シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

屈託の無いぬるオタ仲間達――賢くなくても楽しい日々

 
 彼らは生き生きしていて屈託がない。
 彼らは私よりも沢山の時間とお金をオタク趣味に費やしている。
 だが、私よりもオタク趣味への造詣が深いとは言えない。
 とはいえ、彼らは私よりも屈託無く伸び伸びとオタク人生を謳歌している。

 
 
 或るオタクコミュニティの仲間達と酒を呑みながらオタク談義に花を咲かせていると、彼らの有り様が羨ましくみえてくる事がある。彼らはぬるオタだ。つまり、オタクとしてぬるいスタンスでオタコンテンツと相対する人達だ。彼らはただ、今楽しいオタクコンテンツを楽しいままに消費している。オタク仲間内で優越感ゲームを繰り広げるわけでもなく、“女の子と付き合えない自分”に過剰な意味を見出すこともなく、とにかく楽しいものを仲間とワイワイ楽しむぬるオタ達。ぬるオタな彼らの内面に、強い葛藤を見出すのは容易ではない。“俺はオタだから”と気張るよりは、むしろ仲間同士で“俺は一般人”“お前は痛いオタ”というオタ刻印の擦り付けあいを予定調和的に楽しみつつも、自分達がオタと世間で呼ばれる人種である事をごく平然と受け容れ、和気藹々とオタ談義に花を咲かせている。
 
 オタな彼らが、いわゆる求道オタクとしてその道を突き詰めているかというと、そういうわけでもないようだ。彼らはゲームオタ&アニオタというカテゴリーに分類されそうな人々だというのに、ハルヒ・ひぐらし・東方といった流行モノには殆ど触れてないようだ(勿論、彼らが洋ゲー専攻オタというわけではない)。コミケには一応通っているものの、数年前に馴染みになった幾つかの絵描きさんの本を買う程度で、貪欲に新境地を開拓する性質でもない。ガンダムなんかは、宇宙世紀モノでとっくに時が止まっている。敢えて彼らの“専攻分野”を挙げるなら、ファイナルファンタジー11やコナミ音ゲー界隈*1がかろうじて挙がるぐらいだろうか。広く薄くオタク世界を渉猟するでもなく、深く狭く特定分野を掘り下げるでもない彼らのぬるオタ的日々。彼らの有り様を“動物化したオタク達”とか“ぬるオタどもの弛緩した日々”と小馬鹿にする向きも、あるかもしれない。
 
 「そんなぬるオタライフでいいの?」という問いかけに対して、彼らは淀みなく答える。「何がいけないの?」「楽しいんだからいいじゃん」と。別にオタク仙人にならなければならないわけでもない。別に脱オタして彼女をつくらなければならないわけでもない。無理してまで新しいオタクコンテンツを開拓する必要もない。既に彼らは十分楽しく、満ち足りている。偶々何かのきっかけで新しいアニメやゲームに出会ったら、それを仲間と一緒にワイワイ消費すれば楽しいじゃん、ということか。どれほど糞なゲームであろうと、どれほどヤシガニなアニメ*2であろうと、オタ仲間と一緒に「バカじゃねーの」と笑いながら弄れば全然楽しいわけで、コンテンツの質・量を強迫的に追い求めなければならない必然性は彼らの内には無い、ということだろう*3。彼らがぬるオタ的桃源郷に休らう為に最重要なのは、オタクとしての目利きの鋭さや技術ではなく、“いかに気のおけるオタ仲間とワイワイ楽しめるか”といった仲間同士の繋がりのほうのようだ。
 

 でも、こんなの当たり前なのかもしれない。オタク分野全体をどれぐらい見渡せたとしても、どれだけ専門的なオタ技能を身につけたとしても、それだけではオタクがは幸せになれるとはちょっと思えない。オタの幸不幸に直結するのは、オタとしての優秀−劣等なり高尚−低俗といった数直線ではなく、“どれだけ楽しく仲間達と付き合っていられるか”や“どれだけ葛藤少なくニコニコしていられるか”に違いない。『頭の良い』『視野の広い』『優秀な』は、『楽しい』『ニコニコした』『満足な』とは必ずしも一致しないし、時に相反することさえある。この事を思い返すにつけても、オタ界隈もやっぱ人間関係が大事だよなぁと思わずにはいられない。モテない事への葛藤もオタとしての変な後ろめたさも感じず、楽しくオタオタ出来るなら、それで彼らはもう勝ち組だし*4、そんなぬるオタコミュニティなら全然問題ないだろう。ぬるかろうが浅かろうが、自分の所属するコミュニティとオタ仲間達を大切にしていくってものだろう。
 

 ぬるオタかぬるくないオタかなんて、オタク個人の幸福にとっては実は本質的な問題ではなさそうだ。偉いオタクさんや、天井桟敷からオタク界隈を眺めている人のなかは、それが分からない人も多いかもしれないけれども、ぬるオタだから意味が無いとか、ぬるオタだから劣等だとか、そんなわけのわからない話にぬるオタさんが耳を傾ける必要はあまり無いと思う。“どれだけ楽しく有意義に日々を過ごせるか”“仲間と沢山の思い出をつくれるのか”といった事のほうが優先順位が高い限り。
 

*1:ポップンミュージックやビーマニといったコナミ音ゲー分野は、既に枯れまくった分野と言える

*2:注:ひどい出来のアニメ

*3:ひとつには、彼らがオタク趣味を仲間内の優越感ゲームの具材として用いていない、という事も重要そうだ。身内オタの間で優越感ゲームをやり始めると、ギスギスするし色々と忙しい思いを余儀なくされる

*4:ちょうど精神的な負け組であることが、負け組であることの唯一の定義だ - 分裂勘違い君劇場にも書いてあるやつのオタクバージョンだ