シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

精神科研修で「人の話をきく」「質問に答える」を教わった研修医

 
 先日、首都圏の病院に勤めているTと一杯やる機会があって、面白い話を聞いたので、書き残しておく。
 
 Tの精神科急性期病棟も、最近はスーパーローテーター(研修医)の教育を引き受けながらの臨床活動が続いていて多忙をきわめているようだ。要領の良い奴、ドン臭い奴、色んな研修医が来るのはどこも同じだが、最近来たD君という研修医が抜群のインパクトがあったとのことで、Tは身振り手振りを交えて話をしてくれた。D君の性質を、以下に箇条書きにしてみよう。
 
1.恰幅の良いD君は研修医二年目。まだどこの科に入るのかは決めてないらしい。親が医者ではない研修医の恰好としてはまず穏当な、ちょっと地味めの恰好。「お金が無い」と時々こぼしている一方で、快速のグリーン車を使って通勤しているとのこと。
 
 
2.ユングの“グレートマザー”“アニマ”について、頼んでもいないのに解説をはじめる。はいはい、わかったわかりました→冷たくするわけにもいかず、熱の入った箱庭療法談義に付き合う指導医。その指導医は実はかなりのユンギアンだったが、D君の研修終了までだんまりを貫いていた。あまりの痛々しさに、Tが「知らないことは知らないって言っていいんだよ」とそれとなく言ってみたことがあったが、華麗にスルーされたらしい。
 
3.心理学の本を相当読んでいることをひけらかす一方で、疲れている患者さんを無理矢理レクレーションに誘ってしまうD君。しかも相手の様子に全然気付いていない様子で、指導医がやんわり言っても気付かない!理論を読むのも結構ですが、実践しないと役に立たないですよ!
 
4.初対面の患者さんに、突然命令形を使っていた!それはまずいんじゃないですか?!
 「ええと、D君って、ロジャース読んでるって言ってませんでしたっけ?」
 「外科を回ってた頃、外科医の先生が、ダイレクトな指示を出してましたから」
 ( ゚д゚)ポカーン
 
5.映画の話や人間関係の話になると黙りがちで、プレゼンテーションの時にも焦ててどもるD君。会話が嫌いな奴だと誰もが思っていたが、在る時たまたま戦闘機の話になった時に、突然勇躍してマシンガントークを開始し、まさに一同( ゚д゚)ポカーン。当人は陶然としている様子で、女性の研修医はドン引き
 
6.表情の起伏が乏しいD君は、滅多に笑わない。しかし、、自分が話をしている時はいつもニコニコ笑っている。
 
7.果てしなく規則に厳格で真面目であろうとする。モラルを重んじる発言も多い。…にも関わらず、遅刻してきた時に「ごめんさない」が言えない。「いつも通りに起きていつも通りの電車に乗ってきたんですが…おかしいなぁ、なんで遅れたんだろう…体力が落ちているんでしょうか」←みんなわかってます!(「○○線が飛び込みで止まったんです」とか言わないところがかわいらしいといえばかわいらしいか)
 
 後でそれとなくTが聞き出したところによれば、疲れたとか出来ないとかいった弱音を全く吐けない厳格な家庭環境で育ったとのこと。ううむ。
 
8.質問したことに素直に答えられない。
 「今の病棟の患者さんのなかで苦手な人っていますか?」
 「困りますねぇ」
 「ええっ?」( ゚д゚)
 「そんな事訊かないでください」
 すったもんだの末、ようやく彼が言いたかったことが判明した。どうやら「僕には苦手な患者さんがいないので質問に答えられません」という意味だったらしい。だったら素直に「いません」って言えよ…それともD君ってMS-DOSで動いているんですか。
 

最終的には

 結局このD君は、例のユンギアンな指導医が粘り強く「まず人の話を聞こう」「質問に答えよう」と教え込んでくれたお陰で、最後は割とまともな会話が出来るようになったようだ。T曰く、「他の科の研修を、彼はどうやって乗り切ったんだろうか」「精神科にはあまり向いていないかもしれないが、まだ若いんだから何とかなるんじゃないか」。今は自意識の傷つきに敏感でコミュニケーションの下手くそなD君だが、臨床にもまれるなかで自信と技能を身につけて、一人前の同業者に育って欲しい。そう語りあいながらTと焼酎を呑みました。