シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

はじめてのおるすばん「騒動」を回想する

 
 先ほど、オタクコンテンツの処女性について書いていたら、色々なコメントがついていた。そのなかに、「はじめてのおるすばん ゲーム開始前に主人公の毒牙にかかりヒロイン非処女ですよ?」という指摘があって、『はじめてのおるすばん』が発売された頃の騒動を思い出した。せっかくなので、当時を回想して書き残しておこうと思う。
 
 
 『はじめてのおるすばん』は、2001年にZEROから発売された、幼女エロゲー中興の祖とも言うべき、物議をかもしたゲームである。例えば登場キャラクター・しおりちゃんのスリーサイズは、

【サイズ】
  身長:ひくい(133cm)
  体重:かるい(29kg)
  B:ぺったんこ(63cm)
  W:ほそい(51.8cm)
  H:うすい(68cm)

http://zero.product.co.jp/products/rusuban/

 となっている。これまでの幼女キャラクターとは一線を画した徹底した造りは、発売前からかなりの期待を集めた…わけだが。発売直後、ヒロイン達は『非処女』だったという事が判明し、一騒動になってしまった、というわけだ。ちょっと長いけど、以下に当時の『バーチャルネットアイドル・ちゆ12歳』の記事を抜粋する。
 

そんな幼女幼児体型の女性といっしょにおるすばんしたい!という人たちに支持され、「はじめてのおるすばん」は年末エロゲー商戦のダークホースとして急浮上しました。
 
 2chのスレッドでは、こんな発言が飛び交います。
 
>今年最後にして最強のロリゲの予感!
>CGは、細かいところまでぷにぷに感が出ててたまらんですな
はは…ははは!これは買うしかないな!これは!
 
 ところが、12月28日の発売を直前に控えた頃。一足早く入手した人たちの口から衝撃的な話が語られます。双子の姉妹が、ゲーム開始時点で既に非処女だというのです。
 2chのスレッドに、戦慄が走りました。
 
2人とも処女に決まってるよ。みんな何おびえてるんだい?
>俺だって信じたくはない…
嘘ダ嘘だ!!怖いこといってオレみたいな小市民を恐怖に突き落としてナニが楽しい!!
 
 しかし、噂は本当でした。
 
>今日届いたけど…非処女だったのがツライです。
処女だと信じていたのに…。
>当然初体験シーンがあって、何日もHするうちに最初は痛かったのが慣れてきて段々と快楽に…というストーリー展開を期待していたのに。
 
 そうして落ち込んでいる中、さらに「初体験の相手は主人公ではなく他の男」という噂まで。2chのスレッドは、首吊りアスキーアートで埋め尽くされます。
 …まあ、結局そちらはデマで、「2人は非処女だが、初体験の相手は主人公」が本当でしたけれど。
 
 なお、「初体験の相手は主人公」は、多くの方にとって最後の絶対に譲れないラインだった模様です。
 放置ぷれいさんも、双子が他の男にはヤられていないと知り、「涙が出るほど嬉しい」と述べておられます。
 
 
(注:強調文字は、ちゆ12歳さんの原文のままです)

 
 幸い、『はじめてのおるすばん』はエロゲーとしての出来映えそのものは十分なものだったため、この非処女騒動は沈静化してき、セールスそのものも順調に推移したと記憶している。しかしこの「騒動」を通して、キャラクターが処女か非処女かの“設定”次第で、キャラクター評価や作品評価が大きく左右されることがある、という事が改めて認知されたのであった。この、“処女か非処女か問題”は、その後2004年の『下級生2』のヒロイン“柴門 たまき”が非処女設定だった際にもクローズアップされ、『下級生2』という作品そのものに対するオタク達の評価にも少なからぬ影響を与えた。いわゆる“つるぺた幼女系”以外の場合でも、“処女か非処女か問題”が作品の評価や売れ行きに影響を与えることがあることが、この騒動を通して強く印象づけられた、のである。
 
 

そんなこんなで

 
 以上、はじめてのおるすばん「騒動」について思い出してみた。あの時はネットや2chの内側だけでなく、ローカルなレベルのオタク仲間との間でも結構な話題になっていたように記憶しているが、僕は幼女属性があまり得意ではなかったので、蚊帳の外というか、騒いでいた人達の心境がいまいちピンとこなかった。ちなみに、以後2003年頃ぐらいまで幼女ブームが続き、ここ数年でようやく幼女も一段落してきたかな、というのが僕の印象。
 
 
 【関連:】はじめてのおるすばん「騒動」について:ちゆ12歳記事「はじめてのおるすばん」騒動 - ちゆ12歳
 【関連:】カトゆー家断絶さんも、当時はこんなレビュー書いてました:カトゆー家断絶
  
 
 

