シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

愛想笑いしか出来ない人の予後

 

  • 「愛想笑いしかしない」ではなく「愛想笑いしか出来ない」

 
 愛想笑いしか出来ない人や、お互いに傷つかないような情報量皆無のやりとりに終始する人というのは、他者に影響を与える事が難しい。彼らは確かに悪影響をもたらさないかもしれないが、魅力的な何かをプレゼントすることもない(参考:シロクマの屑籠)。「ただ無害であること」を示して排除されないよう終始するだけの彼らを、弱者として交際リストから除外するのは実にたやすい。弱っちょろくて空気そのものみたいなどうでもいい存在で、わざわざ骨を折って時間をかけて話し合いたいという魅力を探すのが困難な対象。確かに、そんな奴と長時間毛づくろいをしたって、何の刺激もありやしないし、経験値効率(?)もよろしくない。空気人間じゃない人間と交際できるんだったら、そっちに移ったほうがよっぽど色々経験できる。
 
 しかし、親密になりたいと思う魅力が皆無な彼らなんだけど、彼らにはそれしか選択肢がないからこそ顔色を伺う処世術を選んでいるって事は忘れないようにしておこう。彼らは、愛想笑いのような「嫌われない為のコミュニケーションの盾」を構えることしか出来ない人なのかもしれない。おずおずとしか剣を振るえない、盾だけでコミュニケーションを行わざるを得ない弱いファイター*1。とはいえ、SNSや日常で愛想笑いしか出来ない所以は、“それが、彼らが他者に対して呈示できる一番マシな解だから”という切迫したものに違いないわけで、その処世術をやめろと言ってみたところでそうそう変更できるものではない。よしんば無理強いしてみたところで、コミュニケーションの「剣」の使い方のまずさや打たれ弱さ故に、たちまち衰弱してしまうような気がする*2
 

  • だから安易に「やめろ」なんて言えないです

 
 だから、愛想笑いしかしない人やグルーミングしか出来ない人に対して「それやめろよ」という人がいるし、確かにそんなんじゃ将来ろくな目に遭わないわけなんだけれど、彼らにとっては「盾を構えることしかできない水準」が精一杯であることも勘案したうえでアドバイスしなきゃいけないんだと思う。そして、そうした手駒の薄さやメンタル脆弱性までをも考慮した時、私は彼らの愛想笑いやグルーミングに対して「やめろよー」と声をあげにくくなってしまう。どういった機会に「剣を振るう」練習をしてもらえばよいのかってのは、なかなか難しい問題で、どうアドバイスして良いのか言葉に詰まる。ただ、もしも何かをアドバイスするとしたら、相手は「盾しか構えられない何らかの背景を持った人なんだ」という自覚のうえで、彼らが壊れないように配慮しながらやってくほかないんだろうな、とは言えそうである。いや、それが難しいんだけど。なにせ、外部からのそのアドバイス自体が指向性を帯びている以上、レーダーばかり発達した彼らは敏感に(助言者の)空気を読んで、愛想笑いを浮かべてしまいかねないわけで。
 

  • 彼らに「剣」を持たせたいと思うメリットなんて、どこの誰にあるのかな?

 

 第一、こんな面倒くさい“教育”を、配慮たっぷりにやってくれるお人よしなんて特別天然記念物のような存在に違いない。互いに空気読んでグルーミングに満足している人にわざわざ説教たれてコーピングの変更を促すのは面倒くさく、しかも説教する側の旨味がない*3。「剣」も知っているコミュニケーション者にとって、「空気を読みあってそれをなぞるだけの相手」は、つまんないか、搾取の対象か、戦場に疲れた時の休憩所のいずれかしかない。そんなどうでもいい相手orそのまま空気でいて欲しい相手に、わざわざ「剣」を持たせる為に骨折るメリットなんてどこにあるというのか。だから、頼み込まれでもしない限り、「剣と盾を持つ者」は「盾しか持たない者」に剣を与える為の努力はしないと読むのが正解だろう。現代都市空間においては、眼前の「盾しか持たない者」を鍛えるよりもどこかの「剣も盾も持っている者」を捜索するほうが遥かに容易いので(特に剣を持つ者にとっては)、そんな苦労よりも効率の良い手段は幾らでもある。どうせ空気人間には代わりは幾らでもいるんだから、疎遠になったところで執着したり未練を残すこともない*4。それに、変にアドバイスしてみたところで感謝されるどころか理解もされずに疎まれる可能性ばかり高いんだし、だったらそのままにしておくほうが良いってもんだ。
 
 このように、空気をなぞるだけ&愛想笑いだけの彼らは、効果的なアドバイスを貰うこともなく、これからも愛想笑いを浮かべ続ける可能性が高い。特にいい歳越えている場合は、ほぼ確定だろう。よって、「他者に働きかけて、相手の行動を自分を利するように調整する」という、コミュニケーションの「剣」の部分が欠如した人達は、これからも嘴のとれたホロホロ鳥のような人生を歩んでいく可能性が高いと私は推測する。唯一の例外は、「俺には剣が無い!これじゃヤバい!」と自覚したうえで革命を起こせる人だろうか?だが、能動性が後退し互いのリスクをひたすら回避するコーピングの彼らだからこそ、そのような革命に最も遠いわけで、やっぱり彼らは馴れ合いワールドをひたすら生き続ける可能性が高いように思える。
 
[補足]:私個人は、そのような空気人間とはプライベートレベルではあまり付き合わないか、限定した場面でのみ付き合うようにしている。よって、私もまた、そのような「他者への働きかけの乏しい人達」に説教したりアドバイスしたりする事は殆ど無い。ただし、職業上の状況においてそうしたほうが良いと判断される場合に限り、空気人間に(個別の)アドバイスを行うことは、ある。あるけれど、手取り足取りで剣を握らせるような上手いソリューションは結局呈示できないのが現状だ。
 
[補足2]:そういえば、「他者に働きかけて自分の適応を向上させるプロセス」が欠落したこういう人って、DSM-IVの回避性人格障害の診断クライテリアにかなり合致することに気がついた。ん?待てよ?この傾向って、愛想笑いして携帯電話でグルーミングしている人達だけに当てはまるものじゃないじゃないような気が...するぞ?!
 

*1:盾しか使えない要因としては、純粋な知的機能の問題や、幼少期からのコミュニケーション上の偏りや経験不足、などがあるのかもしれない。また、性格傾向、特に傷つきやすい自己愛的傾向や強い見捨てられ不安もまた、空気や他者に対する過剰なまでのしがみつきを生みやすそうである。

*2:或いは逆に、「剣」の加減を知らないままに、相手の心臓をザックリ刺してしまったり粉々になるまで切り刻んでしまったり。

*3:ただし、「お前らは空気の奴隷だ。去勢された豚だ。それにひきかえ、俺様は縦横無尽に剣を振るうことが出来る。どうだ、思い知ったか!」と優越感にひたって心的安定を図る、という意義はあるかもしれません。嫌な意義ですねー。

*4:ただし、肉体なりモノなりを提供してくれるという即物的価値を提供する空気人間となると、話はガラリと変わってくる。嫌な言い方をすれば、搾取の対象としてこれは最高の相手である。搾取する場合、相手が「剣」を持たないようにいかに操作するかが手腕を問われるところになるだろう。