁」という妄想も確かに素敵ですし、それだけでご飯三杯はいけるという気持ちはわかります。ですが、「こなたは俺の分身」として感情移入してみても、やはり芳醇なオタク的妄想シチュが広がるのです。オタクの妄想可能性のトリガーとして、こなたは本当によく出来たキャラクターだと思いますし、そんなこなたを包みこむ『らき☆すた』は本当によく出来たオタクファンタジーだと思います。「こなたは俺の嫁」という自分自身のストーリーを脳内補完していたオタクの皆さん、今度は是非、「こなたは俺の分身」と感じながらオタク的妄想を膨らませてみましょうよ。『らき☆すた』の新しい楽しさと萌えアングルに陶酔できること請け合いです。
 

*1:ちなみに「かがみは俺の嫁」、の場合は11000件です

*2:こなたが女性っぽい私服を着ている例外は、1〜4巻のなかでは計3回。1巻P66のスカート姿、3巻P11キャミソール姿、3巻P111リボン付き、ぐらいでしょうか

*3:そうじろうは、幸いなことに、オタク自身を重ねる対象にはなってもかがみ達を寝取る脅威にはなりません

*4:そうでなければ、男女比がトントンでもいいんだけど、『らき☆すた』は、そうではありません。これだけ男女比の極端な作品が主として男性オタクに消費されるという構図にも関わらず「そこにセクシャルな願望は無い」と強弁するのは、随分面白いやりかたです☆

*5:プラトニックなら別に『らき☆すた』ほどハーレム状態じゃなくったっていいじゃないか、例えば『時かけ』の友愛のほうがむしろ惹かれる筈じゃないか、なんて無粋なつっこみは入れないほうがいいと思います!

*6:特に1970年代以降生まれの少なくないオタク

*7:男子も存在しません!

*8:言い換えればシミュラークル可能性