シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

脱オタ症例10(要約)

 
 本家のほうの脱オタ症例報告もこれで十例目。読み返すと本当に色んな人がいて考えさせられます。
症例10(汎適所属)
 
 Jさんは、まともに受容され得ない幼少期を過ごすなかで人格形成と処世術の原型を形成していきました。おそらく、このような生育上の*1特徴は、Jさんをして感情表出を不得手たらしめたと推定されます。また、自分の快感を素直に肯定するよりも他人の顔色にすべてが左右される子になりやすかったのではないかとも思われます。
 
 果たして、Jさんは幼稚園〜高校時代までを通してクラス内における弱者として生活せざるを得ませんでした。女子に嫌われ、臭いと言われ、そんな過酷なJさんの生活にいっときの休息を与えてくれたのがオタク趣味でした。林原めぐみのラジオ番組を端緒として、Jさんはアニオタの道へと傾倒していきます。クラスメートの陰口にストレスを感じつつも、Jさんはオタク趣味を通してストレスを発散していくのでした。
 
 しかし、そんなJさんにも転機が訪れます。オタク仲間が進路相談に「声優専門学校」と記入するのをみたJさんは、いたたまれない気持ちになってしまったのです。その瞬間、Jさんはオタな自分の有り様に疑問を抱いてしまいました。本当は、恋愛だってしたいし嫌われたくない、という元から抱いていた気持ちに気付いてしまうのです。
 
 大学進学後、Jさんの脱オタが本格化していきます。しかし、まだまだ脱オタのプロセスの途上にあり、必ずしも男女交際などで成功しているわけではありません。自分自身に自信を持つことが出来ないJさんですが、しかし、彼の友人はそんなJさんにダメ出しするわけでもなく、見守ってくれているようです。
 
 今回のJさんの件で私が着目するのは、「失敗しても大丈夫な経験」「怖じ気づいてもダメ出ししない友人との交流」です。ファッションをどうやろうが、女の子と付き合おうが、(Jさんのような)能動性に乏しく自分に自信の無いオタクさんは失敗に対して極度に敏感なことが多いわけですが、現在のJさんにはそうした経験をうんうんと聞いてくれる友人がいる、ということなわけです。これはとても重要なことのように私には思えます。「思った通りに行かずに失敗したり怖じ気づいたりしていても、ダメ出しされない、という経験」は、Jさんの次の正念場において、ちょっとだけ背中を押してくれるのではないでしょうか。たとえ失敗しても自分の価値を切り下げずに付き合ってくれる人がいる、という体験の蓄積が、Jさんの気弱さに漸進的な影響を与えていくことを祈念しています。
 

*1:あるいはそれに加えて遺伝的傾向も?