シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

狂気→自己中、というレッテルには容赦したくない

 
久しぶりに、読んだ瞬間に怒りで血が沸騰しそうな文章に遭遇しちゃいました。
ヤンデレ萌えは対象愛じゃなくて自己愛じゃないのか - こころ世代のテンノーゲーム(コメント欄で私暴走)
 
いや、すいません。ちょっと熱くなりすぎました。

しかしそれこそ、「娑婆世界のおハナシ」では、多数派であることが「正しさ」の根拠となりえ、少数派が「異常」と見下されることなど常なのではないですか?
そして、孤立することが少数派の外的特徴であり、その外的特徴を「正しい」視点から客観記述すれば「自己中心的」だとされるのでは?
ならばこそ、「狂気」=「異常」な精神のありようを「自己中心的」と表現しても、それほど強烈な非難を受ける理由にはあたらないように思えますが。

http://d.hatena.ne.jp/umeten/20070324/p2#c

 なるほど、umetenさんのコメントにおける「自己中心的」という単語のニュアンスは、私が思っている「自己中心的」とは随分異なるようですね*1。私はそのように思ったことがなかったんです、ここが誤解だったのかもしれませんね。「自分勝手で自分の都合だけに動機づけられたことが外部からみて強く推定される行動」を、私は自己中心的と捉えるようですし、世間の人もそう捉えていると思っていました。umetenさんが日常用いる時の“自己中心的”という時のニュアンスがこれと異なっているとするならば、私は自らの想像力不足を反省すべきなのでしょう。
 
 それはともかく、私が怒ってしまった背景についてちょっとだけ「私の日常の話」でも。
 
 統合失調症の被害妄想や幻聴などに悩む実際の人達の少なからぬ割合は、「自分勝手で自分の都合だけに動機づけられたことが外部からみてもみえる行動」をとっていない、ということは是非覚えておいて欲しいと思います。例えば統合失調症の患者さんのなかには「殺せ」と指示的な幻聴が聞こえてくるケースが少なくないのですが、彼らの殆どは、「殺しちゃいけない!」と思って必死に堪えます。どうしても声に左右されそうな時は、自殺企図してでも食い止めようとする人だっているぐらいです。侵襲的な幻聴や妄想のなかには、殺意を抱かせるものや他人に迷惑をかけてしまいかねないものがかなり含まれているんですが、彼らは「それに左右されまい、自分の都合で他人様をどうこうしてはいけない」と最後まで頑張ります。
 
 現場において、彼らが幻覚や妄想に囚われながらも「自分の都合で他人を不幸にしてはいけない」と涙を流しながら堪える姿を頻繁にみている身としては、[狂気→自己中心的・自分勝手]という短絡はどうしても許せなく腹立たしいものだったわけです。確かに、幻覚や妄想に遂に乗っ取られてしまう人がいないわけではありませんが、彼らの殆どは「自分の病気やら都合やらで他人に迷惑をかけてはいけない」と最後まで抵抗していますし、幻覚や妄想があっても乗っ取られずに堪えきる人のほうが多いのです。
 
 私は、侵襲的な幻覚や妄想を堪えながら「自分の都合で他人に迷惑や危害を加えてはならない」と歯を食いしばる統合失調症の人を沢山知っています。さぞかし厭であろうに、閉鎖病棟に自ら入棟を依頼してまで、ある種のリスクを回避しようとする人達の辛そうな顔をみています。だから、精神科的な制御不能状態や狂気を「自己中心的」と読み違えそうな文章をみると、どうしてもムカッと来てしまうのです。umetenさんの意図を誤解していたのは私の想像力不足でした。ごめんなさいです。
 
 一方、私の想像力不足と同程度に、今回のあなたの配慮不足は非難の対象となるべきだと思います。あの文章を読んで、コメント欄に書いてあるようなニュアンスだと思える人が何%いますか?あんまりいませんよね?此度のumetenさんの発言は、umetenさんの意図はともかくとして一般的には「狂気→自己中心的」というミスリードを招きやすいものだったと思います。僕と同じような勘違いをした読者さんが、他にもいるんじゃないかなと思ってます。そんな特殊なニュアンスなんだとしたら、せめて注釈をつけて下さいよ。いやほんと今回の勘違いは“こんなこと書く人なら頸動脈狙ってもいいのかな?”と一瞬と思ってしまったほど頭が沸騰してしまいました。誤解がもとでumetenさんにご迷惑をおかけしそうでした。そんなの、お互いのためになりません。umetenさんのコメントを読んで、救われた気分になりました。ああ、私の誤解だったんだな、と。
 
 繰り返しますが、「狂気」→「自己中心的」という発言をみた時、私はまず“自分の都合や疾患で他人に迷惑をかけるわけにはいかない”と堪える人達のことを思い出すんです。あの人達は断じて(世間でいう)自分勝手な人ではないし、自分の都合だけで行動するう人でもない。私は、そこら辺を無視した誤解が広がりそうな場合には(今回のように)デリケートな反応をしますし、これからもするつもりです。幻覚や妄想に抵抗する人達まで一緒くたに“自己中”とレッテルづけされる事態に対しては、私は私なりの形で反発していこうと思っています。どうか、そこを汲んでいただいたうえで、ご寛恕のほどを。
 

*1:世間一般のニュアンスとも幾らかズレているように思えます