でも、市場淘汰は処女性を想起しやすいキャラを選んできたわけですよ

 
「オタク」を主語にするな。 - Something Orange
 
 僕が思うに、「オタ界隈の美少女キャラクターは、処女性を連想させやすい傾向がある」と思う。
 
 
 上のリンク先でkaienさんは、“「オタクは処女しか受け付けない」なんて決め付けないで欲しい”、と仰っていたが、全くその通り。オタクが処女性の高いキャラクターしか受け付けない、というのは間違っている。たとえ白飯が一番好きという人でも、ライスコロッケやお好み焼きもおいしくいただけるように、処女性を想起させやすいキャラがストライクゾーンの人でも、処女性を意識しないキャラクターやストーリーを一通り楽しめることは出来る*1。極論を言えば、アダルト美少女コンテンツではつるぺた幼女しか受け付けない人でも、草薙素子さんを格好いいなーと思って眺めることぐらいあるわけで、オタク一人一人のキャラクター嗜好も、一人あたりのキャラクター嗜好も、多種多様と言わざるを得ない。
 
 ただ、オタク界隈の美少女キャラクター達が日夜生まれては飽きられていく現状のなかで、処女性を想起させる「属性」を与えられたキャラクターが、メインストリームを担っている、とまでは言い切っても良いんじゃないか。
 
 最近の人気ライトノベル・人気アニメ・人気ギャルゲーといった分野のなかで、処女性を想起させるような「属性」をまとわりつかせていないキャラクターが、どれぐらいいるだろうか?いや、いないわけではない。『灼眼のシャナ』マージョリーにしろ、『CLANNAD』の早苗さんにせよ、確かに処女性を想起させるような属性とは無縁ではある。しかし、それらのキャラクターが主役級だったりメインヒロインだったりする作品は、全体のなかで何割あるだろうか?また、一つの作品の女性キャラクターのなかで占める割合はどれぐらいだろうか?昨今の萌えキャラ事情に詳しい人なら、即答できるだろう。「処女性を想起させないキャラクターは、正直少数派である」と。いないことは無いが少なく、しかも、ともすれば「メインの萌え担当」ではないかのような役回りを与えられている。
 
 じゃあ、どういうキャラクターがメインヒロインをつとめているのか、というと、女子高生の制服を着たキャラクターだったり、幼児体型のキャラクターやいかにも幼いキャラクターだったりするわけだ。あるいはツンデレキャラクターのように、さも恋愛を知らないかのような振る舞いも珍重される。エロゲーの場合はさらにエロシーンで、やれ血が出た出ないで、偏執的な描写が書き連ねられることもある。キャラクターに与えられる属性をみるにつけても、「ゴスロリ系の人形さんのような格好」「ツインテール」「不慣れなメイド」などなど、処女性を想起させ膨らませるのに都合の良いシンボルが大量に溢れている。
 
 オタク個人の嗜好がどうあれ、オタク界隈の美少女キャラクターのメインストリームは、明らかに、処女性の高いものに収斂進化してきている。これは殆ど動かぬ事実だと思う。いわゆる「萌え」キャラクターの原型が出来上がったのが1990年代前半〜中盤だと思うけれど、以後、『はじめてのおるすばん』が出た2003年〜現在に至るまで、コンテンツ消費者による厳しい市場淘汰を経れば経るほど、むしろ処女性を想起しやすいキャラクターがますます大量生産されるようになってきているのではないか?と思わずにはいられない。もし、処女性がそれほど重要でないなら、処女性を連想させる「属性」がここまではびこることは無かったと思う*2
  
 オタク界隈の美少女キャラクター達の趨勢をみる限り、統計的・確率的には、オタクコンテンツに出てくる美少女キャラクターはやはり未成熟や処女性の傾向が強いと思う。統計的傾向と個々の多様性は混同されるべきではないので、すべてのオタクが未成熟や処女性に惹かれているとは僕も思わないし、未成熟や処女性を意図的にかき集めているオタクはいっそ少ないぐらいだろうとも思っている。けれども、市場淘汰は、未成熟で処女性を連想しやすいキャラクターを選んだ、とまでは言ってしまって構わないのではないだろうか。そして、その市場淘汰に参画し、自分達の支持するキャラクターの含まれるコンテンツにお金を払ってきたのは、ほかでもない、僕達オタク自身だということも記憶に留めておきたい。
 
 

ちなみに、処女ではなく処女性 と書いていますのでご注意を。

  
 処女性、のニュアンスについては女はそこにはいない。女はどこにもいない。 - Ohnoblog 2で大野さんが用いているものと殆ど同じものを想定しています。
 

*1:注:id:pdhさんのご指摘を受け、ここの喩えはより文意が通りやすいよう、7/4の20:00に若干書き換えました。ちなみに、もとの文章についてはhttp://d.hatena.ne.jp/pbh/20080704/1215140668で、pdhさんが引用しています。

*2:「それはオタクが低年齢化しているから、だから幼い美少女がメインなんだよ」と言う人もいるかもしれないし、事実若い世代のコンテンツ消費者も増えてはいるだろうが、だからと言って現在のライトノベルの主要購読者層が十代前半男子だとは到底思えない。エロゲーや萌えアニメにしても同様である。店内で見る限りでは、むしろ、二十代後半〜三十代に入るような、かなり歳を経た購入者を相当に高い割合で見かけるようにかんじられる。購入者の年齢層から言って、それらの作品が、人口の少ない若い世代だけでなく、もっと上の世代をもカバーしたうえで、そのようなコンテンツ仕上がりになっている点は、念頭に置いておくべきだろう。