シロクマの屑籠

はてなダイアリーから引っ越してきた、はてな村の精神科医のブログです。

「ゲーム脳」と類似の構造式の抗不安サプリメント達

 
 3/6に世田谷区民会館行われたという、森昭雄博士による「ゲーム脳」講演。これにまつわるエピソードはとても面白かった。特に、聴衆の熱狂的反応が非常に気になったので、それを色々と考えてみた。それが以下のテキストだが、
 
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 書き終わってから、改めてはてなブックマークをチェックして回ってみると、森博士の詐欺師っぷり・似非科学者っぷり、信者達の異常性と「ゲーム脳脳」による悪影響を懸念するテキストが多いようである。それらは当然あって然るべきだし、森博士の害悪は計り知れないので、どんどん声をあげていただきたいと思う。
 
 
 ところで、上のリンク先テキストにも紹介した通り、「ゲーム脳信仰」は精神疾患に伴うabnormalな症状ではない。防衛機制は、心的ホメオスタシスを守る為のnormalなreaction(反応)であって、異常なものではない。条件さえ整えば誰にでも起こりえるし、現に起こっている。いや、起こっている、という表現は何かまずいもののような印象を与えかねないので、「機能している」と表現するのが適切かもしれない。よって、「ゲーム脳」そのものが出鱈目であっても、「ゲーム脳信仰」に漬かっているという親御さん達の反応は、(子育て不安・葛藤に対する)正常かつ機能的・適応的なものである事は十分に理解されなければならない。異常で、非機能的・非適応的と断ずるのは危険である*1。不安・葛藤を外在化するサプリメントに飛びつくことは、私達にも幾らでも発生し得る反応だし、(統合失調症の幻覚妄想と異なり)私達にも了解可能な反応だともいえる。決して他人事ではない。
 

  • 「ゲーム脳」以外の、不安・葛藤を吐き出すツールの御紹介

 
 正常な反応だからこそ、誰にでも起こる。正常な反応だからこそ、同じ構造があちこちでみられる。「ゲーム脳」という抗不安サプリメントにまつわる現象と同じ構造のものを、幾つか紹介してみようと思う。あなたは何種類ぐらい“内服”していますか?
 
 1.「ゲーム脳」

 不安・葛藤を投影する対象としてゲーム・携帯電話を用いる防衛機制の展開法。主として子育てに関する不安・葛藤の主体者にみられる。彼らにとって、ゲームは文化ニッチが異なり、得体の知れない存在で、見下すに足りるモノとされている。ここに森博士の権威性が加わる事によって、「ゲーム脳」は(あまり深く考えたがらない人にとって)安心して消費できる抗不安サプリメントとしての性能を獲得した。
 

 2.「嫌韓厨」

 朝鮮半島や韓国人・朝鮮人は、不安・葛藤を投影する対象として最適な存在である。近いようで遠い存在で、文化ニッチが異なり、得体が知れない。年配の方のなかにはまだまだ朝鮮民族を馬鹿にしている人も多いし、北朝鮮の横暴があるので、良心を痛めることなく(或いは正義感の高揚を伴って)悪者扱い&ゴミ扱いする事が出来る。「○○なのは朝鮮のせい」という構造で、かろうじて心のホメオスタシスを保っている人を皆さんもみかけませんか?
 

 3.「フィギュア萌え族」

 社会不安を投影する対象としてのオタク叩きもまた、なかなか優れた抗不安サプリメントであり、だからこそマスコミにとっては魅力的な存在である。オタク文化の作法を知らない人達にとって、オタク達は文化ニッチが異なりすぎ、得体が知れず、そのうえなんとなく馬鹿にしてもよさげな雰囲気が漂っている。幼女好きだし、ファッションも疎かにしているし...といった背景も、叩くには好都合といえる。大谷昭宏氏による、「フィギュア萌え族」叩きなどは、「ゲーム脳」叩きと殆ど同様の構造を持つ典型例と言えるだろう。
 

 4.ナチスによる「ユダヤ人排斥」

 ちょっと古いが、ナチスによるユダヤ人排斥が燃え上がった要因の一つとして、ゲーム脳叩き類似の構造に私は着目してしまう。近いようで遠い存在、文化ニッチの隔たり、(ユダヤ教の排他性とも関連しているであろう)得体の知れない感じ。そのうえ金銭に恵まれてはいても見下すべき存在とされている。ここに魅力的な指導者が「○○なのはユダヤ人のせい」と煽れば、葛藤や不安に耐えられない人から順番に、この抗不安サプリメントに手を伸ばしてしまうだろう。ユダヤ人排斥の問題は、社会問題としてのスケールと深刻さにおいて「ゲーム脳」と異なるものの、不安・葛藤を外在化するサプリメントとしての構造は非常によく似ている。
 

 5.「悪いのは女性のせい」

 ちょっと風変わりなところでは、不安・葛藤を女性に対して投げかける人もいる。男女交際に関する不安・葛藤の主体者にみられやすい。彼らにとっては、女性もまた彼方の人であり、得体が知れない存在である。もし、女性を自分よりも(論考能力や肉体能力に)劣ると見下していて、なおかつ自分を選んでくれない存在として憎んで*2いるような場合には、ゲーム脳に類似した構造が出来上がり、抗不安サプリメントとして消費される余地が生まれてくる。権威性はなかなか獲得しにくいものの、同じような境遇の男達が集まる事によって「信じても大丈夫」という後ろ盾を確保し、そこから熱狂的な信者が生まれてくる姿を見かけることがある。
 

