シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

弱った者をどんどん食い物にしていく、娑婆の浅ましさ

 
 職場のケースワーカーの人に、或る本を勧められて読んでみた。本のタイトルは、『―http://www.s-pla.jp/bookrist/booklet1.html(注:アマゾンには無い)』。もくじを開くと、刺激的な文句が並んでいる。「経済的搾取」「性的被害」「虐待・暴力」etc…。この本は、障害者(主として各レベルの知的障害者)と娑婆のブラックホールに関しての様々な話が載っている。勿論、ただ悲観的に現状を報告するだけでなく、この本では社会制度の利用法や、昨今の悪徳商法に疎いような人達を守る法的防御について紹介してくれていて、なかなか勉強になりました。どんな本なのかをご紹介すべく、以下に一節を抜粋してみます。

ソーシャルワーカー:「実は、土田さんは障害者年金の収入しかないのですが、消費者金融からいっぱい取り立てを受けているようなのです。聴いたら、返済額と年金額がほぼ同じなんですよ。そんなの払えるわけないでしょう。それでご相談にあがりました」
弁護士:「それで、最初に消費者金融から借入をした理由はなんだったんですか?」
ソーシャルワーカー:それがね、土田さんが二十歳になったときに、知らない人から電話がかかってきたらしいんです。『二十歳になったのだから、あなたもテレビでコマーシャルしている○○○○でお金が借りられますよ。でも、私の言うとおりにしたらの話ですが…』って。そんなん借りられるはずがないって思っていた土田さんは、ためしにとその男の言うとおりにしました。そうしたら簡単に三十万円が借りられたのだそうです。その男は『な、俺の言うとおりにしたさかいにお金借りられたやろ、指南料として16万円もらっとくで』と言って半分以上持っていったそうです。それでも土田さんにすれば、それまでそんな大金見たこともなかったので、あの人はすごいとか思いながら喜んで帰ったそうです。(中略)それを二、三回繰り返したらあっという間に負債総額が150万円ぐらいになったということです」
弁護士:「それは、最初『紹介屋』といわれている手口にひっかかったのですね。消費者金融で借りる場合、審査するのは結局、他に借入がどの程度あるのか、今までに滞納していないかということです。(中略)
 それにしてもなぜ電話がかかってきたのでしょうか。養護学校の卒業生名簿がいわゆる名簿業者に流れたのかもしれませんね。最近は、障害者を狙ってくる悪質な輩が増えていますから。」
(P28-29)より

 
 こんな感じで、色々な事例が具体的に紹介されています。なかなか良い本だと思うので、興味のある人は、是非ご覧下さい。*1
 
 しかし、こういう話は、全然珍しいものではない。福祉界隈ではどこにでも転がっている、ありふれた話である。とりわけ療育手帳B1〜B2クラスあたりの人であれば、企業で働いてお金も自分で管理しているケースも多いので、こういった層を狙って仕掛ければある程度の悪質商売が可能だろう*2。というか、現にそうやって金を巻き上げようとしている輩は後を絶たない。禿鷹どもは、口をパクパクさせながら障害者を凝視している。
 
 ああ、娑婆は本当に弱肉強食の、恐ろしい世界だ。何でも名簿が流れる時代、養護学校高等部の名簿すら取引の対象になっているという話は十分に信じられる。ひょっとしたら、高齢者サービス施設の名簿なんかも高価に取引されているかもしれない*3。効果的に借金をさせ、徹底的に搾取する対象として、判断力のハンディを持っている人が容赦なく狙われるのが今日日の世の中だ。というか、娑婆というものは、昔からそういうものだったか。比較的軽度の障害者は、ある程度の判断力を持ち合わせているため、後見人制度の対象にいきなりしてしまうのも乱暴な話なわけで、実際の金銭管理は当人達に任されているし、(権利の擁護という理念からは)任される部分があって然るべきだろう。が、禿鷹どもは容赦なく獲物を選別し、判断力を試すテストを仕掛けてくる。この手の“判断力試練”をクリア出来れば何も起こらないが、もしもクリア出来なければ、徹底的に搾取されてしまう。そして、養護学校の名簿に載っている人達は、この手の“判断力試練”にミスってしまうリスクが高い、ということだろう。
 
 そうそう、この厄介な話が他人事ではないという点も恐ろしい。多様化し尽くし、不安に溢れた現代社会において、ついつい判断を曇らせてしまう瞬間のひとつやふたつぐらい誰にだってある筈だ。また、頭のきれる人でさえ、歳をとって認知症になってしまえば、(これまでの自分自身への過信もあって)大きな落とし穴にはまってしまうやもしれない。ちょうどスパムメールの如く、禿鷹側は相手がミスを犯すまで何度でも何度でも安全なアタックを繰り返すことが出来るが、攻撃を受ける側の私達は一度ミスっただけで大きな損失を被ってしまう。判断力に富み、体力や精神力も衰えていないうちはアタックに耐えられるだろうが、不幸に遭遇した時・心身が弱っている時・脳の認知機能が低下してきた時・喪黒福造が出てきそうな時などには、おそらく禿鷹どもに啄まれることになる。「弱っている者は肉と化す」という、この、むごさと容赦のなさと浅ましさ。私も、いつか啄まれるに違いない。
 
 だが、こうした酷さこそが、古来人の世に通底する原理原則であり、目を背けたくなるけれども背後に蠢く恐怖と苦痛であり、将来弱った自分達を襲うであろう宿命なのだろう。この、容赦無き娑婆世界において、彼らを禿鷹から遠ざけるには…あるいは私自身が禿鷹から身を守るには、どうすれば良いのか。
 

*1:障害者じゃなさそうなケースも混じっているような気もしますが…まぁ、細かいことは気にしないでおきます

*2:ちなみに、療育手帳A1〜A2クラスになると、金銭管理を親兄弟がまかなっていたり、収入が極めて限られていたりするため、借金を対象とするにはあまり向いていない。

*3:そんなものが漏れる事はまず無いと信じたいが、もしも介護保険の利用者情報の名簿などが漏れたら、オレオレ詐欺実行者にとって垂涎のアイテムになることと予測される。市役所や町役場のセキュリティしっかり!