  • こんな具合に

 
 このように、ゲーム脳と同様の「抗不安サプリメント」的構造を持った現象は千差万別、至る所に時代を問わず認められる。いずれの現象も、

・第三者的立場から見たとき、客観性を度外視しているようにみえる
・葛藤や不安が強ければ強いほど深くハマりやすく、抜けにくい
・対象は、文化的に距離があって得体が知れず、見下しやすいほうがいい
・権威性や所属感などの、「信じちゃってよさそうだわね」と無思考に走らせやすい要素も必要
・正面きって客観的批判をしたところで、根っこの不安や葛藤がある限りは相手にして貰えない
*3
 
 といった特徴を持っている。端的に言って、「ゲーム脳」信者を馬鹿にして楽しんでいる人が「嫌韓厨」だった場合、結婚して子育てに入った時に不安・葛藤を抱えていれば(そしてその時まで何の人間的成長・蓄積もなかったならば)容易に「○○脳」信者に化けることが出来るだろう。たまたまゲーム嫌いな人なら、掌をひっくり返して「ゲーム脳」信者にすらなるかもしれない。第三帝国に住んでいたら、ユダヤ人の商店に投石していた事と推定される。これらの抗不安サプリメントは対象こそ異なれど類似した構造をもっており、対象を馬鹿にして排斥する事を通して自分自身の葛藤・不安を緩和(防衛)する事が可能になる。第三者からみて荒唐無稽で客観性に乏しいハマりかたをしていたとしても、それが当人の心的適応を維持するうえで必須ならば、それらはやはり必要なサプリメントなのだろう。そして、煽動家や詐欺師達は、そうしたココロの隙間を埋めるのに好都合なサプリメントを鋭く見抜き、混迷を撒き散らしては暴利を貪るのである。
 
 社会問題としては実に深刻で陰険なこれらの現象は、十分考察し何とか軽減させなければならないというのは散々言われている事だし、私も強く同意する。しかしながら、マクロではなくミクロのレベルにおいては、「ゲーム脳」なり「嫌韓」なりは当人の葛藤を防衛し、心的ホメオスタシスを維持する為の重要な機能を担ってしまっている。幻聴やてんかん発作と異なり、「○○脳」信者になるという事はは不要な症状ではなく必要な機能であり、ここが非常に厄介なところである。もし「社会問題解決」というマクロのソリューションと、「不安や葛藤の解消」というミクロの適応維持が衝突した時、特に葛藤や不安の強い個人は激しい抵抗を示すだろう。「ゲーム脳信者」をみた時、多くの人はトンデモ科学信仰の異常性に注目してしまいがちだが、むしろ私はその(心的ホメオスタシスを防備する)機能性に注目し、故にこそ深く憂慮する。人間はいつでも「○○脳信者」になる事が出来るし、「ゲーム脳」に類似した構造はどこでも見かけることが出来る。次は、あなたが信者になる番かもしれない。あるいは既に、あなたは(オタク叩きなどの)何らかの抗不安サプリメントを消費して心のバランスを保っているかもしれない。それは、マクロな視点では憂慮すべき事かもしれないが、ミクロな視点ではあなたに必要不可欠な事かもしれず、だからこそ厄介である。必要なモノを取り上げるのは、不要なモノを取り上げるよりも遥かに難しい事だから。
 
参考:OCNブログ人のサービス終了について|OCN ブログ人
参考:森昭雄博士の講演「テレビゲームと子どもの脳」@世田谷に行ってきました | せんだって日記 - 楽天ブログ
 

*1:現象としての「ゲーム脳信仰」はやはり異常には違いない。だが、防衛機制による葛藤に対する反応としての「ゲーム脳信仰」は、精神病的ではなく正常な反応である。森博士は、人間の心的ホメオスタシスを維持する防衛機制という機能を逆手にとって突いてきたので、耐性の無い沢山の人に荒唐無稽な理論を信じさせることに成功したわけなのだ。古来、ペテン師や手品師や魔術師は、こうした防衛機制のセキュリティーホールを突いてくるのが得意と相場が決まっている。

*2:一方で熱烈に求めて

*3:リンク先テキストにも書いたけれど、不安や葛藤そのままに抗不安サプリメントを放り出せば、それによって何とか心的ホメオスタシスを保っていた当人の心的適応は重大な脅威を蒙る事になる。防衛機制が正常に働く程度の人の場合、「ゲーム脳」などの抗不安サプリメントを放り出すのは、 A.他の抗不安サプリメントが見つかった時 B.客観的説明のほうが不安や葛藤を解消し得る時 C.根っこにある葛藤・不安が軽減されるか、当人の葛藤・不安に対する耐性が上昇した時 の三つに限られている。A.を促すのはあまりお勧め出来ない。B.を促すには知的機能の向上や考えるトレーニングが必要なのかもしれない。C.はマクロまたはミクロの様々な解決法があるだろう。だが、どれも難しい